エアライン — 2020年8月1日 00:25 JST

ANAベテラン整備士、創業時のヘリ移設で若手に創意工夫伝える

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 「いまは世界共通のマニュアル通り整備することが求められており、私たちも彼らをそう教育しています」。全日本空輸(ANA/NH)のベテラン整備士、伊藤剛さん(64)は航空機整備の現状をこう説明する。1974年入社の伊藤さんは、ANAの社内専門性認定制度「マイスター制度」の最高位であるグループマイスターに認定され、数多くの後進を育成してきた。ANAグループには約4800人の整備士が在籍しており、伊藤さんと同じドック整備部門の整備士はこのうち約1000人。同部門でマイスターに認定されているのは、1000人のうち伊藤さんを含めわずか4人だ。

ANAブルーベースに運び込まれるANA創業時のヘリコプター「ベル47D-1」2号機=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 一方で、マニュアルには書かれていない作業を、現場で急きょ対処しなければならなくなった場合、決められた通りに作業することに慣れすぎると、柔軟な発想を妨げることにもなりかねない。「このヘリコプターのマニュアルもそうですが、昔のマニュアルはわりと大ざっぱ。あとは現場の整備士が考えてやるという感じでした。しかし、いまは書かれたとおりにやれば作業できるし、メーカーはその手順を守るように求めています」と、伊藤さんは話す。

 6月30日、ANA創業時のヘリコプターが東京・下丸子の同社施設から大型トラックで、羽田空港近くにあるグループの総合訓練施設「ANA Blue Base(ABB、ANAブルーベース)」に運び込まれた。2019年4月から運用を始めた最新の訓練施設で、これまで点在していた訓練施設を集約するものだ。その移設作業に伊藤さんは若手を中心とする9人の整備士とともにかかわり、普段の整備作業とは違った創意工夫のコツを伝えていた。

グループマイスターとして若手とヘリ移設作業に携わったANAの伊藤剛さん=20年6月29日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

初の商業飛行で黄色に

 ANAの前身、日本ヘリコプター輸送(日ペリ)は、終戦から7年が過ぎた1952(昭和27)年にベル・エアクラフト(当時)から2機のヘリコプター「47D-1」(登録記号JA7007、7008)を購入。企業の宣伝飛行や遊覧飛行、NHKの空撮などを行った。ANA便にはIATA(国際航空運送協会)の2レターコードで「NH」が付くが、日本ヘリコプター輸送が由来だ。

ANAブルーベースに移設された創業時のヘリコプター「ベル47D-1」2号機=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 このうち2号機は、同年12月25日に日本へ到着し、1970年8月23日に退役後は東京・秋葉原の交通博物館へ1973年9月20日に寄贈された。その後、2006年5月14日に同館が閉館し、ANAが安全教育施設「ANAグループ安全教育センター(ASEC: ANA Safety Education Center)」を2007年1月に開設したことから返還が決まった。

 2008年11月29日に交通博物館で2号機を解体し、翌30日にASECがある東京・下丸子の教育・研修施設「ANAトレーニング&エデュケーションセンター(ANATEC)」で組立作業が行われた。そして、訓練施設がABBに集約されることに伴い、安全や創業時の象徴として2号機をABBへ移すことになった。

 本来は紺色の機体だったが、初の商業飛行が森永製菓のキャラメルの宣伝であったことから黄色く塗装され、今回ABBでも黄色のまま展示することになった。輸送時に外されたスキッドなどには、本来の色とみられる紺色の部分があった。ANAによると、日本に現存するヘリコプターでは最古のものだという。

 伊藤さんは前回2008年の移設も担当したが、当時一緒に作業した人たちは他部署へ異動したり、退職しており、今回の作業では伊藤さんがただ1人の経験者となった。

ANAブルーベースに移設された創業時のヘリコプター「ベル47D-1」2号機の状態を確認する伊藤さん=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 今回伊藤さんと移設作業を担当した、ANAラインメンテナンステクニクスの松本俊太さん(26、2015年入社)は、ボーイング737型機の一等航空整備士資格を持っており、普段は運航便の整備を行っている。

 伊藤さんと同じドック整備部門から参加した福島一志さん(25,2018年入社)は、社内資格取得に向けて日々作業に従事している。松本さんは「普段は多くても2人で作業するので、チームワークの大切さを感じました」と話し、初めてヘリをさわったという福島さんは「基本的には飛行機と一緒で、それほど変わらなかったです」と感想を述べた。しかし、いまの航空機は電子制御の部分が増えており、すべてが機械的な連動で動く2号機の分解組立は2人にとって新鮮だったようだ。

 伊藤さんは「いまは交換作業だけで、修理は専門部署がやります」と、かつての航空機整備からの変化を指摘する。このため、今回若手を中心にヘリの組立を経験してもらうことで、柔軟な発想が求められた時に対応できる整備士に育って欲しいという思いもあったようだ。

 実際、組立作業で若手が難儀する中、作業を見守っていた伊藤さんは、工具を組み合わせれば対処できるといったアドバイスを即座に与えていた。

 「社内では創業時を知らない人が増えています。僕でも25年くらい経っての入社です。(ABBに2号機を置くことで)日ペリからANAが始まったことを再認識してほしいですね」と、無事ABBへの移設を終えた2号機を前に思いを語った。

*写真は37枚。

ANATECで解体される創業時のヘリコプター「ベル47D-1」2号機==20年6月29日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

若手整備士の解体作業にアドバイスする伊藤さん=20年6月29日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

メインローター・マストの取り外し作業を見守る伊藤さん=20年6月29日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

搬出可能な状態になった2号機=20年6月29日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

解体作業を終えて搬出を待つ2号機=20年6月29日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANA創業時のヘリコプター「ベル47D-1」の整備マニュアル=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANA創業時のヘリコプター「ベル47D-1」の整備マニュアル=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANA創業時のヘリコプター「ベル47D-1」の整備マニュアル=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

大型トラックでANATECからANAブルーベースへ移送されてきた2号機=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANAブルーベースで大型トラックからクレーンで持ち上げられる2号機=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANAブルーベースで大型トラックからクレーンで持ち上げられる2号機=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANAブルーベースで大型トラックからクレーンで持ち上げられる2号機を見守る伊藤さん=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

NAブルーベースにクレーンで運び込まれる2号機=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANAブルーベースにクレーンで運び込まれる2号機=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANAブルーベースにクレーンで運び込まれる2号機=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANAブルーベースにクレーンで運び込まれる2号機=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANAブルーベースにクレーンで運び込まれた2号機=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

2号機の移設作業に携わった松本さん(左)と福島さん=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANAブルーベース館内をゆっくり運ばれる2号機=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANAブルーベース館内をゆっくり運ばれる2号機=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANAブルーベースで組立が進む2号機=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANAブルーベースで組立が進む2号機=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANAブルーベースで2号機を組み立てる整備士たち=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANAブルーベースで2号機を組み立てる整備士=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANAブルーベースで2号機にローターを取り付ける整備士たち=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANAブルーベースで若手整備士とともに2号機の組み立てを進める伊藤さん(手前)=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

操縦桿を操作し組立状況を確認する伊藤さん=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANA創業時のヘリコプター「ベル47D-1」の機内=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANA創業時のヘリコプター「ベル47D-1」の機内=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANA創業時のヘリコプター「ベル47D-1」の機内=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

組立作業が終わった2号機=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANAブルーベースに移設された創業時のヘリコプター「ベル47D-1」2号機=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANAブルーベースへの移設作業に携わった伊藤さんらANAの整備士たち=20年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

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