2018年9月、台風21号によって関西空港が大きな被害を受け、その2日後には北海道胆振東部地震で新千歳空港が被災した。自然災害が多発する日本において、空港の災害対策は喫緊の課題であり、特に航空会社や空港会社スタッフの連携を支える通信インフラには、高い信頼性の確保が求められる。
昨年の度重なる災害では、空港内の携帯電話が一時的に使えなくなり、空港業務も影響を受けた。そのため、非常時にも確実に機能する無線通信の重要性が顕在化している。世界各国で使用されている業務用無線システムに目を向けると、「TETRA(TErrestrial Trunked RAdio)」が主流だ。欧州統一規格の公共安全機関向けデジタル移動通信システムで、サミット会議やスポーツイベント、各国の軍や警察、消防、自治体と、さまざまな分野で導入が進んでいる。
TETRAは世界約80の空港で採用実績があり、現在も需要が拡大中。日本では現在、成田空港と那覇空港の空港MCA無線に代わる通信基盤として稼働しており、羽田空港や中部空港(セントレア)でも運用が始まる。このほかにも、約20の地方自治体では防災無線システムとして採用されている。
専用の基地局を設置するTETRAは、携帯電話網の輻輳(ふくそう)や障害の影響を受けない。システム構成もシンプルで、冗長化が図られており、高い信頼性と安定性が得られることから、今後日本の空港への導入拡大が見込まれる。
成田を皮切りに、日本で空港へのTETRA導入をいち早く実現した日本空港無線サービス(NAR)の高橋禎一社長に、TETRAの概要や優位性を尋ねた。そして、成田でTETRAを使用している成田国際空港会社(NAA)、ANA成田エアポートサービス、バニラ・エアの担当者から現場の声を聞いた。
専用通信網と小型軽量端末
日本空港無線サービスは、東日本電信電話(NTT東日本)の100%子会社で、成田空港が開港する前年の1977年設立。TETRAは2016年に成田へ導入し、2017年には那覇でもサービスを始めた。今年7月には、中部空港でサービスを開始する。いずれもモトローラ・ソリューションズが開発した基地局や端末(無線機)を導入している。
「当社のミッションは、空港専門の通信事業者として空港の安全を高めること。システムの設計から電波状態の管理・運用まで責任を持って取り組んでいます」と語る高橋社長は、NTTの運用部門で災害対応の経験を持ち、空港の安心・安全に対する思いは強い。成田の場合、専用の基地局を3基、屋外アンテナを2カ所設けたほか、空港ビル内に設置された屋内アンテナは約100カ所にものぼり、成田空港をくまなくカバーする高信頼な無線通信網を構築した。
使用する航空会社などからは、従来のMCA無線と比べ、空港内のどこでもクリアな通話ができるようになったとの声が聞かれる。そして、大きなエンジン音の影響を受ける航空機周辺でも、明瞭で高品質な通話が可能な点などがユーザーの支持を集めている。
通話品質のほかに、空港の地上スタッフなどから評価が高いのが、小型軽量化されたTETRA端末「ST7000」だ。「空港業務に最適化された高性能な無線端末で、2017年度にはグッドデザイン賞を受賞しています」と、高橋社長は話す。航空会社のスタッフから直接聞いた意見を基に、NARとモトローラ・ソリューションズが共同開発した。耐久性や長時間の電池寿命を保ちながらも小型軽量化されており、プロフェッショナル ユースに見合うスタイリッシュな無線端末だ。
そして、イヤホンマイクなどのアクセサリも、実際に使用している空港スタッフの意見を基に改善を行い、ターミナルの拡張などによる電波状態の変化にはアンテナ増設による対策を迅速に行っている。また、年間契約のほかに、月単位・日単位の契約も可能で、降雪時やスタッフの研修時などでの一時的・突発的な利用ニーズにも応えている。きめ細やかなアフターサポートや柔軟な契約形態は、空港専門の事業者ならではと言える。
メッセージ機能や位置情報活用も
TETRAが優れている点は、小型軽量な無線端末や通話品質だけではない。業務に合わせて柔軟にグループを登録できるほか、アイデア次第で多彩な機能を活用できる点も、空港のニーズにマッチしている。
高橋社長は、「音声通信に加え、テキストメッセージを活用することで、正確で迅速なコミュニケーションに役立ちます」とメッセージ機能に触れた。TETRA無線端末はテキストメッセージの送受信機能を持ち、パソコンの専用ソフトからは、グループや無線端末全体への一斉送信も可能だ。
TETRAのテキストメッセージシステムは、インターネット回線を使用しないため、セキュリティーの高さも特徴。成田の航空会社ではバゲージタグ番号などの通知に利用されており、今後は運航情報や災害発生時の一斉連絡などでの利用も期待される。
また、TETRAの無線端末は、位置情報を送信するGPSやiBeacon(アイビーコン)に対応し、無線端末の位置をパソコンなどに表示可能。「車両や空港スタッフの位置を把握することで、空港業務の生産性向上にもつながると考えています」と、TETRA端末の有効活用を提案する。
そして、高橋社長が描くのが、空港間ネットワーク構想だ。専用回線で空港間を結ぶことで、地震など大規模災害が発生した際も、携帯電話など公衆回線の輻輳の影響を受けずに通信できるネットワークの構築だ。
「成田・那覇・中部の基地局は既につながっていて、空港間で相互に通話できます。大規模災害時の救援・復旧活動に不可欠となる空港間連携の通信基盤として、さらに拡大させていきます。もちろん日常業務でも、離れた空港の旅客サービス部門間や整備士間などの連絡に役立ちます」(高橋社長)と、TETRAの拡がりによる可能性に触れた。
空港スタッフ間の音声通話による無線連絡だけではなく、空港での業務改善や広域な災害対策に役立てられる点こそが、TETRAの優位性と言えるだろう。
(第2回へつづく)
制作協力:モトローラ・ソリューションズ
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