日本航空(JAL/JL、9201)は1月18日、国土交通省航空局(JCAB)に対し、事業改善命令と業務改善勧告に対する報告書を提出した。パイロットや客室乗務員に飲酒トラブルが相次いだことによるもので、アルコールが微量でも検出された場合は乗務を停止する。
—記事の概要—
・アルコール検出で乗務停止
・事なかれ主義横行
・頻発する飲酒トラブル
・赤坂社長ら減俸
アルコール検出で乗務停止
JALが提出した報告書によると、パイロットと客室乗務員は、乗務前のアルコール検査で呼気1リットルあたりのアルコール濃度が0.00ミリグラムを超えて微量でも検出された場合、乗務を停止する。乗務前のほか、乗務後にもアルコール検査も定めた。客室乗務員は、乗務中に相互でアルコールや薬品の影響を確認。影響が疑われる場合は、会社への報告を義務付ける。
これらに違反した場合、就業規則に懲戒対象となることを明記。懲戒委員会で処分するよう改めた。懲戒委員会のトップには、JALの安全統括管理者で、運航本部長を務めるパイロット出身の進俊則専務が就き、運航本部や客室本部、整備本部、空港本部など、運航に携わる現業部門の役員も加わる。
懲戒処分は、現在の「出勤停止からけん責」までを、「懲戒解雇から出勤停止」に引き上げる。
また、JALグループ全社員を対象に、飲酒に対する安全意識を再徹底するほか、面接やカウンセリングにより、飲酒トラブルの発生を未然に防ぐ。
事なかれ主義横行
国交省への報告書提出後、都内で会見したJALの赤坂祐二社長は、飲酒トラブルが頻発したことについて「航空の信頼を失墜させたことに、深くお詫び申し上げる」と陳謝。トラブル後に設置した社内検証委員会で、「課題をしっかりと掘り下げていきたい」と述べた。
過去も含め、明るみに出た飲酒問題について、赤坂社長は「認識の甘さが大きく浮き彫りになった」と反省。アルコールが検出された場合の乗務停止など基準を明確化し、厳格化する。これまでは対応を厳格化することにより、運航に影響が生じたり、同僚を傷つけるなどの「都合が悪い」(赤坂社長)事案の発生を避けてきたと振り返り、「対応をあいまいにしてきた結果、最も重要である安全が置き去りになった」と述べた。
社内検証委員会は、役員や関連会社の社長などのほか、パイロットら「客観的な意見を言えるような」(赤坂社長)メンバーを、赤坂社長が選定。外部のアドバイザーとして、ノンフィクション作家の柳田邦男氏を据え、年度内をめどに結論を取りまとめる。
これまでは都合の悪いものに向き合わず、互いに干渉し合わない「事なかれ主義」が横行していたと振り返った赤坂社長は、「緩みは『安全にとって大きな脅威になる』と認識したい」と述べ、「われわれは変わっていく」と決意を新たにした。
頻発する飲酒トラブル
JALは2017年から今年にかけて、パイロットと客室乗務員による飲酒トラブルが頻発している。2018年10月28日には、男性副操縦士(当時)からロンドン・ヒースロー空港で乗務前に基準を超えるアルコール値が検出され、英国で身柄を拘束された。この副操縦士は英国で禁錮10カ月の判決が言い渡され、懲戒解雇処分となった。
2017年12月2日には、成田発シカゴ行きJL10便で、統括機長(59)が同乗する別の機長(53)にアルコール検査の身代わりをさせていた。発生から1年以上経過した今年1月9日に発覚し、2人を懲戒処分とした。
JALグループの日本エアコミューター(JAC/JC)では、2018年11月28日に鹿児島発屋久島行きJC3741便に乗務予定だった機長が、アルコール検査で制限値を超えた。同便は機長交代の影響で1時間遅れて出発し、後続便にも影響が出た。
客室乗務員のトラブルは、2018年12月17日の成田発ホノルル行きJL786便で発生した。女性客室乗務員(46)が乗務中に、シャンパンの小ビン(約170ミリリットル)を1本あけ、プラスチック製コップに半分ほどついで飲んだ。この客室乗務員は、2017年11月17日のホノルル発成田行きJL781便でも飲酒を疑われていたが、当初は2件とも否定。その後、今年1月8日の面談で2件の飲酒を認めた。
また、2018年5月22日には、ホノルル発関西行きJL8791便の機内で、乗務中の20代男性客室乗務員が飲酒。乗客からの指摘で発覚した。
赤坂社長ら減俸
業務改善命令に伴い、役員らの処分を決定。赤坂社長は月額報酬を2月から3カ月間、40%減額する。植木義晴会長と藤田直志副社長、進専務の3人は2カ月間20%、安部映里客室本部長とJACの加藤洋樹社長の2人は、1カ月間20%それぞれ減額する。
2017年11月と、2018年12月に機内で飲酒した客室乗務員は、1月17日付で懲戒処分を決定。1月末で退職する。
関連リンク
日本航空
日本航空と日本エアコミューターに対する行政処分、行政指導への対応について(JAL)
各社の再発防止策
・エア・ドゥのパイロット、飲酒検査せず乗務 アルコール検出なし(19年1月18日)
・ANA、滞在先での禁酒24時間以上に パイロット・CA対象、国交省に報告書(19年1月18日)
・スカイマーク、3月から新アルコール検知機 機長飲酒で再発防止策(19年1月18日)
JAL客室乗務員の飲酒問題
・国交省、JALに業務改善勧告 客室乗務員の機内飲酒で(19年1月11日)
・JAL客室乗務員、乗務中の飲酒認める ギャレーでシャンパン(19年1月10日)
・JAL、客室乗務員が機内で飲酒 昨年も疑い、本人は否定(18年12月25日)
・JAL、乗務中の客室乗務員からアルコール検出(18年12月21日)
・JALの男性CA、乗務中にビール 利用客が指摘(18年6月6日)
JALグループ運航乗務員の飲酒問題
・JAL機長、同乗機長に身代わり依頼 アルコール検査不正で懲戒処分(19年1月9日)
・JAL、アルコール感知機未使用163件 同一機長が7割弱、規定明記で再発防止(18年12月21日)
・JAL、飲酒の副操縦士を懲戒解雇 禁錮10カ月、赤坂社長ら減給(18年11月30日)
・JAC、機長飲酒で遅延 4便に影響(18年11月28日)
・JAL、逮捕の副操縦士がマウスウォッシュ使用 酒臭さ消すためか(18年11月19日)
・JALグループ、パイロット飲酒で16件遅延 昨夏の新型検知器導入後(18年11月17日)
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・飲酒で拘束されたJAL副操縦士、29日に判決 国交省は基準強化(18年11月2日)
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ANAの飲酒問題
・ANAウイングス機長、副操縦士に口裏合わせ依頼 飲酒で虚偽報告(19年1月9日)
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国交省の対応
・パイロットの体内アルコール濃度、英国と同基準に 国交省が中間報告(19年1月7日)
・国交省、JALに事業改善命令 ANAとスカイマークなど厳重注意 パイロット飲酒問題(18年12月22日)
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・国交省、JALとANAに立入検査 パイロット飲酒で(18年11月27日)