全日本空輸(ANA/NH)などANAグループは10月14日、航空機のトーイング(牽引)にバッテリー駆動のリモートコントロール式機器を使う実証実験を、羽田空港で公開した。
実証実験では、整備訓練用の退役機(ボーイング737-500型機、旧登録番号JA301K)を対象に、バッテリーで動く独mototok社製「Spacer8600」を検証。運転席はなく、リモコンで操作できる。
対応機種は737-500のほか、737-700と-800、エアバスA320とA321で、最大牽引能力は95トン、最高速度は6キロ。3時間のフル充電でプッシュバックを30回行える。
ANAによると、従来の牽引車両と比べて広い視野を確保でき、航空機の車輪の向きなどを間近で確認できることから、作業者の負荷軽減や、短期間での教育・訓練が期待できるという。バッテリーで動くことから、空港でのCO2(二酸化炭素)排出量の削減にもつなげる。2020年までの導入を視野に、実証実験ではSpacer8600の性能や安全性、操作性、作業者の教育訓練の効率化など検証する。また、大型機の移動や牽引業務への適用拡大に向け、調査研究を進めていく。
実証実験は、8月22日から開始。mototokのインストラクターによる訓練を受けた6人が中心となり指導し、9月21日から29日は夜間駐機機材を使用してプッシュバック、10月7日から14日までは整備訓練用737-500を使用し、格納庫への出し入れを実施した。経験者と未経験者に対して訓練をそれぞれ実施し、習熟に違いがどの程度あるのかも検証したという。
14日は、航空機へSpacer8600を取り付ける作業から、格納庫内と屋外の駐機場所までの間を移動する様子などを公開。リモコンを操作したのは、未経験者として実証実験に参加した整備士で、途中S字となるコースを通過させるなど、プッシュバックで行う一連の作業を実演した。
Spacer8600を使用した実証実験は、14日で終了。今後はこれまでの実証実験で得られた結果を基に、機器の性能や安全性、操作性、教育訓練の効率化なども検証して、評価をまとめる。現行の規定や基準、資格体系の整理を進め、2020年までの導入を目指す。
mototok社製の同種の機器は、国内ではビジネスジェット運航支援業務を行うフジドリームアビエーションエンジニアリング(FAE)が、2015年から運用中。リモートコントロールで航空機を移動させる機器としては、ジェットスター・ジャパン(JJP/GK)が「PPU(Power Push Unit)」と呼ばれるものを2012年から導入し、成田空港で2基運用している。PPUはプッシュバック専用であることがSpacer8600と異なるなどの違いがある。
ANAでは、プッシュバックなど、グランドハンドリング業務の訓練用にシミュレーターを2017年から導入しているが、Spacer8600は取り扱いが簡単なため、シミュレーター訓練は不要だという。
*写真は15枚。
737-500を訓練機材化
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