エアライン, 解説・コラム — 2020年1月19日 22:11 JST

赤坂社長「課題は新しいことを生み出す人材」特集・JAL経営破綻から10年

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 日本航空(JAL/JL、9201)が2010年1月19日に会社更生法の適用を申請してから、19日で10年が過ぎた。JALは破綻から1カ月後の2月19日に、わずか1円の株価で取引を終えて上場廃止となった後、国の企業再生支援機構の支援により、2012年9月19日に2年7カ月ぶりに再上場を果たした。これにより、機構は保有する1億7500万株をすべて売却。出資した3500億円の約2倍にあたる額を国庫に返納し、破綻からの再生は一区切りがついた。

破綻から10年を迎えた羽田空港第1ターミナルのJALカウンター=20年1月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 そして、国土交通省航空局(JCAB)が2012年8月10日に示した文書「日本航空への企業再生への対応について」(いわゆる8.10ペーパー)により、新規の大型投資や新路線開設が監視対象になっていたが、2017年3月31日で監視は終了した。

 航空会社の経営を左右する羽田空港の発着枠配分は、2013年3月増枠の国内線は全日本空輸(ANA/NH)に8枠(便)、JALに3枠、2014年3月増枠の国際線も、16枠のうちANAに11枠、JALに5枠と、傾斜配分が続いた。監視最終年度の2016年10月増枠で配分された米国路線分は、6枠のうちANAに4枠、JALに2枠と3度目の傾斜配分となった。今年3月29日に始まる夏ダイヤで配分される国際線発着枠は、増便分すべてが夏ダイヤ初日から就航することを前提に、ANAに13.5枠、JALへ11.5枠とほぼ均等に配分された。

報道各社の取材に応じるJALの赤坂社長=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「社会の信頼を100%回復できたとは思ってない」。1月に入り、報道各社のインタビューに応じたJALの赤坂祐二社長は、破綻から10年がすぎた現状をこう語った。パイロットの飲酒問題が相次いだことから、安全問題の責任を負う「安全統括管理者」を2019年10月から赤坂社長自らが務めている。2018年12月以来、1年間で2度目の事業改善命令をJCABから受けたことによるもので、飲酒問題を含む安全関連の指揮系統を一本化し、責任の所在を明確にした。

 今では「半分の社員が破綻を経験していない」(赤坂社長)という中、JALは社会の信頼を回復できるのだろうか。

—記事の概要—
課題は「新しいことを生み出す人材」
海外販売は増えているが…

課題は「新しいことを生み出す人材」

 JALが破綻後、経営再建に取り組んだ稲盛和夫名誉顧問(当時会長)によってもたらされた部門別採算性とフィロソフィ教育。当時は成田客室乗員部の客室マネージャーだった客室教育訓練部の髙原由美子部長は、「客室乗務員も何人乗客が乗っているかを意識し始め、燃料消費量を削減するため、ひとり一人の荷物を軽くしようとした。人として何が正しいかを問うフィロソフィは、受け入れやすかった」と話す。

フィロソフィ教育を受けるJAL社員=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JAL意識改革推進部の長谷川部長=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 破綻後に設けられた意識改革推進部の長谷川正人部長は、「破綻前も企業理念はあったが、作っておしまいという感じだった」という。2010年の破綻前にも、JALは何度か経営危機に陥っているが、フィロソフィのような取り組みには至らなかった。

 2003年から2005年まで経営企画部にいた長谷川部長は、「根底から変えようという発想ではなく、対処療法で乗り切ろうとしていた」と、過去の危機を振り返る。そのフィロソフィも「最初の1、2年は、上から押しつけられたという印象を持つ人もいたが、前向きにやるようになった」と、当事者意識を持つ社員により、社内の雰囲気が徐々に変わっていったという。

 こうした意識改革の中、パイロットは訓練方法を大きく改めた。機長が上司、副操縦士が部下という上下関係から、問題があるときは副操縦士が機長に意見を言える状況を作ったり、より民間機の操縦に適した訓練に時間を費やすようになった。

JAL客室教育訓練部の髙原部長=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 客室乗務員にも変化があった。社内で優秀なフライトを分析した髙原部長は、「特別なことをしていたのではなく、責任者の客室乗務員が同僚を名前で呼んでいた。従来は役職で呼ぶことが多かったが、チームに受け入れられているという気持ちになると、『こういうお客様がいる』という報告が上がりやすくなった」と、客室乗務員同士の変化を挙げた。

