鹿児島県の奄美群島など西日本の生活路線を27年にわたり支えてきた日本エアコミューター(JAC/JC)のサーブ340B型機(1クラス36席)が、まもなく退役を迎える。JACとジャルパックは、退役を記念したチャーターツアーを11月30日から2日間の日程で開催した。シミュレーター体験やパイロットらによるトークショーや、鹿児島と徳之島を往復するチャーター便を運航した。
—記事の概要—
・最盛期は11機
・叩けば直る!アナログ計器
・機材繰りで2時間遅延
・高度100フィートでローパス
最盛期は11機
日本航空(JAL/JL、9201)や鹿児島県内の自治体が出資するJACがサーブの運航を始めたのは、27年前の1992年10月1日。戦後初の国産旅客機である日本航空機製造YS-11型機(同64人)と、ドルニエDo228型機(同19人)の2機種で運航していた当時のJACにとって、すき間を埋める機体の大きさで、客室乗務員が1人で客室に乗務する初の機体だった。就航当時の路線は、鹿児島-松山・大分線と、宮崎-松山・長崎線の4路線で、前日までは日本エアシステム(JAS/JD、現JAL)のYSが1日1往復していた。
全11機が導入されたサーブは、東は松本から西は与論まで、離島をはじめ西日本の生活路線を支えた。かつては松本へは高松と松山から飛び、今は廃港となった広島西飛行場にも鹿児島などから乗り入れるなど、多くの路線に投入された。
今回のツアーには22人で最多となった関東をはじめ、名古屋や大阪、熊本のほか、サーブにゆかりのある奄美群島の喜界島からの参加もあった。期間内に参加者を募り、抽選で決定した。30人の募集に対し約4倍の応募があったそうで、権利を勝ち取った幸運な参加者は、1人の欠席もなく鹿児島に集まった。
叩けば直る!アナログ計器
ツアー1日目は、鹿児島空港内にあるサーブのシミュレーター体験と、格納庫内での搭乗機見学、乗務員らによるトークショーを実施。シミュレーターでは、離着陸や上空での飛行などが体験可能で、1人5分程度の時間が設けられた。
格納庫には翌日のチャーター便で使用する機体(登録記号JA8594)が用意され、客室乗務員のシートに座って機内アナウンスを体験するなど、ファン心理をくすぐる企画も用意されていた。格納庫内からは滑走路が一望でき、離着陸も目の前で見られたのだが、大半の参加者がほかの飛行機には目もくれず、サーブとふれ合っていた。
トークショーは空港近くの会場で開かれ、自らも航空ファンである東海ラジオの酒井弘明アナウンサーが司会を務め、パイロットや客室乗務員、整備士とサーブの思い出話に花を咲かせた。パイロットから見たサーブの特徴について聞かれた久保忍機長は、「頑丈で、与圧が強い」ことを挙げた。
以前JACで活躍していたボンバルディアQ400(DHC-8-Q400)型機と比べ、同じ高度を飛んでいても機内高度がQ400の半分近くの低高度となり、乗務後の疲れがまったく違うと感想を話した。そして、サーブのアナログ計器は不調が出ても「叩けば直る!」などと話し、会場を笑いに包んだ。
サーブに備わっている乗降用階段の設置や収納が手動だったことに驚いた、と話す客室乗務員の小城美和さんは、新人のころに「階段やドアを勢いよく操作してしまったら、後で機長に叱られた」と、失敗談を披露。1年前のQ400退役ツアーのトークショーにも出演した整備士の松尾知浩さんは、「防錆処理がしっかりしていて錆びない」「機内に這わせた電線の交換機会がなかった」と、頑丈さをアピールしていた。
機材繰りで2時間遅延
2日目はサーブによるチャーター便に搭乗し、鹿児島から徳之島を往復した。目的地に徳之島空港が選ばれたのは、JACやサーブにゆかりのある奄美群島での実施を目指した結果で、ほかに奄美空港も候補に挙がっていたという。
朝を迎え、しっかりと朝食をとって空港に向かうと、サーブが出発準備をしている、ように見えた。しかしよく見ると、目の前の機体はチャーター便に使用予定と聞いていたJA8594ではなく、もう1機のJA8703だ。定期便に投入予定だったJA8703に不具合が生じたため、急きょJA8594を喜界島行きの定期便に投入したのだった。チャーター便はこの便の到着後にJA8594で運航することになり、出発が2時間ほど遅れることが確実となった。
