ボーイングとエンブラエルによる民間機事業の新会社「Boeing Brasil – Commercial(ボーイング・ブラジル-コマーシャル)」を、ブラジルの競争当局・経済擁護行政委員会(CADE)が1月28日に設立を承認した。株式はボーイングが80%、残り20%をエンブラエルが保有し、新会社が発足するとボーイングはエンブラエルが製造するリージョナルジェット機から450席クラスの747-8までの旅客機と、777Fをはじめとする貨物機を加えた民間機市場全体をカバーできるようになる。
このうち、リージョナルジェット機の主役となるのがE2シリーズだ。エンブラエル170(E170)とE175、E190、E195の4機種で構成する「Eジェット」の後継機で、E175-E2とE190-E2、E195-E2の3機種から成る。E190-E2(1クラス114席、3クラス97席)は2018年4月から、E195-E2(1クラス146席、3クラス120席)は2019年9月から引き渡しを始めており、残るE175-E2(1クラス90席、2クラス80席)も2019年12月12日に初飛行しており、着々とラインナップを完成させている。
E2のエンジンは、三菱航空機が開発を進めているリージョナルジェット機「三菱スペースジェット(旧MRJ)」と同じく、低燃費と低騒音を特徴とする米プラット・アンド・ホイットニー(PW)製GTFエンジンを採用。推力の違いにより、E175-E2がPW1700G、E190-E2とE195-E2がPW1900Gを搭載し、否応なくスペースジェットと比較される存在だ。
2月11日から開催されたシンガポール航空ショーには、E2シリーズで胴体がもっとも長いE195-E2が、数少ない民間機として展示された。エンブラエルでアジア太平洋地域と中国のマーケット・インテリジェンス・ディレクターを務めるフェルナンド・アリーノ・グラウ氏に、E2シリーズのセールスポイントを聞いた。
客室乗務員にもやさしい機内
エンブラエルがシンガポールに持ち込んだE195-E2は、コンピューターの基板のようなライオンを機体全体に描いた飛行試験機「TechLion(テックライオン)」(登録記号PR-ZIQ)。2019年7月には羽田空港に飛来し、航空会社などの関係者に公開した機体だ。
機内はビジネスクラスとエコノミークラスの2クラス構成で、ビジネスは全席が通路へアクセスできる「スタッガード配列」を採用。最大航続距離は4815キロ(2600海里)で、東京からベトナムのハノイ、ブルネイ、パプアニューギニアなどへ飛べ、日本の航空会社が中近距離の国際線に投入できるほどの航続距離を誇り、ビジネスクラスには相応の快適性が求められることから、こうしたシート配列でデモンストレーションしているようだ。
従来より大型化した頭上の手荷物収納棚(オーバーヘッドビン)は、機内持ち込みが可能なローラー付きのスーツケースを4つ収納できるようになっている。また、各席に電源コンセントを設け、照明にはLEDを採用するなど、近年の客室に求められる装備を網羅している。
グラウ氏は、「オーバーヘッドビンはシングルヒンジを採用し、シンプルな構造にしました。客室乗務員は何度も閉めるので、フタは軽くしてあります」と、整備性だけでなく客室乗務員が疲れにくい設計にしているという。
シートについても、客室乗務員の視点で改良した。「車いす客が座る際など、通路側のひじ掛けを上げますよね。しかし、これまでのシートは小さい穴の中にロックを解除するボタンがありました。E2では、客室乗務員のツメが欠けないよう、シンプルなボタンを採用しました」(グラウ氏)と、Eジェットで世界各国から寄せられた要望を反映した。
整備性も改良
リージョナルジェット機は、規模の小さい航空会社が運航することが多く、稼働率がそのまま収益に影響してくる。このため、機体の構造や整備性も重要な要素だ。
客室では窓やエアコンの整備性を改良し、機体外部はAPU(補助動力装置)のアクセスパネルを見直して点検や部品交換をしやすくした。主脚もシンプルな構造を取り入れ、短時間で整備できる設計になっている。
日本の航空会社ではE2の採用はまだないが、Eジェットは日本航空(JAL/JL、9201)グループで地方路線を担うジェイエア(JAR/XM)と、フジドリームエアラインズ(FDA/JH)の2社が導入。E195以外の3機種が日本の空を飛んでいる。
海外から日本へは、台湾のチャイナエアライン(中華航空、CAL/CI)の子会社マンダリン航空(華信航空、MDA/AE)が、E190(1クラス103席)を台中-成田線に投入するなど、4時間弱の路線もEジェットがカバーしている。
E2シリーズの受注残は、2019年末の段階でE190-E2が16機、E195-E2が137機。一方、E175-E2はまだ受注を獲得できていない。
航続距離や燃費といった数値に表わしやすいものだけでなく、整備性や客室乗務員の使い勝手も含めた改良を加えたE2シリーズ。リージョナルジェット最大手だけに、世界各国の航空会社から寄せられた声を反映した機体と言えるだろう。
*写真は17枚。
E190-E2機内の動画(YouTube Aviation Wireチャンネル)
・E190-E2 Media flight at Funborough Air Show 2018
シンガポール航空ショー
・シンガポール航空ショー開幕 出張自粛で静かな会場、スペースジェットはモックアップ展示(20年2月12日)
・三菱スペースジェット、M90も新客室デザイン採用視野(20年2月12日)
エンブラエル
・エンブラエル、19年の民間機納入89機 E195-E2は7機(20年2月21日)
・ボーイングとエンブラエル合弁、ブラジル競争当局承認(20年1月29日)
・E175-E2、初飛行に成功 三菱スペースジェット競合(19年12月18日)
・エンブラエル、E195-E2納入開始 アズールに初号機(19年9月13日)
・E190-E2就航 ヴィデロー航空、世界初の定期便(18年4月25日)
写真特集・エンブラエルE195-E2 日本初公開
・リージョナル機でも全席通路アクセス(19年7月17日)
E190-E2搭乗記
・エンブラエル、E190-E2初のメディアフライト MRJ最大のライバル、ファンボロー開幕前に(18年7月16日)