MRJ, エアライン, 機体, 解説・コラム — 2020年6月16日 09:43 JST

三菱航空機、海外拠点縮小も「スペースジェット」変えず 7月新体制、川口氏がチーフエンジニア昇格

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 三菱重工業(7011)傘下で国産初のジェット旅客機「三菱スペースジェット(旧MRJ)」を開発中の三菱航空機は6月15日、新体制と役員人事を正式発表した。共同通信が12日夜に報じたもの。海外の3拠点は1カ所に集約し、社員数も段階的に現在の約半数となる700人程度に削減する。2018年以降開発を主導してきたボンバルディア出身のアレックス・ベラミーCDO(最高開発責任者)は、6月30日付で退職する。また、2019年6月にMRJ(Mitsubishi Regional Jet)から変更した「スペースジェット」の名称はそのまま使用する。

海外拠点はモーゼスレイクに集約する三菱航空機。写真はモーゼスレイクの格納庫に駐機中のスペースジェットの飛行試験3号機(左)と2号機=19年12月 PHOTO: Kiyoshi OTA/Aviation Wire

—記事の概要—
海外拠点も縮小
組織内に温度差か

海外拠点も縮小

 新体制では、米ワシントン州にある米国の飛行試験拠点「モーゼスレイク・フライトテスト・センター(MFC)」で副センター長を務めてきた川口泰彦氏が、チーフエンジニア兼技術本部長の執行役員に7月1日付で就任する。川口氏は三菱重工と三菱航空機で設計に35年携わっており、米国での飛行試験で中心的な役割を果たしてきた。

2月のシンガポール航空ショーには三菱スペースジェットのモックアップや模型を出典した三菱菱航空機のブース=20年2月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 三菱航空機を去るベラミー氏は、ボンバルディアで新型機Cシリーズ(現エアバスA220型機)の開発に携わり、2018年以降はスペースジェットの開発をCDOとして取り仕切ってきた。しかし、社内ではベラミー氏ら海外から招かれた開発陣と、従来から携わってきた社員の間で意見の食い違いがあったという証言もあり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による需要減退を契機として、体制刷新を図る狙いもあるようだ。

 県営名古屋空港内に本社を置く三菱航空機の社員数は、開発やマーケティングなど約1500人。同社によると段階的に縮小し、半数程度に抑える方向で検討しているという。削減する社員は三菱重工の他部署へ移すことを前提に、組織再編を進めるとみられる。

 海外の拠点については、ワシントン州シアトル近郊のレントンにある米国法人の本社と、カナダのモントリオールにある開発拠点は事実上閉鎖となり、モーゼスレイクにあるMFCに集約する。三菱航空機では、北米拠点について「統合と縮小」と説明している。

 役員体制は、今年4月に就任した丹羽高興(にわ・たかおき)社長が陣頭指揮を執り、企業運営は桝谷啓介執行役員、開発・技術全般は立岡寛之執行役員が補佐する。前社長の水谷久和氏も、これまで通り会長として丹羽社長を支えていく。新体制では川口氏がチーフエンジニアに就任するが、CDOのポジションは空席のままとなる。

組織内に温度差か

 スペースジェットは、2019年6月にMRJから名称を改めたリージョナルジェット機。MRJ時代のラインナップは、メーカー標準座席数が88席の標準型「MRJ90」と、76席の短胴型「MRJ70」の2機種構成だった。改称後はMRJ90を「SpaceJet M90」に改め、米国市場に最適化した機体サイズの70席クラス機「SpaceJet M100」をM90を基に開発する計画だったが、現在はM100の検討作業は見合わせており、 M90の型式証明(TC)取得に向けて型式証明飛行試験(TC飛行試験)などに注力している。

 また、三菱航空機ではスペースジェットの名称をMRJに戻すといった変更は考えていないという。

三菱重工の泉澤社長(左、当時は常務)と宮永会長(当時社長)=19年2月6日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 スペースジェットの開発については、三菱重工が5月11日に今年度の開発費を前年度の半分にあたる600億円程度に圧縮する方針を示した。三菱重工は2019年4月1日付で宮永俊一前社長が会長に退き、泉澤清次社長が就任した。2019年2月の就任会見では、宮永氏が「私が直轄してきたので、社内でも非常に特別。丁寧な引き継ぎをしないといけない。新体制に迷惑が掛からないようにしたい」と、会長就任後も当面は直轄していくとの考えを示していた。

 ところが、泉澤社長は「連続性があるプロジェクトなので、対外的にそういう表現を使ったのだと思うが、執行側としては私の職制のMRJ事業部と三菱航空機のラインでやってきた。委員会やいろいろな検討会は会長も交えてやっているが、事業推進は基本的に変わっていない」と、社長交代とともに泉澤社長直轄で進めているとAviation Wireの質問に対して答えており、泉澤社長が管轄するMRJ事業部と三菱航空機で、見解や方針の違いが生じていたようだ。

 スペースジェットの開発が今後も継続される場合、M90の納期は6度目の延期により2021年度以降を予定している。一方、受領を予定している航空会社からは「2021年“以降”だから、三菱重工は100年後でも納期遅れではない、と言い張るのではないか」とまで言われており、これまで以上に不信感が漂っている。

 今年3月末時点の総受注は287機あるが、このうち売上が現時点で見込める確定受注は163機で、残るオプションと購入権の124機を受注できるかは、スペースジェットの仕上がり次第だ。

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