全日本空輸(ANA/NH)は1月22日、ソフトバンク(9434)傘下のSBドライブ、先進モビリティ(目黒区)、ビーワイディージャパン(BYDジャパン、横浜市)と共同で、羽田空港の制限区域内で大型自動運転バスの実証実験を始めた。羽田空港の格納庫でバスをお披露目し、報道関係者向けの試乗会も開いた。年内に試験運用に乗り出す。
今回の実証実験では、運転席に運転手が座る「自動運転レベル3」相当の自動走行を実施。実験車両は、中国深センに本社があるBYD社製の大型電気(EV)バス「K9RA」(乗客定員56人)を改造したもので、実際の運行状況に近いサイズのバスを選定した。電気バスの採用で、CO2(二酸化炭素)排出量削減など環境にも配慮しているほか、振動や騒音も従来車両より抑えられているという。年内に予定している試験運用の開始に向け、航空機や特殊車両が走る空港特有の環境下での検証や、実用化に向けた課題の抽出を31日まで実施する。
22日に制限区域内で公開されたレベル3の実証実験では、運転席に運転手が座った自動運転バスが、羽田第2ターミナル内際北乗降場と65番駐機場間を結ぶ、1周約1.9キロメートルの周回コースを最高時速20キロで走行。関係者を乗せたバスが、設定したコースに沿って自動で曲がっていく状況や、車内で立ち上がったり歩行した人に注意をうながす自動放送が流れる様子などを公開した。
実験用バスには、車内外に14台のカメラを設置。車両前後左右の情報を集められるようにしたほか、AI(人工知能)による乗客の安全監視を行い、車内で人の転倒などをセンサーが検知すると遠隔監視者へ連絡する仕組みも備わっている。自動操舵装置や障害物センサー、ジャイロセンサー、走行制御コンピューターなども設置し、車両の自動制御や障害物の検知、危険からの回避などに対応している。
走行方式は、2018年に羽田空港で実施した実証実験で活用した「磁気マーカー」に替わり、「SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)」を採用。レーザーレーダーを用いた周辺環境地図の作成と自己位置の推定をする技術で、磁気マーカーのように道路に埋め込む工事が不要で、車両側で対応できるという。
羽田空港の格納庫では、ボーイング777-200型機と大型自動運転バスを並べてお披露目した。ANAの清水信三専務はあいさつで、BYDの本社がある中国・深センへの直行便を夏ダイヤ期間中に開設することにふれ、「日本と中国をつなぐ翼として、日中間の技術や人の交流に貢献していきたい」とアピールした。また、新しい技術の活用を推進し、「空港のグランドハンドリング業務の自動化を促進していきたい」と述べた。
実験車両の提供を担当したビーワイディ―ジャパンの劉学亮社長は、同社のバスがすでに日本の各地で活躍していることを紹介。「日本のパートナーと一緒に、公共交通の自動運転によるすばらしい社会の実現に貢献していきたい」と、日本市場の拡大に向けて意気込みを語った。
ANAは今後、空港内で乗員や乗客を運ぶ実証実験を、年内に大型バスで実施する計画。空港内を走るバスのうち、決められたルートを繰り返し走行するものを自動運転に置き換えることで省力化し、人員配置を見直す。実用化する際は、1人の遠隔管理者が複数台のバスを運用する形態を目指す。
関連リンク
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