 そして、整備出身の赤坂社長は、「整備の世界は徒弟制度で、上司と部下もそういう関係がある。良い意味で礼儀を重んじるが、周りから見ると、整備だけ古くさいぞ、という印象はあるかもしれない」と、整備特有の上下関係にふれつつ、「言いたいことは言えるようにだいぶ変わったのではないか。整備の現場にはほとんどいなかった女性が増えた」と語る。

 破綻から10年もたつと、社員の間には改革に対する疲労もみられる。社内外から「破綻前のJALに戻りつつあるのではないか」という声も、このところ耳にすることが増えた。ある先任客室乗務員は、「社内を見ていて、破綻前の保守的な考えに戻っているのではないかと、不安に感じることもある」と話す。

 赤坂社長は、現状について「破綻前に戻っているとは思わない。今の課題は新しいことを生み出す人材だ。リーダーが足りない。これは社員も自覚していると思うが、どうしていいかがわからない。チャレンジしたいけど、いいアイデアがない、誰に相談したらよいかがわからない。そういう意味での閉塞感や行き詰まり感を社員は感じており、昔の状況とは保守的に見える原因が違うと思う」と、イノベーションを牽引するリーダーの育成が急務だとの見方だ。

海外販売は増えているが…

 JALの路線規模を見ると、破綻前の2008年度末(09年3月末)は国内線153路線、国際線67路線だった。これが破綻した2009年度末(10年3月末)は国内線150路線、国際線56路線となり、2010年度末は国内線110路線、国際線47路線に減った。2018年度末(19年3月末)には、国内線126路線、国際線55路線となった。

一時はJALと言えば747だったが、破綻が退役を後押しした。現在は機材小型化が進んだ=10年8月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 需給バランスを判断する上で重要なロードファクター(座席利用率、L/F)は、2008年度末は国内線63.7%、国際線65.6%、2009年度末は国内線60.0%、国際線70.8%、2010年度末は国内線61.8%、国際線73.6%だったが、2018年度末は国内線72.5%、国際線81.3%と、破綻当時の2009年度末と比べて国内線は12.5ポイント、国際線は10.5ポイント上昇した。

 かつてのJALは、自前主義の国際線で世界のあらゆる国に飛んでいたが、需要の季節変動やイベントリスクにより、足かせとなった。現在は加盟する航空連合「ワンワールド」のみならず、ターゲットとするエリアの有力航空会社と組むことで、リスク分散しながら路線網を拡大している。

 そして、JALは日本人中心に航空券を販売してきたが、旺盛な訪日需要をさらに取り込む上で、海外販売比率の向上が不可欠だ。今後10年の目標のひとつとして、国際線旅客の海外販売額比率50%を掲げている。

 しかし、現状は海外販売を増やすために、現地の航空会社よりも割安に販売する必要がある。この影響で、従来よりも機内の雰囲気が悪くなっていると指摘する社員もいる。海外で安い航空券を購入する客層と、これまで日本で高い航空券を買ってきた客層では、機内の過ごし方やマナーも異なるためだ。「海外販売の比率ばかり追うと、従来からのお客様を失いかねない」(指摘した社員)と、バランスを取るのが難しい状況に直面している。

リーダー不足に危機感を示したJALの赤坂社長。次の10年をJALはどのように歩むのか=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 JALは国際線の中でも、アジアと北米の接続需要を重視している。一方で、東南アジアの航空会社が米国東海岸へ直行便を飛ばすなど、航空機の性能向上にともない、従来は難しかった路線も開設できるようになった。片道20時間近いフライト時間になっても、直行便を好む利用者はビジネス需要など一定の割合で存在する。

 「今現在飛んでいる飛行機の性能を考えると、たくさんの乗客を乗せられず、日本を経由する需要は相変わらず強いのではないか」と、赤坂社長は現時点では大きな脅威にならないとの見方だ。しかし、客単価の高いビジネスクラスのように、今後じわじわと超長距離直行便が存在感を増してくる可能性がある。

 「世界のJALに変わります×一歩先を行く価値を創ります=常に成長し続けます」。2019年2月に発表した中期経営計画のローリングプラン(改訂版)で、グランドデザインを発表したJAL。赤坂社長が新しいことを生み出すリーダー不足を懸念する中、JALは次の10年をどのように歩むのだろうか。

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