ボンバルディアの小型旅客機「Cシリーズ」が、エアバス機のラインナップに加わった。100席未満を中心とするリージョナル機と、エアバスやボーイングが製造する150席以上の旅客機の隙間を埋める機体で、Cシリーズの製造や販売を担う事業会社「CSALP(C Series Aircraft Limited Partnership)」の株式を、エアバスが7月1日に50.01%取得。買収後も本社や主要製造ライン、関連施設はカナダのケベック州ミラベルに置かれるが、名称は「A220」と改められた。
CS100(100-135席)と、中胴が3.7メートル長いCS300(130-160席)の2機種で構成するCシリーズは、CS100がA220-100、CS300はA220-300に改称。エアバスが本社を構える仏トゥールーズで10日、エアバスカラーをまとったA220-300(登録番号C-FFDO)が、社員や報道関係者の前でお披露目された。
単通路機のベストセラー、A320よりも座席数が少ないA220は、どのような機体なのだろうか。
—記事の概要—
・世界2強不在の100-150席クラス
・A320に通じる価値観
・改称以上のインパクト
世界2強不在の100-150席クラス
従来100-150席クラスの機体は、エアバスがA318(最大1クラス132席)、ボーイングが737-600(同132席)を製造していた。しかし、低燃費の新型エンジンを採用した発展型のA320neoや737 MAXのラインナップでは後継機がなく、世界の2強が不在の市場となった。
エアバス機の中で、もっとも座席数が少ない現行機はA319neoで、2クラスで140席、最大160席。ボーイングでは、737 MAX 7(2クラス138-153席、最大172席)が同じサイズとなる。
A220のエンジンは、低燃費・低騒音が売りとなる新型の米プラット・アンド・ホイットニー社製GTF(ギヤード・ターボファン)エンジン「PurePower PW1500G」。二酸化炭素(CO2)排出量は20%、窒素酸化物(NOx)排出量は50%削減できる点がセールスポイントのひとつだ。
また、A220-100とA220-300は部品を99%共通化。パイロットは同じライセンスで操縦できる。ボンバルディアで、Cシリーズの開発を主導した“Cシリーズの父”ことロブ・デューワー氏は、「すべてが新設計で、2機種のパーツナンバーも同じにしている。ターンアラウンドの時間は20分だ」と、整備性や運航効率の高さを強調する。
客室はキャリーバッグを収納できる大型のオーバーヘッドビン(手荷物収納棚)や、A320と比べて15%大きい窓、シート幅が最大19インチ(約48.3センチ)であるなど、居住性の高さもアピールポイントだ。1列あたりの座席数はエコノミークラスの場合、2席-3席の5席配列を採用しており、リージョナル機(1列4席)とA320(同6席)の中間となる。
A220は10日現在で402機受注しており、スイス インターナショナルエアラインズ(SWR/LX)やエア・バルティック(BTI/BT)など、航空会社3社に38機を納入済み。今回の買収により、エアバスのサプライチェーンマネジメントで製造コストを抑え、アラバマ州モビールにあるエアバスの工場に、2番目の最終組立ラインを設ける。
A320に通じる価値観
A220がカバーする100-150席クラス機の市場は、今後20年間に6000機以上の新造機需要があると、エアバスとボンバルディアは予測している。
A220-300を前にしたエアバスのギヨム・フォーリ民間航空機部門社長は、「A320は非常に成功した機体だが、A220が新たにわれわれの単通路機のファミリーに仲間に加わった。航空業界の新しい歴史の始まりだ」とあいさつ。A220というネーミングは、ベストセラーとなったA320にあやかり、単通路機として両者に共通性があることをうかがわせた。
エアバスでプロダクト・マーケティングの責任者を務めるアントニオ・ダ・コスタ氏は、「18インチ以上のシート幅や、フライ・バイ・ワイヤ、高バイパス比で低騒音、環境負荷が低いエンジンと、A220とA320は単通路機として同じ価値観を共有している」と説明する。
