エアライン, 空港 — 2018年11月4日 23:57 JST

JAL、旅に出たいお年寄りの思い実現　大分へ介護予防チャーター

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　もう一度旅に出たい、というお年寄りの思いを実現しようと、日本航空（JAL/JL、9201）は介護予防のデイサービスを提供する早稲田エルダリーヘルス事業団（東京・港区）と共同で、「介護予防チャーター」を11月3日と4日の2日間実施した。30人のお年寄りが家族などとともに、大分県の別府湾で1泊2日の旅行を楽しんだ。

介護予防チャーターJL5745便の機内でインフライト体操を実演するなでしこラボ2期メンバーで客室乗務員の中村さん＝18年11月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
・運動続ける目的に
・全員でインフライト体操
・チャーターの次は定期便
・次は沖縄

運動続ける目的に

　往路の成田空港から大分空港までは、サービス介助士資格を持つ客室乗務員が乗務するチャーター機を利用。別府湾のホテルに宿泊し、帰りは定期便で羽田へ戻った。JALによると、同社の全客室乗務員のうち、1割強にあたる日本人約730人が同資格を持っているという。

なでしこラボ第3期のキックオフイベントで介護チャーター実現に向けたプランを説明する第2期からのメンバーの三浦さん＝17年11月9日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

なでしこラボ第2期研究発表会で「なでしこ介護チャーター」の構想を発表するチーム「TAKE OFF」のメンバー＝17年7月6日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

　介護チャーターは、JALの社内研究組織「なでしこラボ」の第2期メンバーが企画。2015年9月に設立されたなでしこラボには、JALグループから有志が集まり、女性をはじめとする多様な人材活用や、親の介護といった、社内で共通する課題をどう解決していくかを議論してきた。

　なでしこラボのメンバーは、介護と仕事の両立に悩む社員を支援する仕組みを考える中で、早稲田エルダリーヘルスが運営するデイサービス「早稲田イーライフ」を訪問。フィットネスジムのような施設では、お年寄りが介護予防の運動プログラムに取り組んでいた。

　ひざを悪くするなどで、旅好きでも遠出をあきらめているという話をお年寄りたちから聞いたメンバーが、もう一度旅に出ることを運動を続ける目的にしてもらおうと、介護チャーターの企画を考え、2017年7月に開かれた研究発表会で提案。植木義晴社長（当時）がその場で即決し、実現した。

全員でインフライト体操

　3日の往路は品川に集合し、バスで成田空港へ移動。「ゴー、なでしこ」にちなんで名付けた大分行きのチャーター、JL5745便（ボーイング737-800型機、登録番号JA349J）に乗り、午前11時すぎに出発した。富士山や眼下に広がる琵琶湖などを眺めたお年寄りたちは、家族らと写真を撮ったり、機内モニターに表示された地図を見て、空の旅を楽しんでいた。

介護予防チャーターに乗務した中村さん（左から2人目）らサービス介助士資格を持つJALの客室乗務員＝18年11月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

　JL5745便に乗務した客室乗務員5人のうち、中村美香さんは第2期なでしこラボのメンバー。介護チャーターは中村さんとは別のチームが発案したが、客室乗務員がいないチームだったため、中村さんも誘われたという。

　機内では、特製のお弁当や飲み物も提供された。成田で開かれた出発式で、中村さんは「大分産の食材も使った薄味の和食で、おいなりさんは食べやすい大きさにしました」とお弁当を紹介していた。

　食後は、JALが国際線の機内ビデオで放映している「インフライト体操」の時間を設けた。中村さんやなでしこラボのメンバーが見本を示すと、お年寄りたちも一緒に体操し、狭い機内での疲れを取った。

　介護チャーターに参加したお年寄りの中には、初めて飛行機に乗る人もいた。窓側の席に座った女性は「景色がきれいで楽しかったです」と満足げだった。別の女性にお弁当の感想を尋ねると「薄味と聞いていたけど、しっかりした味付けでおいしかったです」と、地上で食べる食事と変わらない味付けを喜んでいた。

チャーター便→定期便と慣れてもらう

　なでしこラボを創設した大川順子副会長は、「実現までに時間は掛かったが、飛行機1機を飛ばすにはなでしこラボのメンバーだけではなく、JALのいろいろな部署が協力してフライトを作り上げるのでうれしい」と、全社的な取り組みにできたことに満足していた。

大分へ向かう介護予防チャーターJL5745便の機内で参加者と語らう大川副会長＝18年11月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

