国土交通省は5月1日、全日本空輸(ANA/NH)に対して事業改善命令を行った。2019年11月に乗務前の40代男性機長(当時、懲戒解雇)から基準値を超えるアルコールが検出され、国内線4便が遅延したトラブルに関するもの。29日までに必要な再発防止策を報告させる。
元機長は2019年11月7日に、福岡発羽田行きNH242便(ボーイング777-300型機、登録記号JA754A)の乗務前のアルコール検査で、規定値を超えるアルコール量0.22mg/lが検出された。機長を乗務から外したことによるパイロット交代の影響で、当該便を含む国内線4便が最大1時間以上遅れ、1955人に影響が及んだ。元機長は12月10日付で懲戒解雇処分となった。
元機長は乗務前日の11月6日午後5時5分に福岡空港へ到着して勤務を終え、宿泊先のホテルへ向かった。飲酒をしたのは午後8時ごろから午後10時ごろまでで、福岡市内の居酒屋でビール(500ml)を4本飲み、午後10時30分ごろホテルへ戻り就寝した。ANAの規定では、乗務開始12時間前までに飲酒を終える必要があり、この機長が飲酒できる時間帯は午後7時までだった。このため、アルコール値だけではなく、飲酒した時間も規定に反していた。
国交省はANAに事業改善命令を行い、元機長を航空業務停止90日間とした。国による処分は、もっとも軽い口頭指導から、厳重注意、業務改善勧告までが「行政指導」。勧告より重いものは「行政処分」となる事業改善命令で、事業の全部または一部の停止命令(事業停止)が続き、もっとも重い処分は事業許可の取り消しになる。
1日の事業改善命令を受け、ANAは片野坂真哉会長と平子裕志社長、安全統括管理者を務める清水信三副社長の3人について役員報酬30%減額を2カ月間(5-6月分)、オペレーション部門副統括の横山勝雄取締役執行役員は役員報酬20%減額を2カ月間(5-6月分)とした。
航空各社では、乗務前のパイロットから規定値を超えるアルコールが検出されるトラブルが2018年から頻発。各社を監督するJCABは、2019年10月から業務に支障を及ぼす可能性のある過度な飲酒を禁止するなど、パイロットの飲酒問題対策を強化している。
一方、航空会社を監督する立場である国交省でも、2019年12月23日に飛行検査センター所属の40代男性機長から、乗務前のアルコール検査で0.278mg/lのアルコールが検出され、乗務を中止。同省は機長に対し、4月28日付で航空業務停止60日間の処分を下したが、懲戒免職処分やトップである赤羽一嘉国交相の減俸処分や自主返納には至っておらず、同じパイロットの飲酒問題でも民間企業に厳しく、身内に甘い処分にとどまっている。
ANA機長は懲戒解雇
・ANA、飲酒機長を懲戒解雇 11月に国内線4便遅延(19年12月11日)
・ANA機長からアルコール検出 国内線4便遅延、乗務前検査で(19年11月7日)
国交省機長は乗務停止
・国交省の飲酒機長、60日間の乗務停止 那覇で泡盛など6杯(20年5月1日)
頻発した飲酒問題
・ANA、CAからアルコール検出で国内線4便遅延 乗務前検査で(20年1月4日)
・国交省、ジェットスター・ジャパンに業務改善勧告 関空便で機長2人飲酒(19年11月30日)
・国交省、スターフライヤーに業務改善勧告 台北便副操縦士から乗務前アルコール検知(19年11月29日)
・JAL、意識改革と管理強化でパイロット飲酒根絶目指す 事業改善命令で報告書(19年10月23日)
・国交省、JALに再び事業改善命令 パイロット飲酒、赤坂社長「傍観者いてはいけない」(19年10月8日)
【お知らせ】
元機長の飲酒量の詳細と事業改善命令の解説を加筆しました。(20年5月1日 21:05 JST)