なぜ次期政府専用機は777-300ERが選ばれたのか

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 白い機体に赤い曲線が描かれた次期政府専用機の初号機(ボーイング777-300ER型機、登録番号N509BJ)が8月17日朝、新千歳空港の滑走路に降り立った。今後は2019年4月の運用開始に向け、航空自衛隊はパイロットや民間機の客室乗務員にあたる空中輸送員などの訓練を本格化させる。

スイスから千歳に到着した次期政府専用機=18年8月17日7時56分 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

新千歳空港に着陸する次期政府専用機=18年8月17日7時51分 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 千歳基地の特別航空輸送隊に所属する現行のボーイング747-400型機の後継機として、2014年8月に777-300ERが選ばれた。外観のデザインコンセプトは日章旗。白い機体全体に大きく描かれた赤い曲線を上面から見ると、尾部に向けてV字状にデザインされている。国名は前から2番目のドア(L2/R2ドア)上部に記された。

 米シアトルで製造された初号機は、2016年10月にバーゼルのユーロエアポート・バーゼル・ミュールーズ・フライブルク空港へ到着。2号機(N511BJ)も2017年4月にバーゼル入りし、空港に隣接するジェット・アビエーションが内装を担当した。

 航空機の位置情報を提供するウェブサイト「フライトレーダー24」(flightradar24.com)によると、初号機は現地時間8月16日午後2時39分(日本時間同日午後9時39分)にバーゼルを離陸し、新千歳空港には17日午前7時51分すぎに着陸した。

 747-400の後継となる747-8や、日本企業が主要部品の35%を製造する787、777-300ERの発展型となる777X、ほぼ同じサイズのエアバスA350-1000型機など、候補に挙がってもおかしくない機種はいくつか存在する。なぜ、777-300ERが選ばれたのだろうか。

—記事の概要—
ANAもJALも777-300ER提案
長距離国際線で10年以上実績

ANAもJALも777-300ER提案

国内線を最後に退役したANAの747=14年3月31日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 政府の政府専用機検討委員会が、次期政専機として777-300ERを選定し、現行機と同じく2機導入すると発表したのは、4年前の2014年8月12日。整備や教育の委託先は、日本航空(JAL/JL、9201)からANAホールディングス(ANAHD、9202)に変わった。

 機種選定の条件として、片道約13時間かかる米国東海岸へノンストップで飛べることや、貴賓室や執務室など要人輸送に必要な装備を設けられること、国内の航空会社が長期的に整備できることなどの条件を政府は挙げていた。

 このことから、ANAHDとJALの2社とも、777-300ERを提案していた。しかし、なぜほかの機種は、提案段階で消えてしまったのだろうか。

国内で唯一747-8を飛ばすNCA=16年3月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 まず、国内の航空会社が運航する747の旅客型は、全日本空輸(ANA/NH)が2014年3月31日に運航した那覇発羽田行きNH126便を最後に、全機が退役済み。最新のジャンボ機となる747-8は、国内では日本貨物航空(NCA/KZ)が貨物型の747-8Fを導入しているのみで、旅客型はANAとJALどちらも導入していない。

 747に限らず、国内で運航されている旅客機や貨物機の整備は、ANAかJALのグループ会社が担うケースがほとんどで、海外に委託する際も、これらの整備会社が重要な役割を果たす。

 つまり、ANAもJALも運航していない747-8は、国内の航空会社が長期的に整備できる、という条件をクリアできなかったのだ。

 ちなみに、747-200Bを基に開発された米国の大統領専用機VC-25A「エアフォース・ワン」の後継機は、747-8が選定された。2019年に機体改修をスタートし、2024年には初期運用能力を獲得できる見通しだ。

長距離国際線で10年以上実績

19年3月をもって退役する現行の政府専用機=15年7月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 では、ANAもJALも導入している787はどうか。787では全長がもっとも長い787-10が初飛行したのは2017年3月31日で、2013年9月17日に初飛行した787-9が、選定当時は787のうちもっとも大きな機体だった。

 現行の政専機は乗客用座席数が約150席あり、政府は貴賓室などを備えた上で、同等の座席数を求めていた。

 ボーイングが2クラス構成で想定した標準座席数で機体サイズを比べると、777-300ERが396席であるのに対し、787-9が290席、787-10でも330席と、787では要件を満たすのは難しい。要人輸送だけではなく、民間機を運航するのが困難な場所から邦人を救出する任務もある政府専用機にとって、乗客用座席数も重要な条件の一つだ。

 そして、777-300ERを発展させた777Xは、飛行試験機の初飛行が今年の年末から2019年初めの予定で、まだ開発中の機体だ。いくら実績のある機種の発展型とはいえ、新設計の主翼やエンジンなど、確実に飛ぶことが求められる政専機に選定するには、現時点ではリスクが高いと言えるだろう。

19年度から運用を開始する次期政府専用機=18年8月17日7時56分 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

千歳基地の政府専用機用格納庫前に到着した次期政府専用機=18年8月17日8時19分 PHOTO: Shota DOKI/Aviation Wire

 2019年3月をもって退役する現行の政専機は25年前の1993年に運用を開始したが、十分な整備がなされているので、まだまだ飛べる。しかし、前述のように国内の航空会社が十分な整備体制を維持できない以上、世代交代にかけられる時間は限られている。

 最後に、エアバス機という選択肢はなかったのだろうか。777-300ERと競合する機体として、総二階建てで2019年春にANAが就航させるA380と、JALが777-300ERの後継機として選定したA350-1000がある。

 いずれも機種選定の時点で両社とも運航しておらず、提案するのは難しい状況だった。そして、日本企業の製造分担比率を見ると、777の21%に対し、A350は1桁台にとどまる。

 日米関係への配慮や、日本の分担比率の高さも考慮すると、おのずとボーイング機、中でもANAとJAL両社が747-400の後継機として導入し、長距離国際線で10年以上の運航実績を積んでいる777-300ERに絞られたということだ。航続距離を比べても、現行機の約1万3000キロに対し、777-300ERは1万3649キロと同等だ。

 次期政府専用機も現行機と同様、20年以上にわたり、大役を務めることになるだろう。

関連リンク
防衛省
航空自衛隊
Boeing
ボーイング・ジャパン
Jet Aviation
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