エアバス, 企業, 機体, 解説・コラム — 2019年9月12日 14:55 JST

A350向け炭素繊維供給する帝人「情熱ないと続かない」

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 9月1日に就航した日本航空(JAL/JL、9201)のエアバスA350-900型機。機内の静粛性や快適性が高まったことが特徴だが、CFRP(炭素繊維複合材)を使った胴体の軽量化や製造工程の工夫も、従来の航空機から進化した点のひとつ。このCFRPを供給しているのが帝人(3401)だ。

A350の模型を手にする帝人の青木航空宇宙材料営業部長=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 CFRPは強度は鉄の10倍だが重量は4分の1と軽く、航空機に適している。1985年に、東邦レーヨン(当時)の炭素繊維「テナックス」がA320の垂直尾翼の構造材に採用される。同社は2000年に帝人の子会社となり、翌2001年には東邦テナックスへ社名変更。2018年4月1日付で帝人と統合した。前身を含めると、帝人は30年以上エアバスに炭素繊維を供給している。

帝人がJALのA350初便の乗客にプレゼントしたテナックス製バゲージタグ=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 A350に採用されたのは、炭素繊維強化熱可塑性樹脂積層板「テナックス TPCL」。2014年5月にCFRTP(熱可塑性炭素繊維複合材料)としては世界で初めて、エアバス機の一次構造材に採用された。そして、JALのA350初便の乗客には、テナックス製のバゲージタグが記念品の一つとしてプレゼントされた。帝人がこうした形で炭素繊維をPRするのは初めてだという。

 これまで帝人は炭素繊維の原糸を航空機メーカーに供給してきたが、これを用いたテナックス TPCLのような中間材料を航空機向けに供給するのはA350が初めて。成果を得るまでに長い年月を要する航空機分野を成長領域と位置づける帝人で、航空機向け炭素繊維を長年手掛けてきた青木一郎・航空宇宙材料営業部長に話を聞いた。

—記事の概要—
製造期間を大幅短縮
体力・技術力・待てること
「情熱ないと続かない」

製造期間を大幅短縮

 A350の構造材として採用されたテナックス TPCLは、耐衝撃性や耐摩耗性に優れるPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)を使用したCFRTP。欧州拠点の独テイジン・カーボン・ヨーロッパが製造している。帝人の航空機向け炭素繊維事業はドイツを中心に発展したこともあり、エアバスとのつながりが強いという。

テナックス TPCLが採用されたA350=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

トゥールーズで最終組立が進むエアバスA350=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「熱硬化性樹脂は成形に型が必要になりますが、熱可塑性のものはパターンで折りたたんでできてしまいます」と青木部長はCFRTPの特徴を説明する。熱硬化性樹脂は成形に数時間かかることもあるが、熱可塑性であれば約1分で成形でき、製造期間を大幅に短縮できる。

 ボーイングは設計を全面刷新した787で炭素繊維を全面的に使用し、胴体の製造には、輪切りの胴体が入る大きさのオートクレーブ(複合材硬化炉)を使用しているが、設備面でもコストがかかる。そこでエアバスは、A350の胴体を4分割した炭素繊維のパネルで構成し、つなぎ合わせて製造することにした。

 青木部長は、「トータルでいかにA350の製造コストを抑えるか、という構想をエアバスは持っていたと思います。4分割はボーイングの苦労を見てのことでしょう」と語った。

体力・技術力・待てること

 帝人は2000年に東邦レーヨンを連結子会社化。航空機ビジネスに参入することになる。しかし、異なる文化の企業が一緒に事業を進めるとなれば、理解を得にくいものもある。特に、航空機ビジネスは成果を得るまでに時間がかかるものだ。

A380の2階席用フロアビーム(黒い床板状のもの)にもテナックスが採用されている=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

A220にもテナックスが使われている=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「最初は理解を得るまでに時間が掛かりましたが、帝人で良かったのは医薬を持っていることですね」と、東邦レーヨン出身の青木部長は分析する。医薬品の開発は20年程度かかることもあり、開発スパンが長い点は航空機に通じるものがある。

 「素材を採用する側の航空機メーカーも時間を掛けて評価するので、体力と技術力、それに対してある程度待てることが必要です。経営層には待っていただきました」と、炭素繊維の原糸だけではなく、中間材料としてA350に供給できるようになるまで、長い時間を要したことを振り返った。

 今年1月には、A220向けの炭素繊維「テナックス」の供給契約が2025年まで延長された。A220はカナダのボンバルディアが開発した小型機で、Cシリーズから2018年7月に改称したものだ。帝人とボンバルディアは2010年にテナックスの供給契約を締結。主翼、センターウィングボックス(翼胴結合部)、尾翼などの構造材向け指定原糸として供給してきた。

 エアバス向けでは、ジャムコ(7408)が製造するA380の2階席用フロアビームにも、テナックスが採用されている。

「情熱ないと続かない」

航空機向け炭素繊維複合材のビジネスを「情熱がないと続かない」と語る帝人の青木航空宇宙材料営業部長=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 こうした時間を掛けた事業の成長を、青木部長は「どちらかというと、海外のローカルスタッフが中心になって進め、本社がサポートする形です。製品開発はグローバルですが、マーケティングはローカルがやっていく。みんな長いので、顧客に入り込んで情熱を持って製品を勧めています」と、ドイツやアメリカの現地子会社のローカルスタッフによるところが大きいという。

 炭素繊維は今後、航空機にどう使われていくのだろうか。「次世代の飛行機はオートクレーブは使わなくなるでしょう。いかに使う側にアジャストしていくかです」と、これまでより低コストで、生産効率の良いものを提案していくという。

 「情熱がないと続かないです。ドライに割り切っては絶対できない」。自社製品が採用されるまでも、採用されてからも長い年月を要する航空機ビジネスを、こう表現した。

 次世代の航空機は、どのように進化するのだろうか。

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