リージョナルジェット機「三菱スペースジェット(旧MRJ)」を開発する三菱重工業(7011)傘下の三菱航空機は4月9日、丹羽高興(にわ・たかおき)新社長のあいさつ文を公表した。中国から拡散した新型コロナウイルスの影響で、就任会見の開催を見送ったためで、国が機体の安全性を証明する「型式証明(TC)」の早期取得に向け、全力を尽くす姿勢を示した。
丹羽新社長は、1980年に東京大学工学部航空宇宙工学科を卒業し、同年三菱重工へ入社。ボーイング787型機のプロジェクトでは、複合材主翼ボックス開発を担当するプログラムマネージャーとして複合技術開発や設備、コストとスケジュールの交渉に携わり、2017年4月からは執行役員兼民間機セグメント民間機事業部長を務めた。その後、米国三菱重工社長を経て、三菱航空機の社長に4月1日付で就任した。
スペースジェットは、2019年6月にMRJから名称を改めたリージョナルジェット機。MRJ時代のラインナップは、メーカー標準座席数が88席の標準型「MRJ90」と、76席の短胴型「MRJ70」の2機種構成だった。改称後はMRJ90を「SpaceJet M90」に改め、米国市場に最適化した機体サイズの70席クラス機「SpaceJet M100」をM90を基に開発する計画だ。
M90について、丹羽新社長は3つのポイントを挙げた。1つ目として、「3月18日に、最新の試験飛行機で初の型式証明可能な航空機である10号機の初飛行を完了させ、型式証明に向けて最終段階に入った。10号機は6回の飛行を完了し、約4万フィート(約1万2000メートル)付近の高高度飛行を含めた飛行性能の確認や上空でのエンジン停止・再起動など重要な試験を順調にクリアした」と説明。中国から拡散した新型コロナウイルスの影響が、サプライヤーの業務に影響が出ることも考えられるとしつつ、早期に米国へのフェリー(回航)を目指し、日本国内での飛行試験も実施していく。
2つ目に、着実な型式証明・初号機の納入に向けた統合スケジュールの策定と、チーム間で共有する日々の行動規則の徹底を挙げた。丹羽新社長はこれまでに携わった機体開発の経験から、統合スケジュールを設定することの重要性に触れ、「不確かな状況こそ、チームで共有すべき行動規則を徹底し、基本的なスケジュールをしっかりと把握して開発を進めていくことが、何よりも重要」と述べた。
また、外国人を含む社員全員が共有の価値観を持ち、プロジェクトを進めることの重要性にふれた。チーム全体で「明確な目標」を持ち、「実績とデータを評価し」、「お互いの意見を聞き、解決案を見つける」といったことを共通の理念や価値観として共有することを重要視した。
M90の納期は、6度目の延期により2021年度以降を予定している。
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