　乗務を終えた中村さんは、「普段のフライトよりも、あっという間に過ぎてしまいました。初めて飛行機に乗った方も喜んでくださってうれしかったです」と喜んだ。

　介護チャーターに携わったスタッフ22人のうち、なでしこラボ第2期メンバーの一員として企画立案に参加し、翌年の第3期で実現に向けた取り組みを進めてきた三浦加奈子さんは、実現までの苦労を振り返りながら「インフライト体操を、みなさん笑顔で同じ動きをしてくださったのが、一体感があってうれしかったです」と、笑顔を弾ませた。

　チャーター実現に向けたチームは2017年10月に発足したが、冬場はお年寄りが旅に出るには不向きだったりと、チャーターの内容を考えては練り直しとなった。今年4月に早稲田イーライフの施設でボランティア活動をしたり、JALの格納庫見学を実施し、社内での提案3度目で、実現にこぎつけたという。

　三浦さんによると、チャーター便の往路に対し、復路は定期便にしたのは、飛行機で旅に出ることのハードルを、一つずつお年寄りたちに下げてもらう目的があったという。「まずはチャーターで慣れていただき、次は私たちと定期便で東京へ帰り、その次はご自身で旅に出ていただきたいですね」と、狙いを説明した。

次は沖縄

　今後の実現に向け、どのような課題があったのだろうか。「限られた時間でお弁当やお土産を配ったりと、立て続けに実施したのが時間がかかる要因になってしまったので、時間配分を見直したいですね」と三浦さんは話す。一方で、お弁当などを機内で配ることにしたのは、「つえやシルバーカーを使っている方もいらっしゃるので、席に着くまでに荷物が増えるのは避けようと、機内で配るようにしました」と、通常のチャーター便とは違った条件もあったようだ。

大分へ向かう介護予防チャーターJL5745便の機内で参加者にTシャツにデザインされたなでしこラボのロゴを見せる三浦さん＝18年11月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

　今回の目的地となった大分は、事前にお年寄りにアンケートを取って決めたもので、機内で出会ったお年寄りたちも、温泉などを楽しみにしていた。

　三浦さんとしては、次はどのような目的地に連れて行ってあげたいのかを聞くと、「寒い時期は体を動かしにくいので、暖かい時期だと沖縄ですね。今回は久々に飛行機に乗る方もいらっしゃったので、飛行時間が長い航路を避けたのですが、次は少し長い沖縄旅行も良いかもしれないですね」と声を弾ませた。

　チャーター便の機材とクルーは、3日夕方には羽田へ帰着。お年寄りたちと別行動となったが、4日の定期便に乗務する客室乗務員6人は往路の5人が中心となり、お年寄りたちにはサプライズの再会となった。

＊写真は45枚。

成田空港に到着し保安検査場へ向かうJAL介護予防チャーターの参加者とスタッフ＝18年11月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

成田空港で出発を待つJAL介護予防チャーターの737-800＝18年11月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

成田から大分へ向かうJAL介護予防チャーターJL5745＝18年11月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

成田空港で開かれた介護予防チャーターの出発式であいさつするJALの大川順子副会長＝18年11月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

成田空港で開かれた介護予防チャーターの出発式であいさつする早稲田エルダリーヘルス事業団の筒井祐智社長＝18年11月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

成田空港で開かれた介護予防チャーターの出発式でお弁当を紹介する客室乗務員の中村さん＝18年11月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

成田空港で開かれた介護予防チャーターの出発式であいさつするなでしこラボのメンバーら＝18年11月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

介護予防チャーターの参加者にお土産として配られたオリジナルのトートバッグとタオル＝18年11月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

成田から大分へ向かうJAL介護予防チャーターJL5745便に搭乗する参加者ら＝18年11月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

成田空港で介護予防チャーターJL5745便に搭乗する参加者を案内する大川副会長＝18年11月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

成田空港を離陸する介護予防チャーターJL5745便＝18年11月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

大分へ向かう介護予防チャーターJL5745便の機内で空の旅を楽しむ参加者＝18年11月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

大分へ向かう介護予防チャーターJL5745便の機内で参加者に窓の外の景色を案内する客室乗務員＝18年11月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

雲海を飛ぶ介護予防チャーターJL5745便＝18年11月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

大分へ向かう介護予防チャーターJL5745便の機内で参加者と語らう客室乗務員の中村さん＝18年11月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

大分へ向かう介護予防チャーターJL5745便の機内で参加者にお弁当を手渡す客室乗務員＝18年11月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire