全日本空輸(ANA/NH)の運航便のハンドリングを担うANAエアポートサービスは10月4日、航空機を牽引する「トーイング・トラクター」やPBB(パッセンジャー・ボーディング・ブリッジ=搭乗橋)の訓練用シミュレーターを羽田空港で公開した。10月初旬からシミュレーターを使った訓練を始める。こうしたグランドハンドリング(グラハン)業務のシミュレーター導入は、日本では初めて。
これまでは航空機を運航していない深夜に、実機や特殊機材を使って訓練を行っていたが、訓練を実施するまでの準備や調整に時間がかかり、計画通りに進められない課題を抱えていた。また、悪天候やトラブルを体験するといった、実機では困難な訓練を行うことで、ベテランの技術や経験をシミュレーターを通じて若手に伝承していく。
対象となるのは、駐機場から航空機をトーイング・トラクターを用いて押し出す「プッシュバック」と、駐機場に到着した航空機にPBBを付けたり出発時に外す訓練。新入社員に座学を経てシミュレーターを経験させた後、空港で特殊機器や実機を使った訓練で社内資格を取得させ、実務にあたらせる。
これまでの訓練期間は、プッシュバック訓練が42日間・のべ3カ月、PBB訓練が21日間・のべ2カ月ほどだった。シミュレーター導入後は、プッシュバックが24日間・のべ1カ月、PBBは13日間で終了できるという。訓練短縮で、年間数千万円のコスト削減を見込んでいる。
ANAエアポートサービスによると、2年半前から構想がスタートし、数社にシミュレーター制作を持ちかけた結果、東急テクノシステムと共同開発することになったという。
羽田の訓練施設には、プッシュバックのシミュレーターを1台、PBB用を2台導入。24時間運用で、新人が一人でも訓練できるようにカリキュラムやシミュレーターを開発した。 ANAエアポートサービスによると、プッシュバックのシミュレーターは海外にもあるが、PBB用は同社が調べた限り世界初だという。
プッシュバックのシミュレーターは、最初に受講させる中型機ボーイング787-8型機と小型機の737-800、大型機の777-300に対応。トーイング・トラクターはコマツ製の「WT」、TUGテクノロジーズ製「GT」の2車種を用意し、運転席はコマツ製WT500Eをモデルにした。昼間と夜間、晴天と雨天に対応し、駐機場は羽田第2ターミナルにある52番と61番、71番を用意し、第2ターミナルの主要なタイプの駐機場で訓練できるようにした。
PBBのシミュレーターは、ANAが運航する機材では最長の777-300に対応。ブカカ製PBBを模したもので、駐機場は61番を想定し、プッシュバックと同じく昼間と夜間、晴天と雨天に対応している。
両シミュレーターとも、画面にトーイング・トラクターやPBBを動かす経路を示す矢印や数値などを示す「初級モード」と、これらのアシストがない「通常モード」、アクシデントも起きる「上級モード」、アクシデントを体験する「アクシデントモード」、試験を実施する「見極め試験モード」を用意した。
羽田では2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックに向け、国際線発着枠の増枠が行われる見通し。ANAでは訓練の効率化により、必要となる人員の養成を急ぐ。
*写真特集のトーイング・トラクター編はこちら。
*PBB編はこちら。
関連リンク
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