MRJ, エアライン, 機体, 解説・コラム — 2019年6月7日 21:40 JST

MRJ、パリ航空ショーに3号機出展へ 70席級コンセプト発表も

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 リージョナルジェット機「MRJ」を開発中の三菱航空機は6月7日、パリで17日に開幕する世界最大規模の航空ショー「第53回パリ航空ショー」で、70席クラス機のコンセプトを披露することを明らかにした。実機は昨年ロンドン近郊で開かれたファンボロー航空ショーに続き、MRJ90の飛行試験3号機(登録記号JA23MJ)を持ち込むという。

 カナダのボンバルディアが航空機事業から事実上撤退を模索する中、パリ航空ショーを契機に、リージョナルジェット機世界最大手であるブラジルのエンブラエルと市場を分け合う2強の座を目指す。

18年のファンボロー航空ショーで飛行展示を披露するMRJの飛行試験3号機。パリ航空ショーにはどのようなデザインで現れるのだろうか=18年7月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
スペースジェット「理解いただける」
日本でも飛行試験へ
快適性で差別化する70席クラス

スペースジェット「理解いただける」

 名古屋市内で記者会見した三菱航空機の水谷久和社長は、「名古屋から世界市場にMRJを提供していくことに集中している。2020年中(ごろという納期を)、絶対守るんだ、という気持ちは今も変わらない」と述べ、量産初号機の納期は、5度目の延期となった2020年中ごろを死守する姿勢を示した。

MRJの現状を説明する三菱航空機の水谷社長=19年6月7日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 MRJの海外生産の可能性については、「一つの生産ラインで追いつかず、二つ目が必要になれば、将来の選択肢としてはあり得るが、今の時点では考えていない。日本(での生産)をやめることは決してない」(水谷社長)と強調した。

 また、MRJの名称を「SPACEJET(スペースジェット)」に改める可能性については、「理解いただけると思っている」と、親会社の三菱重工業(7011)から賛同を得られるとの見方を示した。

 奇数年に開催されるパリ航空ショーは、前回2017年にMRJの実機を初めて披露した航空ショーだ。パリへ持ち込む3号機について、水谷社長は「(従来から)変わっているわけではない」と述べた。一方で、改称の可能性を否定していないことから、6月4日にオンライン広告が一部メディアで表示された、SPACEJETの機体デザインに衣替えして登場する可能性もありそうだ。

 70席クラス機に関しては、「機体は(まだ)ないが、モックアップやバーチャルなもので、われわれがどういうイメージのものを考えているかをアピールしたい」(水谷社長)と語った。

日本でも飛行試験へ

 MRJ開発を主導する、三菱航空機のアレックス・ベラミーCDO(最高開発責任者)兼プログラム推進本部長は、飛行試験の進捗について、「飛行試験初号機と3号機、4号機で、5月は累計139時間14分、48フライトを実施した。(飛行試験は一般的に1カ月で)40フライトできれば良い数字と言われている」と述べ、順調に試験項目を消化しているという。

MRJの開発状況を説明する三菱航空機のベラミーCDO=19年6月7日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「今までのMRJの進捗はゆっくりした部分があったが、折り返し地点に来ている」(ベラミー氏)と、開発の進捗状況を表現した。

 ベラミー氏によると、米国で飛行試験に使用している試験機4機のうち、2号機については、改修後の機能試験を実施中で、6月中には飛行試験に復帰する。

 2号機以外は機体の安全性を航空当局が証明する「TC(型式証明)」取得に向け、初号機が改善版ブレーキソフトウェアを搭載したり、4号機によるエンジンやAPU(補助動力装置)の試験が完了するなど、改修や試験が進んでいるという。

 3号機は、パリ航空ショー出展に向けた準備が進められている。ベラミー氏は、「航空ショーには数日しか滞在しない。終わり次第、試験に戻る」と述べ、航空会社の経営陣が会場を訪れる初日と2日目ごろまでは展示される見込み。

 また、これまでの設計変更を反映して製造中の飛行試験10号機について、ベラミー氏は「初飛行に向け、大きな進捗を遂げている」とし、「米国に持って行く計画を検討している」と、従来通り米国の飛行試験拠点であるモーゼスレイクへ持ち込む意向を示した。

 製造中の飛行試験機ついて、「もう1機あり、こちらは日本で活用する。日本で承認が取れた空域で飛行試験を実施する」(ベラミー氏)と現状を説明した。

快適性で差別化する70席クラス

 リージョナルジェット機メーカーは、世界的に再編が進んでいる。最大手のエンブラエルは、ボーイングと年内に合弁会社を発足させる見通し。一方のエアバスは、ボンバルディアから100-150席クラスの小型旅客機「Cシリーズ」を買収。「A220」として2018年7月から旅客機のラインナップに加えた。

国際航空宇宙展の会場に展示されたMRJ90(左)とMRJ70の模型=18年11月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 そして、三菱重工は航空機事業の売却を進めるボンバルディアに、最後まで残った旅客機「CRJ」の事業買収を模索している。

 ベラミー氏は、「今後20年間のリージョナルジェット機市場予測で5137機の需要が見込め、もっとも多いのは北米だ」と市場規模を説明する。

 「機齢20年に達する機材の代替需要が世界で毎年200機あるが、ボンバルディアは航空産業から抜けるので需要を満たさない。エンブラエルがこのエリアの競合として残るが、リージョナルジェット機市場を取り込む上で、今までで一番良い機会だ」(ベラミー氏)と、ボンバルディアの事業撤退を好機とみる。

 商機が訪れた今、三菱航空機は70席クラス機の開発を加速させる。MRJはMRJ90(標準座席数88席)と、短胴型のMRJ70(76席)の2機種で構成。前出の需要予測で全体の39%を占める北米は、2027機の需要が見込める一方で、航空会社とパイロット組合の間で結ばれた労使協定のひとつ「スコープ・クローズ」による、リージョナル機の座席数や最大離陸重量の制限が存在する。このため、完成が近づくMRJ90よりも、規定をクリアしているMRJ70を売り込みやすい状況だ。

MRJ70と同じサイズの機体がないE2シリーズ=18年7月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 MRJ70と同サイズの70席クラス機は、エンブラエルの次世代機「E2シリーズ」には存在せず、後継機需要を取り込める可能性がある。

 ベラミー氏は、「快適性を改善できるような工夫をする。ワイドボディー機より快適な環境を提供する」と意気込む。

 また、航空機ビジネスで重要な、販売後のカスタマーサポート部門も強化する。ベラミー氏は「ボーイングといくつかの分野で提携しているが、全日本空輸(ANA/NH)の初号機就航に向け、社内のカスタマーサポート能力を強化している。現段階はフェーズ1(第1段階)で、フェーズ2はグローバルなカスタマーサポート体制構築だ」と、世界規模のサポート体制の必要性に触れた。

 ボンバルディアからCRJ事業を買収することで、エンブラエルと双璧をなすリージョナルジェット機メーカーを目指す。

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