仏ATRのステファノ・ボルテリCEO(最高経営責任者)は都内で2月5日、ターボプロップ(プロペラ)機ATR42-600型機の改良型で、短い滑走路で離着陸できるSTOL(短距離離着陸)型「ATR42-600S」の開発が昨年始まり、2022年に初号機納入を目指すことを明らかにした。日本でも離島路線を持つ航空会社などに売り込んでいく。
—記事の概要—
・800メートル級滑走路対応
・DHC-8やドルニエ置き換え狙う
800メートル級滑走路対応
ATRは、ATR42-600Sの開発を2017年6月に発表し、2019年10月にローンチ。既存のATR42-600は離着陸可能な最短滑走路長が1000メートルだが、800メートル級の滑走路でも離着陸できる機体で、短い滑走路で運用している離島路線などへ投入できる。エア・タヒチ(VTA/VT)などから20機の発注コミットメントを獲得している。
ATR42-600Sは、エンジンの改良で離陸推力が増加し、フラップ25度での離陸により離陸揚力も増えた。ラダー改修による横方向制御の向上、スポイラーを使用した揚力制御、自動ブレーキを組み合わせることで、STOL性を実現した。800メートル級の滑走路を離着陸する場合、既存のATR42-600では乗客数を約半分の22人に抑えなければならないが、STOL型のATR42-600Sであれば、定員48人を乗せて運航できるという。
ボルテリCEOによると、今後数週間以内に模型を使った風洞実験を始めるという。「日本には短い滑走路の空港が12カ所ある」と述べ、東京の調布飛行場や新島、神津島、新潟の佐渡、北海道の礼文、長崎の小値賀と上五島、沖縄の粟国と波照間、慶良間の各空港や、東京都が空港建設を検討する小笠原に適した機体だと売り込んだ。東京-小笠原間は船で24時間かかるが、航空路であれば2時間に短縮できる。
ATR42-600Sの価格について、ボルテリCEOは「まだ開示していないが、以前より性能が向上しているので、現行機よりは高くなると考えている」と述べた。
DHC-8やドルニエ置き換え狙う
ATRのターボプロップ機は、天草エアライン(AHX/MZ)が日本で初導入し、2016年2月20日にATR42-600(1クラス48席)を就航させた。その後、日本航空(JAL/JL、9201)グループで鹿児島空港を拠点とする日本エアコミューター(JAC/JC)がATR42-600(同48席)とATR72-600(同70席)を導入。4月からは、JALグループで札幌の丘珠空港を拠点とする北海道エアシステム(HAC、NTH/JL)が、ATR42-600(同48席)を就航させる。
ATRでエアライン・マーケティング・マネージャーを務めるエリカ・ソメルサロ氏は、「JACの機体はストレッチャーを搭載できるようにしており、ATR機は離島の生活向上に貢献する」と事例を紹介。ATR42-600Sを日本で導入した場合、短い滑走路を持つ空港がある離島・地域の総人口は約9万人にのぼるという。
ATR42-600Sにより、ボンバルディア(現デ・ハビランド・カナダ)DHC-8-Q200型機(同39席)や、ドルニエDo328型機(同32席)といった経年機の置き換え需要獲得も目指す。
ATR日本代表の好田二郎氏は、「ATRは『into life』というブランディングを展開しており、日本では『空をつなぐ 人がつながる』というメッセージを発信している。高翼機なので遊覧飛行のように旅を楽しめ、全国97空港を有効活用できる。日本は地震や台風が多いので復興の架け橋になる」とアピールした。
また、ATRは貨物型のATR72-600Fも発表会で紹介。大型カーゴドアを備え、ペイロードは最大8.9トンで、年内にフェデックス・エクスプレス(FDX/FX)が運航開始を予定している。
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