エアライン, 企業, 解説・コラム — 2017年10月2日 23:55 JST

ANA、赤ちゃんが泣かない機内づくり挑戦 心拍数で赤ちゃんの大泣き予知

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 赤ちゃんが泣かない機内環境づくりに向け、全日本空輸(ANA/NH)とベビー用品のコンビ、東レ(3402)、日本電信電話(NTT、9432)の4社が10月1日、「赤ちゃんが泣かない!?ヒコーキ」プロジェクトを立ち上げ、乗客全員が赤ちゃん連れとなるチャーター便による実証実験を実施した。

 プロジェクトでは、機内で赤ちゃんが大泣きする原因の一つと考えられる、気圧の変化による耳の痛みを解消する「赤ちゃん用耳抜きグッズ」の開発に取り組む。また、赤ちゃんの心拍数などの生体情報を基に、赤ちゃんが不快に感じているかなどをモニタリングし、大泣きを予知する技術の検討を進めていく。

ANAの赤ちゃんチャーター便の機内で客室乗務員からパイロットの帽子をかぶせてもらう夏実ちゃんと弟の秀哉くん=17年10月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 1日は「赤ちゃんチャーター便」として、成田-宮崎間をNH2021/2022便として1往復した。機材はボーイング767-300ER型機の国際線仕様機(登録番号JA621A、2クラス202席)が使われ、4社のグループ社員で生後3カ月から3歳未満の乳幼児を持つ34家族114人が参加。このうち赤ちゃんは36人で、耳抜きの効果検証やフライト中に赤ちゃんがどのような行動をするかなどのモニタリングが行われた。

 チャーター便に乗務する客室乗務員は、6人全員をママさんCA。赤ちゃんの扱いに慣れた客室乗務員がそろった。

—記事の概要—
3歳未満の潜在需要見込む
心拍数で赤ちゃんの機嫌読み解く
逆流防止の工夫必要
赤ちゃんが泣いても大丈夫な機内づくり

3歳未満の潜在需要見込む

成田空港であいさつするANAHDの津田チーフディレクター=17年10月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 4社は得意分野を分担し、プロジェクトを進めている。ANAが飛行中の赤ちゃんや親の困り事や解決方法などのノウハウを提供し、コンビが赤ちゃんグッズの試作や提供、モニター調査などを行う。スポーツ選手のデータ計測など、長時間の生体情報モニタリングが可能な機能素材「hitoe(ヒトエ)」を共同開発した東レとNTTは、東レが赤ちゃん用hitoeウェアを、NTTが赤ちゃん用生体情報モニタリングの仕組み提供やモニター調査、心拍数モニタリングのノウハウ提供などを担う。

 ANAを傘下に持つANAホールディングス(9202)のデジタル・デザイン・ラボの津田佳明チーフディレクターは、「昨年度の実績で、乗客に占める3歳未満の割合は、国内線が1.6%、国際線は0.8%。幼稚園や小学校のスケジュールに左右されず、座席を用意しなければ無償で利用いただけることを考えると、まだまだ潜在需要があるのではないかと、NTTさんに相談した」と経緯を説明する。赤ちゃんに注目したのは2年前で、そこから話を進めてきたという。

 事業化の時期は未定だが、hitoeを活用したサービスの提供実績を持つNTTコミュニケーションズも、今後の事業化に向けて参画する。

 また、成田-宮崎間で実証実験を実施した理由について、津田氏は「Pepper(ペッパー、ソフトバンクロボティクスの自律型ロボット)の実証実験などでもご協力いただいている」と、相応のフライト時間となる目的地で、新しい取り組みに理解があることが理由の一つだと述べた。

心拍数で赤ちゃんの機嫌読み解く

 今回のチャーター便では、4社が現時点で提供できる範囲のもので、赤ちゃんが泣かないフライトを、どの程度実現できるかを検証した。

成田空港で赤ちゃん用hitoeを装着する赤ちゃん。装着時に泣く赤ちゃんが多かった=17年10月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 離着陸時の急激な気圧変化には、耳の痛みを和らげるために飲み物を口にしたり、唾液を飲み込むことが効果的と言われている。コンビは、外出時の水分補給などに使うストロータイプのマグ「マグストロー」と、おやつにもなる「口内バランスタブレット」を用意。離着陸時に、赤ちゃんにマグストローでお茶を飲ませるか、タブレットを少量食べさせ、耳抜きができるかを検証した。

 赤ちゃん用hitoeは開発中のもの。赤ちゃんが眠ったり泣いたりする状態の変化と心拍数の関連性を用いて、赤ちゃんの状態をスマートフォンにインストールした専用アプリに表示する。

 hitoeはポリエステルのナノファイバーでできており、皮膚との接触面積が大きく、金属を使っていないため肌にやさしい点が特徴。湿気に強く、汗をかいても生体情報を安定的に測定できるという。

hitoeのスマートフォン用専用アプリ=17年10月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 また、従来の心拍数計測で必要だった電解質ペーストが、hitoeでは不要。赤ちゃんの胸部に巻き付けて計測する。計測結果は専用トランスミッター(送信機)からBluetooth(ブルートゥース)でスマートフォンへ送信する。トランスミッターには加速度センサーが装備されており、心拍数だけではなく体の動きや角度も合わせてスマートフォンに送る。