コスタ氏は、A320を単通路機の「ザ・ベンチマークだ」とした上で、「A220-100は、リージョナル機を運航する地域航空会社が成長していく上で、低リスクな機体。もっとも低いリスクで新路線を開設できる」とアピール。A220-300については、「拠点空港との路線網を構築でき、A220-100から大型化できる」と語った。
また、ボンバルディアと組んだエアバスと、エンブラエルと組むボーイングの単通路機を比べ、エアバス連合はA220-100とA220-300、A319neo、A320neo、A321neoの5機種。これに対し、ボーイング連合はエンブラエルのE190-E2、E195-E2、ボーイングの737 MAX 7、737 MAX 8、737 MAX 200、737 MAX 9、737 MAX 10と7機種にのぼると指摘。「われわれのほうが、シンプルな単通路機のラインナップだ」(コスタ氏)と強調した。
2クラス構成の座席数は、E190-E2が100席、E195-E2が124席と、A220-100の116席やA220-300の141席より少ないとして、「1座席あたりの運航コストは、E2のほうが13%多くかかる」(コスタ氏)と述べた。
改称以上のインパクト
エアバスとボーイングの旅客機2強は、リージョナル機の市場をけん引してきたボンバルディアやエンブラエルと組むことで、単一機種の売り込みから全体のラインナップで囲い込む戦略を、これまで以上に鮮明にしたと言える。
一方、三菱航空機が開発するリージョナルジェット機「MRJ」は、低燃費・低騒音を売りにするGTFエンジンを、エンブラエルやボンバルディアに先駆けて採用したものの、開発遅延によりアドバンテージを失いつつある。
今後は2社が存在感を増しつつある100-150席クラスとは反対に、エンブラエルが次世代機を開発していない、70席クラスの「MRJ70」による市場開拓にも力を入れるとみられる。リージョナルジェット機最大の市場である北米で、2022年以降に置き換え需要が高まるためだ。
将来的に課題となるのは、90席クラスの「MRJ90」より大きな機体の開発には、構造上限界があることだ。三菱航空機がMRJを開発後、A220などと同じ100-150席クラスに進出するには、新たに機体を設計する必要が出てくる。それに加えて、先行するエンブラエルやボンバルディアが世界2強と強固な関係を築いたことで、新規参入の壁がこれまでよりも高くなった。つまり、MRJに続く次の一手を打ちにくい状況になったのだ。
エアバスが今回、CシリーズをA220と改称したことは、成長が見込まれる100-150席クラス機市場に、単なる名称変更にとどまらない、大きなインパクトを与えたと言えるだろう。
CシリーズからA220へ
・エアバス、A220発表 Cシリーズを改称(18年7月10日)
・エアバス、Cシリーズ事業会社買収 ボンバルディアや州政府から(18年7月2日)
・エアバス、Cシリーズ事業会社買収へ アラバマで製造も、ボンバルディアや州政府と合意(18年6月8日)
・エアバス、Cシリーズでボンバルディアと提携 事業会社に50%超出資(17年10月17日)
・「Cシリーズはニッチ」ボンバルディア、2強なき市場に挑戦 特集・CS100とCS300日本参入なるか(16年7月27日)
ボーイングとエンブラエル
・ボーイングとエンブラエル、民間機の合弁会社設立へ MRJさらなる苦戦も(18年7月6日)
・E190-E2就航 ヴィデロー航空、世界初の定期便(18年4月25日)
・足もとにもキャリーバッグ 写真特集・エンブラエルE190-E2(後編)(18年3月8日)
・整備性も重視したMRJのライバル 写真特集・エンブラエルE190-E2(前編)(18年3月7日)
・ボーイング、エンブラエルと提携交渉 買収検討か(17年12月22日)
MRJ
・三菱航空機、債務超過1100億円 18年3月期純損失590億円、MRJ開発費膨らむ(18年7月2日)
・MRJ70、21年後半にも初納入へ 北米置き換え需要狙う(18年6月29日)
・MRJ、米モーゼスレイクで飛行試験初公開 ファンボロー航空ショーにはANA塗装機(18年6月28日)
・「社内に緊張感ない」MRJ今そこにある危機 最大手エンブラエルは好調アピール(18年1月24日)