エアライン, ボーイング, 官公庁, 機体, 空港 — 2018年7月27日 17:38 JST

大韓航空の777、タービンディスク破断で火災か 16年5月、羽田の航空事故

By
  • 共有する:
  • Print This Post

 2年前の2016年5月、大韓航空(KAL/KE)の羽田発ソウル(金浦)行きKE2708便(ボーイング777-300型機、登録番号HL7534)が離陸滑走時に、左エンジン(第1エンジン)から出火した航空事故について、国土交通省の運輸安全委員会(JTSB)は7月26日、破断したタービンディスクがエンジンケースを破壊し、引火したによるものと見方を示した。

羽田空港のC滑走路で左エンジンから出火した大韓航空の777=16年5月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
脱出時に乗客40人軽傷
機体近くで撮影する乗客も
タービンディスク破断で引火か
機内安全ビデオで「手荷物携行禁止」
航空事故と重大インシデントも

脱出時に乗客40人軽傷

羽田空港のC滑走路で出火し左エンジンに放水を受ける大韓航空の777=16年5月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 事故は2016年5月27日に発生。ソウルに向けて羽田を出発したKE2708便は、午後0時37分4秒にC滑走路(RWY34R)で離陸滑走を開始。同34秒に第1エンジンの故障警報が作動し、同37秒に管制塔がエンジンからの出火を確認し、緊急停止を命じた。同45秒に、離陸中止を管制塔に通報し、同51秒に停止した。

 午後0時43分3秒に、機長が客室に非常脱出を指示。同17秒からドアを開け、機体左側のL1スライドと、右側5カ所のスライド(R1からR5まで)を順次展開し、同50秒からR3スライドから、乗客が脱出を開始した。最後と見られる乗客が脱出したのは、ドアが開いてから3分47秒後の午後0時47分4秒だった。

 乗客302人と乗員17人の319人のうち、脱出時に乗客40人が軽傷を負った。

機体近くで撮影する乗客も

 スライドは、機体左側1カ所と、右側5カ所を作動させた。このうち、右側最後部のR5スライドは手動でも正常に展開せず、乗客は最も近いR4に集中した。また、火災が起きている第1エンジン側のL1スライドは展開したものの、降り口に消防車が止まっていたこともあり、使用しなかった。

 脱出時に、客室乗務員は乗客に対し、荷物を持たず、ハイヒールを脱いで脱出するように呼びかけたものの、多くの乗客はバッグを携行。中には大きなスーツケースを持つ乗客もいた。

 また、避難誘導した空港消防隊員によると、乗客たちは脱出後、機体近くで写真を撮ったり電話連絡したりして、消防隊員の誘導や指示になかなか応じなかったという。

タービンディスク破断で引火か

 大韓航空の777-300のエンジンは、米プラット&ホイットニー(PW)製PW4000シリーズのうち、PW4090を2基搭載している。JTSBは事故原因について、離陸滑走時に第1エンジンの第1段高圧タービンディスクが破断し、エンジンケースを貫通したことにより、衝撃で燃料滑油熱交換器に亀裂が発生。亀裂から燃料が漏れ、滑油に引火したと見ている。

 タービンディスクの破断については、エンジン製造時に、第1段高圧タービンディスク後面のU字型溝部分を加工した際に許容値を超える段差が生じ、エンジンの使用中に当該部分から低サイクル疲労による亀裂が発生した、との見方を示した。

 段差が発見されなかったことについては、エンジン製造者(PW)による製造時の検査時に見逃された可能性があると見ている。また、亀裂が発見されなかったことについては、大韓航空での整備時に見逃された可能性が考えられる、としている。

大韓航空777-300のエンジン破損から火災発生までの経過図(JTSBの資料から)

大韓航空777-300の事故現場での非常脱出スライドの状況(JTSBの資料から)

大韓航空777-300のエンジン損壊状況(JTSBの資料から)

機内安全ビデオで「手荷物携行禁止」

 再発防止策として、PWを監督するFAA(米国連邦航空局)は、2017年3月9日付で、当該ディスク後面の点検を義務づける「耐空性改善命令(AD)」を出した。日本の国土交通省航空局(JCAB)もこれに基づき、耐空性改善通報(TCD)を発行した。

 エンジンを製造するPWは、使用する航空会社に対し、情報提供と技術情報を提示。第1段高圧タービンディスクの製造工程と、製品の検査工程を変更する。

 運航する大韓航空は、同社が使用する全同型式エンジンについて、第1段高圧タービンディスクの検査を進める。また、非常脱出時の手荷物携行禁止を、機内安全ビデオに追加するなど、再発防止に努める。

航空事故と重大インシデントも

 大韓航空では、今回の羽田での航空事故のほか、今年4月と6月には、航空事故と重大インシデントを1件ずつ発生させている。これらについて、JCABは調査を進めている。

 今年4月9日の航空事故は、済州発関西行きKE733便(737-900、HL7725)が関西空港に着陸した際、機体後部がB滑走路に接触した。6月29日に発生した重大インシデントは、仁川発成田行きKE703便(777-300、HL7573)が成田空港に到着後に地上走行中、右主脚の損傷により誘導路上に停止した。

 大韓航空の金正洙(キム・ジョンス)日本地域本部長は7月25日、度重なる事故について「発生原因を分析し、再発しないようにするべき。訓練を厳しくしているが、そのレベルを超えたところで生じる」と述べ、「以降、どのように打開して、起こらないような体制を構築するのが重要だ」との認識を示している。

関連リンク
大韓航空
運輸安全委員会
国土交通省

16年5月に発生
大韓航空機、格納庫前へ移動 エンジンに応急処置(16年5月28日)
大韓航空機、羽田の滑走路から移動 28日も影響残る(16年5月27日)
大韓航空の777、羽田で出火 5万人に影響、終日乱れ(16年5月27日)

今年発生の航空事故と重大インシデント
大韓航空の777、主脚の車軸折損 6月、成田で重大インシデント(18年7月25日)
大韓航空、関空で尻もち けが人なし(18年4月10日)