日本航空(JAL/JL、9201)は8月27日、エアバスA350-900型機(登録記号JA01XJ)の訓練飛行を報道関係者に公開した。9月1日から羽田-福岡線に投入する最新鋭機で、27日は午前5時ごろから訓練がスタートし、羽田から関西空港、新千歳、成田、新千歳、中部とフライトした後、午後10時42分に羽田へ帰着。1日の訓練を終えた。
訓練飛行は現在、1日に6便実施。27日の場合、前半が羽田発関西行きJL4133便と関西発新千歳行きJL4134便、新千歳発成田行きJL4135便の3便で、後半が成田発新千歳行きJL4136便と新千歳発中部行きJL4137便、中部発羽田行きJL4138便だった。羽田で訓練がスタートしたパイロットたちは成田で終え、次のチームに交代する。後半のパイロットたちは羽田で訓練を終えるが、フライトスケジュールによっては深夜1時に帰着することもある。
日本の航空会社ではJALが初めて導入するA350。パイロットたちは、どのような訓練を経て、A350に乗務するのだろうか。
—記事の概要—
・JAL初のサイドスティック
・スラストリバーサー使用時も静か
JAL初のサイドスティック
A350運航乗員部で副部長を務める杉本恒機長によると、導入段階から携わる初期のパイロットは36人全員が機長で、このうち32人が教官を務める。副操縦士は、早ければ年内にも第一陣が商業運航に乗務するようになるといい、それまでは機長2人が乗務する。
杉本機長はこれまでにボーイング747-400型機、737-400、777に乗務し、JALが出資するジェットスター・ジャパン(JJP/GK)に出向した際にエアバスA320型機に乗務した経験を持つ。操縦桿がボーイング機はコントロールホイール、エアバス機はサイドスティックと大きく異なるのが特徴だ。
JALにとって、A350は統合前の日本エアシステム(JAS)が導入したA300-600R(退役済み)に続くエアバス機だが、サイドスティックを採用した同社機を運航するのは初めて。このため、A350が初のエアバス機導入と言っても過言ではない。杉本機長によると、A300経験者もA350に乗務するが、「ボーイング機から来た人もA300を経験した人も、コントロールホイールからサイドスティックに変わることを習得するのが課題でした」と話す。
ボーイング機とエアバス機は設計思想や用語も異なるが、パイロットにとっては操縦桿の違いが一番大きいようだ。「エアバスの本拠地である仏トゥールーズで座学とシミュレーターを約5週間、日本でもシミュレーター訓練を受けます。その後、実機は1人あたり25時間フライトします」と杉本機長は説明する。
シミュレーター訓練は1人当たり1レッスン2時間で、トゥールーズで11レッスン、日本で4レッスンの計15レッスン、時間にすると30時間ほど。実機訓練を合わせると、ボーイング機からA350に移行するまで、1人当たり約55時間かかることになる。
A350への移行訓練がスタートしたのは今年に入ってからで、杉本機長は第4陣として4月から訓練を受けた。A320で1000時間ほどエアバス機の飛行経験があったものの、一緒に訓練を受ける人はボーイング機だったので同じスケジュールで進めたという。
スラストリバーサー使用時も静か
27日は、羽田から成田までの前半3便で訓練を行ったのは、野澤祥大(よしひろ)機長と南雲恒昌(よしまさ)機長、宮澤憲一郎機長の3人。野澤機長は777から、南雲機長と宮澤機長が767からの移行で、やはり操縦桿や用語の違いが気になる点だという。
報道関係者が訓練飛行に同乗した成田から羽田までの後半3便は、荒木隆裕機長と後藤弘太郎機長が操縦を担当。杉本機長もオブザーブとしてコックピットに入った。
成田を午後2時58分に出発し、新千歳には午後5時3分に到着。給油などを済ませて午後6時9分に出発し、雨が降る中部には午後7時56分に着いた。再び出発準備をして午後8時54分に出発して、羽田には午後10時42分に到着し、27日の訓練が終わった。商業運航では中部から羽田までは1時間に満たない飛行時間だが、羽田空港の発着枠に空きがないため、このような到着時刻になるのだという。
