三菱重工業(7011)傘下の三菱航空機は10月31日、地域航空会社3社を持つ米トランス・ステーツ・ホールディングス(TSH)が「三菱スペースジェット(旧MRJ)」を最大100機購入する契約を解消したと発表した。米国の労使協定「スコープ・クローズ」を現行機では満たせないため。
三菱航空機とTSHは、10年前の2009年10月に確定発注50機とオプション(仮契約)50機の最大100機を購入する覚書(MoU)を締結。2010年末に正式契約を結んだ。当時のMRJはメーカー標準座席数が88席の「MRJ90」と、76席の「MRJ70」の2機種構成で、TSHはMRJ90を発注していた。
両社が契約を締結した時点では、リージョナル機の座席数や最大離陸重量を制限する米国の労使協定「スコープ・クローズ」が将来緩和され、MRJ90が引き渡されるころには米国の地域航空会社も運航できることを想定していた。しかし、協定は現時点でも緩和されておらず、三菱航空機が協定をクリアする機体を製造できていないことから、契約解消に至った。
一方、三菱航空機はスコープ・クローズが当面緩和される見込みがないことから、米国市場に最適化した機体サイズの70席クラス機「SpaceJet M100」を今年6月に発表。同時に名称も従来の「MRJ(三菱リージョナルジェット)」から「三菱スペースジェット(Mitsubishi SpaceJet)」に改め、従来のMRJ90を「SpaceJet M90」に改めた。これにより、三菱航空機の機体はM90とM100の2機種になった。
M100はM90をベースに開発する機体で、早ければ年内にもローンチする予定。座席数は3クラス65-76席、最大1クラス88席まで設定できる。M100の市場投入は、M90が2020年中ごろに初号機を引き渡せた場合、2023年になる見込み。三菱航空機の水谷久和社長は、「TSHとM100の発注に関する協議も続けていけることを期待している」とコメントした。
また、TSHへの違約金などの支払いについて、三菱重工の小口正範副社長は31日、「前受金の返還などはある」とした上で、違約金は発生しないと述べた。同社の泉澤清次社長は「TSHの解約は納期などの問題はあるが、サドンデスと理解していない。いったん解消して、もっと魅力的なお話ができれば」と語り、M100を売り込む姿勢を示した。
TSHの契約解消により、スペースジェットの受注は最大287機となり、内訳は確定受注が163機、オプションと購入権が124機。このほかに、スウェーデンのリース会社ロックトンと、最大20機(確定10機、オプション10機)発注する契約締結に向け、2016年7月に開かれたファンボロー航空ショーで基本合意(LoI)を結んでいる。また、今年6月に開かれたパリ航空ショーで、北米顧客と15機のM100導入に向けて覚書を締結した。9月5日には、米国のメサ航空(ASH/YV)がM100を最大100機購入する覚書を結んだ。
スペースジェットの納期は当初2013年だったが、5度の延期を重ね、現在公表されているのは2020年半ば。機体の安全性を国が証明する「型式証明(TC)」取得に必要な試験機の完成などが遅れており、6度目の納入延期となる公算が高い(関連記事)。
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