米国の民間航空業界の月刊誌「エア・トランスポート・ワールド(ATW)」誌は、2017年の「エアライン・オブ・ザ・イヤー」に全日本空輸(ANA/NH)を選出した。ANAは2007年と2013年に続き3度目の受賞となった。
ATWは民間航空業界を扱う月刊誌のうち、世界でも権威と伝統のある雑誌で、1974年から顕著な実績のあった航空会社などを毎年表彰している。今回ANAが受賞した「エアライン・オブ・ザ・イヤー」は最高賞で、過去1年間に優れた業績を残した航空会社に贈られる。
ANAがエアライン・オブ・ザ・イヤーを受賞できた理由とは。日本の航空会社が優れている点や、今後展開すべき事業などを、ATW誌のカレン・ウォーカー編集長に聞いた。
—記事の概要—
・「小さなことに違いが出る」日本のサービス
・米国内で上がってきたANAの知名度
・「LCC事業の強化必要」
「小さなことに違いが出る」日本のサービス
── 米国からの視点で、日本の航空会社はどのようなサービスが優れていると感じるか。
ウォーカー編集長:日本のものは、自動車ではトヨタや三菱など、航空会社に限らず高品質というのが、米国人には定着している。日本の航空会社でも同様のことが言え、プロフェッショナルな係員の振るまい「Graciousness」(グレイシャスネス)が優れている。日本語で言うと「おもてなし」のようなものだ。
私の友人の多くが、日本やアジア各国を訪れている。米国へ帰国後、彼らは「これまでになかったレベルのサービスを体験した」と、異口同音に、ワクワクしながら話してくれる。
小さなことに違いが出る、というのが米国人から見た感覚だ。例えば、飛行機の出発時に(グランドハンドリングスタッフが)手を降ったりお辞儀をしたりすることが、「すごいレベルだ」と話している。米国の航空会社では見たことがないし、これからも見られないと思う。
── 手を振るのは日本独特の文化、ということか。
ウォーカー編集長:素晴らしい文化だと思う。米国人の心に訴える。サービスと言うよりも「気持ち」がとても現れている。
米国内で上がってきたANAの知名度
── 米国内でのANAの知名度はどうか。
ウォーカー編集長:ANAの知名度は、トヨタなどと比較すると、米国ではそこまで高くなかった。近年は米国への直行便が増え、ニューヨークやロサンゼルスなど、米国の主要都市に飛んでいる。単に高品質だというわけではなく、米国人にとって「ANA=アジアへのゲートウェイ」として機能している。成田で乗り継いで、アジア各都市へ行くことができる。ANAを利用したことがある友人も増えてきている。
ANAのブランド認知度の向上で、スターウォーズのようなグローバルブランドとコラボレーションしたというのは、非常に賢いやり方だと思う。多くの利用者がスターウォーズの特別塗装機に乗りたがっている。「どうすれば予約できるのか」とよく尋ねられる。
── 今回のエアライン・オブ・ザ・イヤーは、スターウォーズとのコラボレーションを評価した結果なのか。
ウォーカー編集長:ブランドの認知度向上では大きく寄与しただろう。コラボは評価の一部に過ぎない。エアライン・オブ・ザ・イヤーは、1つひとつの部門ではなく、総合力を勘案する賞だ。
エアライン・オブ・ザ・イヤーの選定には、いくつかのキーポイントがある。財務体質と運航品質、安全品質、利用者へのサービス、従業員に対して良い会社であるかどうか、社会貢献活動(CSR)を中心に見ている。
これらは数字で計りやすい項目で、ANAを含め他社も評価が高かった。ANAが評価が高かったのは「イノベーション」。他社との差別化を図る上で新しいアイデアを取り入れていることが、利用者の満足度向上につながるのではないか。
ATWの審査員は、各国の編集者で構成している。審査員の目を最も引いたのが「ANA AVATAR VISION」(編注:ロボティクスやVR〈仮想現実〉、AR〈拡張現実〉などを活用した取り組み)だ。
航空業界は、ご存じのように保守的だ。制約(レギュレーション)がたくさんある。多くの航空会社は変化を嫌う体質で、「同じ箱の中にいる」ことを好む傾向にある。ANAは変化しようとしていることが素晴らしいと思う。
── 今後のANAにどのようなことを期待するか。
ウォーカー編集長:もっと成功することを望んでいる。特に2020年の東京五輪・パラリンピックを控え、ますます成長するのではないか。ANAに対し印象的なのは、さまざまなアイデアを持っていて、「深い洞察で戦略的に組み立て」、「実行してやりきる」2つのフェーズを使い分けていることが素晴らしいと思う。
ANAは最初、小さな国内航空会社としてスタートした。現在はグローバルエアラインの一角を担うまでに成長した。経営視点からすると、まったく異なるアプローチが必要になる。ANAの経営陣はそれを分かっていて、アプローチを変化させていることが関心に値する。
「LCC事業の強化必要」
── 日本の航空業界はどのようになると見ているか。
ウォーカー編集長:ここ数年、航空業界が大きく変わってきている。アジアの地域で注目すべきは、LCCの台頭が挙げられる。エアアジアグループは短距離路線だけではなく、長距離にも進出してきている。
日本にもアジアの列強LCCが参入し、競争が激しくなってきている。日本の航空会社もLCC事業を強化する必要がある。各社で戦略的な事業展開を考える必要がある。
── 2018年の「エアライン・オブ・ザ・イヤー」はどこか。
ウォーカー編集長:考えられる会社がないわけではないが、分からない(笑)。今夏に各社からの「自己推薦書」を集め、9月に審査を開始する。11月に決定するまで長いプロセスがある。決定した航空会社には、私(ウォーカー編集長)が連絡する。
自己推薦書では、「ファーストクラスが素晴らしい」「食事がおいしい」など、サービスをピンポイントでアピールする航空会社が多い。エアライン・オブ・ザ・イヤーは、すべてにおいて評価されるべきだと思っている。
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