全日本空輸(ANA/NH)は7月4日、佐賀空港で乗客を乗せた営業運航便のけん引に、リモコン式航空機牽引機器(TLTV)の使用を始めた。リモコンによる遠隔操作で航空機を後退・旋回できる機器の導入は、国内の航空会社では初めて。
佐賀空港でANAのA321neoから離れるリモコン式牽引機器Spacer8600=19年7月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
—記事の概要—
・バッテリー駆動の牽引機器
・3日間でマスター
バッテリー駆動の牽引機器
けん引に使用したのは、バッテリーで動く独mototok社製「Spacer8600」。対応機種は単通路機のボーイング737-500/-700/-800とエアバスA320/A321で、最大牽引力は95トン、機体を駐機場から押し出す「プッシュバック」は3時間のフル充電で30回できる。従来の牽引車のように機体とつなぐ「トーバー」が不要なトーバレスタイプの牽引機器で、前脚を抱え込むようにしてけん引する。
リモコン式牽引機器Spacer8600で佐賀空港を出発するANAのA321neo=19年7月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
2018年10月から羽田空港で実証実験を行ってきたもので、今年3月から規定作りや佐賀空港周辺の自治体への説明、佐賀空港のグランドハンドリングを担うANAエアサービス佐賀のスタッフによる練習などの準備が進められ、佐賀空港でも夜間駐機している機体を使い、訓練を重ねてきた。
4日は、佐賀発羽田行きNH454便(737-800、登録記号JA64AN)とNH982便(A321neo、JA132A)などでリモコン式牽引機器を使用。従来の牽引車両のように大きな音を出すこともなく、静かに機体が駐機場から出ていった。
佐賀空港を実証実験の場に選んだ理由として、ANAでは1日あたりの便数が適度にあり、使用機材が737-800や767-300、A321と多岐にわたることや、フルサービス航空会社の国内線が自社便のみで、全体のオペレーションを検証できることなどを挙げる。また、佐賀県と連携して新技術の実験場とする「イノベーションモデル空港」に位置づけている。
mototok社製の同種の機器は、国内ではビジネスジェット運航支援業務を行うフジドリームアビエーションエンジニアリング(FAE)が、2015年から運用中。リモコンで航空機を移動させる機器としては、ジェットスター・ジャパン(JJP/GK)が「PPU(Power Push Unit)」と呼ばれるものを2012年から導入し、成田空港で運用している。PPUはプッシュバック専用であるなど、Spacer8600と機能が異なる。
リモコン式牽引機器Spacer8600で佐賀空港を出発するANAのA321neo=19年7月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
3日間でマスター
リモコン式牽引機器の導入を担当するANAのオペレーションセンター品質企画部の大野亮介マネジャーは、「従来の牽引車と比べ、広い視野を確保できるようになった。訓練もこれまでは1週間程度かかったものが半分程度の日数で慣熟でき、パイロットとアイコンタクトしながらプッシュバックできる」と、メリットを説明する。
ANAが佐賀空港で使用するリモコン式牽引機器Spacer8600について説明するANAの大野氏(右)とANAエアサービス佐賀の山口さん=19年7月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
大野氏によると、訓練期間は座学を含めて3日間、従来の牽引車を運転していた人であれば、2日間程度でマスターできるという。一方、プッシュバックはグラハン業務の中で難易度の高い職種であることから、入社から一定年数たった人が担当してきた。大野氏は「牽引経験がない人でも3日間で覚えられる」と話し、養成期間を大幅に短縮できる。
また、mototok社では767など、双通路(ワイドボディー)機に対応した牽引機器の開発を進めているという。
牽引機器をリモコン操作したANAエアサービス佐賀の山口大樹(ひろき)さんは、けん引歴8年のベテラン。「視認性高まり、作業しやすい」と話す山口さんは、3月から羽田で訓練を重ね、佐賀では夜間駐機中の機材で練習し、4日の実用化を迎えた。初めて乗客を乗せた機体を機器で牽引した感想を尋ねると、「緊張感があったが、無事終えられてホッとしている」と笑顔を見せた。
佐賀では山口さんを含む5人が、牽引機器の操作に必要な社内資格を取得済み。今後は取得者を増やすとともに、他空港への展開も視野に入れる。
*写真は28枚。
ANAが佐賀空港で使用するリモコン式牽引機器Spacer8600(手前)と従来の牽引車=19年7月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
ANAが佐賀空港で使用するリモコン式牽引機器Spacer8600=19年7月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
ANAが佐賀空港で使用するリモコン式牽引機器Spacer8600=19年7月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
ANAが佐賀空港で使用するリモコン式牽引機器Spacer8600=19年7月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
ANAが佐賀空港で使用するリモコン式牽引機器Spacer8600=19年7月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
ANAが佐賀空港で使用するリモコン式牽引機器Spacer8600のコントローラー=19年7月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
ANAが航空機のリモコン式牽引を実用した佐賀空港=19年7月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
ANAが佐賀空港で使用するリモコン式牽引機器Spacer8600=19年7月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
佐賀空港でANAのA321neoに近づくリモコン式牽引機器Spacer8600=19年7月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
佐賀空港でANAのA321neoに近づくリモコン式牽引機器Spacer8600=19年7月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
佐賀空港でANAのA321neoに近づくリモコン式牽引機器Spacer8600=19年7月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
佐賀空港でANAのA321neoの前脚にセットされるリモコン式牽引機器Spacer8600=19年7月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
佐賀空港でANAのA321neoの前脚にセットされるリモコン式牽引機器Spacer8600=19年7月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
佐賀空港でANAのA321neoの前脚にセットされたリモコン式牽引機器Spacer8600=19年7月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
佐賀空港でANAのA321neoの前脚にセットされたリモコン式牽引機器Spacer8600=19年7月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
佐賀空港でANAのA321neoの前脚を持ち上げるリモコン式牽引機器Spacer8600=19年7月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
リモコン式牽引機器Spacer8600を使い佐賀空港を出発するANAのA321neo=19年7月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
リモコン式牽引機器Spacer8600を使い佐賀空港を出発するANAのA321neo=19年7月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
リモコン式牽引機器Spacer8600を使い佐賀空港を出発するANAのA321neo=19年7月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
佐賀空港でANAのA321neoから離れるリモコン式牽引機器Spacer8600=19年7月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
佐賀空港でANAのA321neoから離れるリモコン式牽引機器Spacer8600=19年7月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
佐賀空港でANAのA321neoから離れたリモコン式牽引機器Spacer8600=19年7月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
佐賀空港を出発する羽田行きNH982便のA321neo=19年7月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
佐賀空港を出発する羽田行きNH982便のA321neo=19年7月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
関連リンク
全日本空輸
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