今回のチャーター便は、ただ徳之島を往復するだけでなく、鹿児島県内のサーブ就航空港を空から訪れる予定になっていた。前日のトークショーでは、いくつかの空港でローパス(滑走路上の低空通過)を実施予定と発表されており、参加者の期待は高まっていただろう。チャーター便のパイロットは廣枝丈人機長と與古光邦明副操縦士、客室乗務員は追立秀美さんが務めた。
機内は、通路を挟んで進行方向左側1席と右側2席の1列3席でシートが並び、12列で36席となる。特徴的なのが3席横並びとなる最後尾の12列目で、11列目までは左の窓側席となるA席が通路の真正面に位置し、窓もない。プロペラの真横にあたる2列目も窓はなく、景色を楽しめるのは、左右10席ずつの20席のみだ。現在の旅客機では全席禁煙が当たり前だが、サーブのひじ掛けには灰皿跡があり、機内でタバコが吸えた時代の痕跡が残っているのも歴史が感じられるポイントだ。
そして、もっとも変わったシートは、最前列の1A席ではないだろうか。離着陸時は客室乗務員がすぐ目の前に座り、乗降ドアがあまりにも近いため、雨の日にはしずくが落ちてきて足もとが濡れてしまいそうだ。
高度100フィートでローパス
鹿児島を離陸したチャーター便は順調に飛行を続け、沖縄本島のすぐ手前に位置する与論島に差し掛かった。上空から島の全景を堪能した後は、与論、沖永良部の順でローパスを実施。高度はわずか100フィート(約30メートル)と低く、サーブの迫力ある飛行が堪能できた。徳之島に到着したツアー一行は、島の人たちの歓迎を受けた。
徳之島では昼食を楽しみ、空港へ向かう。島内を移動中はかなり強く降っていた雨も、搭乗するころには小雨になり、出発間際には薄日が差し込むほどまで回復した。しかし、その雨は帰りのフライトで立ち寄る予定だった空港周辺を直撃。予定されていた残りのローパスは、すべて中止になってしまった。
鹿児島の出発が2時間近く遅れてスタートした空の旅も、最終的に30分以下の遅れに縮まっていた。着陸では日没間近の夕日に照らされ、北側からの進入となるランウェイ16に降り立ち、出発時と同じ15番スポットに到着した。連絡バスがターミナルの到着口に着いても、参加者は別れを惜しむかのように、遠くに見えるサーブを、カメラやスマートフォンで収めていた。
本来であれば、サーブは11月30日で定期便の運航を終え、退役チャーターが商業運航の最終便になるはずだった。しかし、後継機の仏ATR製ターボプロップ機ATR42-600(JA09JC)の納入が遅れ、チャーター実施後もしばらくは飛び続ける。JACによると、12月中には退役予定で、現在運航中の2機(JA8703、8594)は最終日まで飛べる状態を維持するという。
サーブの退役により、JACの機材はATR42-600(同48席)が7機、ATR72-600(同70席)が2機の計9機となり、機材更新を終える。同じくサーブを使用する北海道エアシステム(HAC、NTH/JL)も現在3機を保有しているが、2020年夏ダイヤが始まる3月29日にATR42-600の初号機就航が決定している。ATRの導入にあわせて、HACでもサーブは順次退役する。
日本でサーブのフライトを楽しめるのも、あとわずかだ。
*写真は41枚(運航実績や就航当時のスケジュールは写真下に掲載)。
退役チャーターの運航実績(括弧内は定刻/実績)
JC1992 鹿児島(10:15/12:07)徳之島(12:15/14:08)
JC2019 徳之島(15:10/15:57)鹿児島(16:50/17:15)
就航当時の運航スケジュール(92年10月1日から31日)
3X897 鹿児島(08:30)→大分(09:20)
3X896 大分(09:45)→鹿児島(10:35)
3X861 鹿児島(11:05)→松山(12:05)
3X859 松山(12:30)→宮崎(13:25)
3X882 宮崎(13:50)→長崎(14:40)
3X881 長崎(15:05)→宮崎(15:50)
3X858 宮崎(16:15)→松山(17:10)
3X864 松山(17:35)→鹿児島(18:35)
関連リンク
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