日本航空(JAL/JL、9201)グループで空港のグランドハンドリング(地上支援)業務を担うJALグランドサービス(JGS、大田区)は4月17日、VR(仮想現実)技術を用いた航空機の牽引(けんいん)訓練用シミュレーターを羽田空港で公開した。日本では初導入で、持ち運びできることから地方空港の訓練などにも活用する。
—記事の概要—
・時間や場所選ばず訓練
・教官が訓練生の視点把握
時間や場所選ばず訓練
グラハン業務は航空機の牽引のほか、手荷物や貨物搭降載作業などを指す。このうち航空機の牽引訓練は、実際の機体などを使うため時間や場所などの制約があり、長期間の訓練が必要になる。一方、航空需要が旺盛なことから、航空機を牽引する仕事量は増加傾向にあり、牽引技術を持つ人材の育成が課題になっている。
JGSは、VRやAR(拡張現実)などの技術を有するコミュニケーション・プランニング(港区)と牽引訓練用のVRシミュレーターを共同開発。8日から導入した。
2メートル四方(4平方メートル)の場所があれば1セットを設置可能で、キャリーカートで簡単に運べることから、時間や場所を選ばずに訓練できる。システムは市販されている汎用デバイスのみで構成されているため、コストダウンも実現している。
教官が訓練生の視点把握
17日に羽田空港で開かれた説明会では、JGSの社員が航空機と牽引車をつなぐ「トーバー」を使ったプッシュバック(機体の押し出し)など、一連の流れをVRシミュレーターで実演した。
VRシミュレーターで再現できるのは、羽田空港第1ターミナルにある3番と12番、17番、24番スポット(駐機場)で、それぞれ異なる環境を体験できる。航空機の機種も設定可能で、JALが運航しているボーイング777型機や787、737などのほか、他社からの委託で担当する747やエアバスA380型機、A320なども選択できるようにし、JALが今年9月に導入予定のA350も選べる。
訓練では時間帯や気象条件も設定できるが、モニター画面上の違いのみで、雪で滑りやすくなるといった操作感の違いは再現していないという。
また、訓練生が見ている場所が画面上に白い点で表示されるため、教官が訓練生の視点をリアルタイムで把握できる。ボタンひとつで同じ動作を繰り返し訓練できるのも特徴で、実機を使った場合と比べ、訓練時間を短縮可能になった。
VR技術により、360度全方位の視野を再現できることから、平面モニターでは困難な振り向いたり、のぞき込むといった、航空機の牽引時に必要な安全確認の動作にも対応している。
一方、資格取得までに必要な訓練時間の規定を改定することは、現在のところ予定していないという。予習や復習といった形で、実機とVRシミュレーターを併用することで、資格取得までの期間短縮を目指す。
今後はPBB(パッセンジャー・ボーディング・ブリッジ)など、新たな訓練プログラムの開発や、イレギュラーに備えた緊急時の操作訓練などの開発も検討していく。
関連リンク
日本航空
JALグランドサービス
コミュニケーション・プランニング
・JAL、航空機の牽引訓練にVRシミュレーター 持ち運び可能、地方空港でも(19年4月8日)
・JALのA350、羽田-福岡線に9月1日就航 3号機まで特別塗装(19年4月4日)
・ANA、佐賀空港でグラハン新技術を検証 「イノベーションモデル空港」に(19年3月27日)
・JAL、手荷物積込にパワードスーツ グラハン負担軽減へ(19年2月12日)
・福岡空港が優勝奪還 JALグラハンコンテスト、出発前の荷物搭載スキル競う(18年10月18日)
写真特集・ANAグラハン用シミュレーター
トーイング・トラクター編 3日間で150機プッシュバック(17年10月10日)
PBB編 777-300で搭乗橋の操作訓練(17年10月8日)