三菱重工業(7011)傘下の三菱航空機は、開発中のリージョナルジェット機「三菱スペースジェット(旧MRJ)」の初納入を2021年以降に延期する方針を固めた。6度目の延期で、2月6日に都内で開かれる三菱重工の2019年4-12月期(20年3月期第3四半期)決算で正式発表される見通し。
*正式発表はこちら。
—記事の概要—
・10号機も完成遅れ
・ANAは代替機導入済み
10号機も完成遅れ
これまでの計画では、今年半ばにスペースジェットの初号機を全日本空輸(ANA/NH)などを傘下に持つANAホールディングス(ANAHD、9202)へ引き渡す予定だった。しかし、配線や電子機器などの設計変更が900カ所以上発生。機体の安全性を国が証明する「型式証明(TC)」取得時に使う飛行試験機(通算10号機)の完成が遅れ、今月6日に完成したものの、初飛行には至っていない。
スペースジェットの総受注は287機で、内訳は確定受注が163機、オプションと購入権が124機。2019年10月31日に地域航空会社3社を持つ米トランス・ステーツ・ホールディングス(TSH)が最大100機購入する契約をキャンセルしたことで、現在の数字になった。
MRJとして2008年に開発がスタートしたスペースジェットは、当初はメーカー標準座席数が88席の標準型「MRJ90」と、76席の短胴型「MRJ70」の2機種構成だった。これが2019年6月に「三菱スペースジェット(Mitsubishi SpaceJet)」に名称を改めると同時に、MRJ90を「SpaceJet M90」と改称。米国市場に最適化した機体サイズの70席クラス機「SpaceJet M100」を、M90を基に開発する計画だ。
一方、M100は客室内装を最新のトレンドを取り入れて改良するものの、TC取得の関係もありM90は従来通りのままで、一世代前の機内という印象を受ける。この点について、M90を発注済みの航空会社からは不満の声も聞かれ、引き渡しが始まった後にどういう補償を行うかや、順調に2号機目以降の量産機を納入できるかといった課題もあり、納入遅延だけでは済まされない状況だ。
ANAは代替機導入済み
これまでのスケジュール見直しを振りかえると、2008年3月27日に、ANAがオプション10機を含む25機を発注したことで開発を開始し、当初の納入時期は2013年だった。その後2014年4-6月期、2015年度の半ば以降、2017年4-6月期、2018年半ば、2020年半ばと5度にわたる納入延期が示されてきた。
ローンチカスタマーであるANAは、度重なる納入遅延により代替機となるボンバルディアDHC-8-Q400型機(1クラス74席)を2017年度に3機導入するなど、機材計画にスペースジェットを含めずに数年前から経営計画を立てている。
一方で、スペースジェットで置き換えを予定していたボーイング737-500型機(1クラス126席)が今年6月に全機退役予定で、ANAはスペースジェット以外の選択肢も本格的に検討せざるを得ない状況だ。
こうした中、エアバスはボンバルディアから買収した100-150席クラスの小型機A220のデモフライトを、中部空港(セントレア)で2019年8月に実施。仮にANAがA220導入を決断すれば、オプションの10機は行使されず、ANAへの納入は確定発注の15機にとどまる可能性もある。
6度目の納入延期が発表される際、量産体制など航空会社が納得できる説明がなされるのかに注目が集まる。
6度目の延期発表
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スペースジェット関連
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