 スマートフォンの専用アプリには「うえーん」「ぐずぐず」「ぱっちり」「すやすや」といった赤ちゃんの状態や、「トイレ」「ごはん」「その他」と行動に関するボタンが設けられている。チャーター便では、保護者が赤ちゃんの状態を入力し、計測データとのひも付けが行われた。

 現在の専用アプリはAndroid版のみだが、NTT物性科学基礎研究所の塚田信吾上席特別研究員によると、iOS版も開発を計画しているという。

逆流防止の工夫必要

 では、実際のフライトはどうだったのだろうか。

 成田空港でhitoeを胸部に巻き付けた赤ちゃんを乗せた宮崎行きNH2021便は、午前10時6分に出発。宮崎空港には午前11時51分に到着した。hitoeは宮崎到着時に一度はずし、成田へ戻るNH2022便の搭乗前に再度装着した。

マグストローでお茶を飲む悠那ちゃん。フタが気になっている様子だった=17年10月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 離陸時と着陸時には、マグストローでお茶を飲ませたり、タブレットを食べさせるタイミングで、機内アナウンスが流れた。

 成田に勤務するANAの地上係員、李成美さんは夫の龍﨑正皓さんと1歳2カ月になる悠那ちゃんの3人で参加。「まさか当選するとは思いませんでした」と笑う成美さんは、赤ちゃん連れの乗客を応対する際の勉強にもなると思い、参加したという。

 悠那ちゃんは、生後5カ月で羽田-伊丹線に乗り、羽田-福岡線と少しずつフライトの距離を伸ばしていった。「飛行機に慣れさせるには、少しずつが良いかと思い、最初は大阪にしました」と正皓さんは話す。

 今回のフライトで、悠那ちゃんはマグストローのお茶をあまり飲んでいなかった。成美さんが「フタが気になったみたいですね。普段はこういう(開閉式の)フタがついていない状態のものを使っているんです」と、マグストローの飲み口に抵抗感があったようだ。

 また、正皓さんはマグストローを機内で使う際の改良点として、逆流防止用の圧力弁の必要性を指摘していた。「フタを開けると、(気圧の変化で)お茶が逆流してしまいました。圧力弁があればよいのでは」(正皓さん)と、機内ならではの出来事を話してくれた。

 今回のフライトでは、悠那ちゃんは時折泣くことはあっても大泣きはせず、無事チャーター便を降りた。成美さんが「データは役に立つんでしょうかね」と心配しながら笑うほどだった。

 取材したもう一家族の住吉翼さんは、妻の麗香さんと長女で2歳2カ月の夏実ちゃん、長男で1歳の秀哉(しゅうや)くんの4人で参加した。翼さんはANAの営業職、麗香さんは成田の地上係員。「私が職場を離れているので、夫から聞いて応募しました」と麗香さんは話す。

機内で泣いてしまった夏実ちゃんをあやす翼さん。夏実ちゃんが大泣きすることはなかった=17年10月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 夏実ちゃんと秀哉くんのファーストフライトは、7月の羽田-札幌線だった。この時は秀哉くんに母乳をあげてから搭乗したという。今回のフライトでは、夏実ちゃんが大きく泣くことはなかったが、秀哉くんが泣いてしまったという。

 「マグストローの中身がお茶だったので、あまり口にせず、母乳をあげたら泣き止みました。帰りはリンゴジュースをあげてみようと思います」と、麗香さんは飲み慣れたものを飲ませてみるという。

 一方の夏実ちゃんは、「タブレットを全部食べてしまいました」(翼さん)と、なかなか大人の思い通りには、実証実験は進まないようだった。

赤ちゃんが泣いても大丈夫な機内づくり

 チャーター便に乗務したチーフパーサーの山本実希子さんは、8歳と1歳の男の子を育てるママさんCAで、今年復職したばかり。

 赤ちゃんが泣かない飛行機を目指すと同時に、山本さんは「赤ちゃんは泣くのが仕事とも言います。赤ちゃんが泣いても大丈夫な機内づくりをしていきたいですね」と話す。

機内を巡回するチーフパーサーの山本さん。「赤ちゃんが泣いても大丈夫な機内づくりをしていきたいですね」=17年10月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 小さな子供を持つ家庭にとって、機内で泣かれるかどうかは懸案事項の一つだ。この問題を解決していくのが今回のプロジェクトだが、山本さんが言う「赤ちゃんが泣いても大丈夫な機内づくり」は、当の家族の対処方法や客室乗務員の努力だけではなく、その他の乗客も理解を示すことが大切だろう。

 人はみな、赤ちゃんとして生まれてきたのだから。

ANAの赤ちゃんチャーター便に乗務したチーフパーサーの山本さん(左から3人目)をはじめとするママさんCA=17年10月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

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