パイロット不足が叫ばれる中、航空会社ではさまざまな方法で難局を乗り切ろうと、対策に取り組んでいる。訓練生や副操縦士、機長とキャリアを重ねるには10年以上の時間を要し、一人前のパイロットをすぐに育てるのは困難だ。
こうした中、JALは訓練期間を短縮した新方式「MPL(マルチクルー・パイロット・ライセンス)」を、2014年4月から導入。2017年2月には、MPLで合格した副操縦士が巣立っている。
MPLは、訓練の初期段階から機長と副操縦士の2人乗務(マルチクルー)を前提に訓練を実施。航空会社のパイロットとして求められる、チームで運航する能力を訓練の初期段階から身につけられ、訓練期間も従来より約半年短縮できるといった特徴がある。ICAO(国際民間航空機関)は2006年に規定しており、海外の航空会社も採用している訓練方式だ。
一方、日常の訓練をしながら、新人パイロットの訓練方式を大きく変えることは、安全に直結する問題でもあり、航空会社にとって難しい判断を迫られる課題だ。
JALでは2010年1月19日の破綻を機に、資格維持以外の訓練ができなくなった。新人パイロットの養成は全面停止。訓練生として入社した人も、地上勤務に移らざるを得なくなった。
しかし、訓練が停止したことで、新制度に大きく舵を切ることができた。JALはMPLのほか、2017年4月に施行された国の新たなパイロット訓練・審査制度「CBTA(Competency-Based Training and Assessment)プログラム」を適用し、エビデンス(証拠)に基づいて構築した訓練・審査制度「EBT(Evidence-based Training)」を導入。教官たちがやりたくてもできなかったことを、実現する機会を得た。
当紙では、JALのパイロット訓練生が、米フェニックスやグアムで訓練を重ねる姿を取材した。現地の様子に入る前に、2010年12月から今年3月まで運航本部長を務め、6月18日で取締役を退任した進俊則氏に、パイロット訓練改革の裏側や今後の課題を聞いた。
進氏は2012年から常務、2016年からは専務として、パイロットの視点を経営に生かしてきた。2013年に、社長時代の植木義晴会長がエアバスA350導入を決断した際、進氏も植木会長と同じく、A350に可能性を感じていた点も影響したようだ。そのA350は6月13日に、エアバスの最終組立工場があるトゥールーズを出発し、翌14日に羽田空港へ舞い降りた。
—記事の概要—
・自社養成再開、懐疑的な声も
・「あうんの呼吸で理解してくれた」
・A350訓練「これはすごい」
・複数機種の同時乗務解禁が課題
・「強い使命感持って」
自社養成再開、懐疑的な声も
「MPLは破綻前からやろうと思っていたのですが、切り替えるのが難しいよね、という話に社内ではなっていました。破綻がきっかけになったのは事実です」と、進氏は語る。
国の法整備も同じころに進み、「タイミングがバッチリ合った」(進氏)という。当然JALとしても、国がMPLを認める方向に進んでいたことは把握していた。しかし、破綻した直後のJALにとって、パイロットの自社養成そのものが、道を閉ざされる可能性があったという。
社内では自社養成による訓練再開に対し、懐疑的な声も聞かれたという。「訓練再開は早いのでは、という意見はありました。継続企業として、当時は将来を考える余裕がなかったですね。今後の事業規模が決まっていない中で、(必要になるパイロット数を)少し盛るくらいでと考えても、当時はバッファーを持つことがダメだった。事業規模にあったものにせよ、とね」。
JALが再生後、事業拡大ができる段階が訪れても、今度はパイロット不足が会社の成長を止めてしまうおそれがあった。
「あうんの呼吸で理解してくれた」
では、なぜJALはMPL導入を決断したのか。破綻から間もないこともあり、訓練コストの低減に目が行きがちな状況だった。しかし、進氏はそうした見方を否定する。訓練の
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