雨雲の影響で、途中揺れることがあったものの、機内は離陸や着陸も含め、出発から到着まで静かな点が印象に残った。A350の客室内は高度6000フィート(1829メートル)以下の状態を一定に保てるほか、ビジネスクラスやエコノミークラスといったゾーンごとに空調をきめ細かく管理でき、機内の空気も2-3分ごとに入れ換えることで、快適性を向上させている。
「国内線は1時間とか2時間のフライトなので実感しにくいかもしれないですが、静かですよね」と杉本機長は話す。着陸時にはエンジンのスラストリバーサー(逆推力装置)を使って減速するが、エンジンの真横の席でも静かだった。
「フルリバースをかけるとさすがに大きな音がしますが、そこまでしなくても止まれます」(杉本機長)と、ロールス・ロイス製のエンジン「トレントXWB」の静粛性を評価していた。私は過去にエアバスの試験機や、海外の航空会社による商業運航便にも搭乗したことがあるが、いずれも離着陸時は静かだった。9月からの商業運航でも、A350の静かさは体感できるだろう。
JALはA350を777の後継機として、標準型のA350-900を18機と、長胴型のA350-1000を13機導入。A350-900は国内線用777-200、A350-1000は長距離国際線用777-300ERを置き換える計画で、国際線には2023年ごろから投入する見通し。このほかにオプション(仮発注)で25機購入する契約を結んでおり、最大56機導入計画だ。
9月に就航するA350-900は国内線仕様で、座席数は3クラス369席。ファーストクラスが12席(2-2-2席配列)、クラスJが94席(2-4-2席)、普通席が263席(3-3-3席)となる。全クラス全席に電源コンセントと充電用USB端子、個人用画面を備え、機内インターネット接続「JAL Wi-Fiサービス」を無料提供し、出発して地上走行を開始してから、着陸後に駐機場へ到着するまで利用できる。映画などのビデオコンテンツは、途中で視聴を中断しても次回搭乗時に続きを楽しめるのが特徴だ。
「体感していただくのが一番いいと思うので、ぜひご利用いただきたいです」と杉本機長は話した。
*写真は20枚。
関連リンク
A350就航記念特別サイト(JAL)
機内から撮影した離着陸や機内(YouTube Aviation Wireチャンネル)
・JAL A350 訓練飛行中の機内(新千歳→中部)
・JAL A350 訓練飛行中の機内(ファーストクラス、成田→新千歳)
・JAL A350 成田離陸(機内から見たJA01XJ 訓練飛行)
・JAL A350の機内(ファーストクラス→クラスJ→普通席)
写真特集・JAL A350-900福岡公開
(1)ファーストクラスはゆとりある個室風(19年8月18日)
(2)クラスJは新レッグレストで座り心地向上(19年8月19日)
(3)普通席も全席モニター完備(19年8月24日)
(4)大型モニター並ぶコックピットや落ち着いたラバトリー(19年8月25日)
国内で訓練飛行開始
・JALのA350、初の福岡訓練終え関空へ(19年7月20日)
・夜の福岡に初飛来 写真特集・JAL A350福岡フィットチェック(19年7月21日)
・JALのA350、福岡に初飛来 訓練で新千歳から(19年7月19日)
・JALのA350、訓練飛行スタート 羽田を出発(19年6月29日)
・北九州と新千歳、成田初飛来 JALのA350が訓練飛行(19年6月29日)
・JALのA350、訓練で関空と中部初飛来へ(19年7月6日)
特集・JAL A350初号機受領
離陸編 翼を振りトゥールーズをフライパス(19年6月15日)
デリバリー編 鶴イメージしたバレエでお披露目(19年6月15日)
自社養成はフェニックス
・ナパ閉鎖を経てフェニックスで訓練再開 特集・JALパイロット自社養成再開から5年(1)(19年8月21日)