東京から1050キロ離れた離島でドローンを飛ばし、遠隔操縦で食料や日用品を運ぶ実証実験を、ANAホールディングス(ANAHD、9202)と長崎県五島市が実施している。五島市内の有人島間をドローンで結び、物流に加えて地元の雇用創出にもつなげていく取り組みだ。
実証実験は1月8日から17日までで、ANAHDと五島市のほかに自律制御システム研究所(ACSL、6232)とNTTドコモ(9437)、プロダクションナップ(NAP、長崎市)が協力。ACSLの完全自律飛行型ドローンをドコモのLTE(4G)回線でコントロールし、NAPが運航をサポートする。
—記事の概要—
・離島への物資輸送と雇用創出
・ドローンでちらし寿司運ぶ
離島への物資輸送と雇用創出
ANAHDは、2018年から福岡県玄界島でドローンによる配送実験を実施。2019年7月には、国土交通省から補助者を置かずにドローンを目視外飛行させる承認を得ており、第三者の立ち入りがないかなどを監視する補助者を置かない、実用化時の運用条件に近い状態で実験を進めている。五島市では2019年9月25日から10月4日まで第1期の実験を実施済みで、今回は第2期目に入り、ドローンによる物流体制構築を目指す。
五島市には11の有人島と52の無人島があり、ドローンを使った有人島間の物流網構築と、地元の雇用創出を目指す事業を2018年から実施。今回は福江島の塩津港を起点に南へ約8キロ沖にある黄島と、7キロ沖に位置する赤島へドローンで空輸する実験を進めている。
65年前の昭和30年代には、黄島には約650人、赤島が350人以上が住んでおり、釣り客や伊勢エビ漁などで栄えていたが、現在の人口は黄島が28世帯40人、赤島が10世帯12人と、人口減少が進む。福江島から赤島、黄島と結ぶ定期船が1日2回運航されているが、人手不足も課題となる中で、日常生活に不可欠な食料などの輸送手段を確保することが求められている。
五島市でドローン事業を担当し、自らも操縦資格取得を目指す濵本(はまもと)翔さんによると、ドローンによる物流網の構築だけでなく、若年層をはじめとする地元の雇用をドローン関連で創出していくことも重要視しているという。
ドローンでちらし寿司運ぶ
今回のドローン運航は、羽田空港内にあるオペレーションマネージメントセンターから遠隔操作で実施。現地ではバッテリー交換や荷物の積み込みなど、最低限のサポートに留めて運航できるかを検証している。実験が公開された10日は、福江島から黄島まで、島民が注文したちらし寿司や焼き鳥などの食べ物を運んだ。
島民の間ではスマートフォンの普及率が低いことから、電話注文用のカタログを用意。食料品や日用品を担当者に電話で注文すると、ドローンで所定の場所まで配送される形で検証している。ANAHDで次世代事業を模索する「デジタル・デザイン・ラボ」の津田佳明チーフディレクターによると、一方でドローンの認知度は高齢者の多い島民の間でも高いという。
デジタル・デザイン・ラボでドローン事業化プロジェクトリーダーを務める保理江裕己さんは、「地元の人がドローンに携わり、運航はANAが東京で担うパターンと、すべて一括で請け負うパターンの両方を考えており、現在は実証実験しながら地元の人にも操縦を覚えていただいている」と話す。
保理江さんによると、ドローンの操縦は20日間程度でできるようになるといい、社内でも必要に応じて操縦できる社員を育成して対応していく。
今回実験に使用しているACSLのドローンは、羽田のセンターにいるフライトディレクター(運航管理者)がノートパソコンから遠隔操作で運航開始の指示をドローンに送ると、その後はプログラムされた通りに、高度60メートルの高さで海上を飛行していた。
また、ドローンの位置情報が1分以上センターに送信できなくなるなど、機体に問題が起きた時には自動で出発地へ引き返す仕組みになっている。保理江さんによると、ANAHDは2016年12月にドローンプロジェクトを立ち上げたが、実証実験で機体を喪失したことはなく、今後は夜間飛行など運用時間拡大にも挑戦していく。
島民からは医薬品の搬送を求める声も寄せられており、ANAHDと五島市は長崎大学と医療分野で連携するといった用途の拡大を目指す。
関連リンク
全日本空輸
五島市
自律制御システム研究所
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