新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、航空会社でもテレワークの導入が進んでいる。日本航空(JAL/JL、9201)では、約7000人にのぼる客室乗務員が今後求められるサービスが何かを改めて考え、必要なスキルを磨いていく「テレワーク教育」を4月から受講している。全員が所持するタブレット端末「iPad mini 5」を使って自習教材に取り組んだり、JALが全社的に使用しているビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」も取り入れている(関連記事)。
JALの客室乗務員は、国内線や国際線に乗務したり、国際線のファーストクラスを担当する際に必要な社内資格を取得する訓練を受けるほか、サービスレベルを向上していくための教育を受講している。客室乗務員の教育プログラムを立案・運用するJAL客室本部 客室品質企画部の岡部有里マネジャーによると、新型コロナウイルスの影響で現在も国際線に乗務する資格を新たに取得するための訓練は止まっているが、すでに乗務している客室乗務員のサービス能力向上を目的としたブラッシュアップ教育は、Zoomを活用して5月のゴールデンウイーク明けから実施しているという。
—記事の概要—
・2人のファシリテーター
・NY行きを3便体験
2人のファシリテーター
JALの客室乗務員は、入社後の新人訓練が終わると国内線の乗務からスタートする。乗務開始1年から2年で国際線に乗務する資格を得て、3年から4年で国際線ファーストクラスを担当するための資格を取得する。岡部さんによると、JALの客室乗務員のブラッシュアップ教育は3種類あり、1つ目が国内線の乗務開始から約4カ月後に実施する新人向け、2つ目が国内線から国際線移行後6カ月後のもの、3つ目が国際線ファーストクラスの資格取得後6カ月後のものがあるという。今回JALは、ファーストクラスの有資格者向けブラッシュアップ教育の様子を報道関係者に公開した。
訓練ではインストラクター(教官)が指導するが、ブラッシュアップ教育では受講生が自ら気づき、サービスの仕方を導き出すよう、「ファシリテーター」が講義をリードしていく。
ブラッシュアップ教育は、これまでは羽田空港の訓練施設にある客室モックアップで、ファーストクラス担当者向けは約24人の受講生を対象に実施してきた。オンライン教育では、Zoomを使って約16人が参加。ファシリテーターは2人で、実際の運航便では客室の責任者を務める「先任客室乗務員」の資格を持つマネジャー職者と、ブラッシュアップ教育を半年から1年程前に受講した若手の客室乗務員が担当する。
「管理職だけでは受講生が将来のキャリアなどを想像しにくいですが、少し前を行く先輩であれば、自分の将来像を描きやすいです」と、岡部さんは狙いを説明する。白いジャケットを着用した先任客室乗務員のファシリテーターがノートパソコンやiPadのカメラに向けてサービスの手本を示し、Zoomで参加する受講生には乗客にどのような声がけをするかをファシリテーターが問いかけていく。サポート役となる若手の客室乗務員も受講生に代わってモックアップ内で実演し、どういうサービスの仕方が良いかといった意見を受講生に問いかける。
ファーストクラスのオンライン教育は1日で完結するもので、受講時間は午前9時から休憩を挟んで午後5時30分まで。朝はリーダーシップやファーストクラスの付加価値などを学び、昼から夕方にかけてファシリテーターがモックアップでサービスの仕方を伝授するロールプレイなどが行われる。
NY行きを3便体験
取材した際は、ニューヨークへ向かう便を想定し、約12時間のフライトを40分のロールプレイで再現していた。しかし、このロールプレイは1回ではなく、午前の事前学習、午後の日本人客のシナリオ、外国人客のシナリオと、受講生はファシリテーターとともにニューヨーク行きを3便経験することになる。ファシリテーターが課題を出したり実演した後は、受講生が自分のサービスを考え、指名されると全員に対して発表する流れになっていた。
JALの国際線ファーストクラスは、長距離路線用機材のボーイング777-300ER型機に1便あたり8席あり、先任客室乗務員を含む3人でサービスする。このうち1人は「ギャレー(厨房設備)」の担当で、機内食の盛り付けなどを担当している。
ロールプレイは、乗客が搭乗するシーンからスタート。ウエルカムドリンクを提供しながら乗客がどのように機内で過ごすのかや料理の好みなどを感じ取り、ギャレーでほかの客室乗務員に共有する。その後は前菜やワイン、メインディッシュの提供を想定したシナリオに対応し、食事後の航行中は乗客の希望に合わせて機内エンターテインメントの説明やバー、青竹踏みなどのサービスを紹介する。最後は搭乗時に預かったジャケットなどの衣類の返却と、搭乗に対する御礼を述べて終了する。
ワインを提供する際は、どのくらいの角度で注いだらよいかや、適量がどの程度なのかが受講者にわかりやすいよう、ファシリテーターがグラスに注いだ水が見えるよう、カメラにグラスを近づけて説明していた。
JALは新型コロナウイルスの影響で、国際線が最大9割、国内線も7割が運休・減便となった。大幅な運休で客室乗務員の乗務は激減したが、4月からテレワーク教育をスタートさせ、サービスだけでなく英語力の向上などのカリキュラムを組んできた。岡部さんは「ロールプレイでは、テレワークで覚えた英会話を活用しています」と、相乗効果に期待している。オンライン教育ではアンケートをとっており、受講者の要望を反映して改善してきたという。
新人向けや国際線移行者向け、ファーストクラス資格保持者向けの3つのブラッシュアップ教育は、今年度は1800人の受講を予定しており、開講したゴールデンウイーク明けから6月末までで3つの講座合わせて650人が終える見通し。
岡部さんによると、来年度はZoomをどのように活用するかはまだ決まっていないが、「自分の表情や同僚の表情を見ることができます。Zoom導入の効果をアンケートで知ることもあります」と、モックアップでの対面教育とは違ったメリットがあるという。
新型コロナウイルス収束後も航空需要の見通しは不透明だが、激化する競争に備えた準備が進んでいる。
*写真は12枚。
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