全日本空輸(ANA/NH)を傘下に持つANAホールディングス(ANAHD、9202)が2014年7月31日に大量発注した機材が、徐々に揃いつつある。ANAHDは、ボーイングが開発中の大型機777-9XやエアバスA320neoなど5機種を発注。このうち、エアバス機はA320neoとA321neo、A321ceo(A321従来型)を発注しており、2016年10月から順次受領している。
ANAHDは、小型機A320の発展型のA320neoを7機、長胴型のA321ceoを4機、その発展型となるA321neoを26機発注。このうち、新型機となるA320neoは2016年度から2018年度にかけて、A321neoは今年度から2023年度に受領する。
A320neoとA321neoが冠する「neo」は、「ニュー・エンジン・オプション」の略。米プラット・アンド・ホイットニー(PW)製の新型エンジン「PW1100G-JM」シリーズと、翼端の大型ウイングチップ「シャークレット」を取り付けたことで、燃費を15%改善した。いずれも、国内の航空会社が運航するのは初めてだ。
A320neoは国際線仕様、A321ceoとA321neoは国内線仕様で、9月12日にA321neoが就航したことにより、3機種が出そろった。今回の特集では、A320neoやA321neoの特徴や、A320neoのビジネスクラスに乗った感想をリポートする。
—記事の概要—
・電動シート採用
・新エンジンで航続距離も長く
・座り心地の良さと静かさ実感
電動シート採用
ANAでは、A320neoの初号機(登録番号JA211A)を2016年12月15日に独ハンブルクで受領し、現在は3機体制。同年12月26日に羽田-関西線に就航したのを皮切りに、今年1月23日に国際線に就航した。中国路線など近距離国際線用の機材で、当初は成田-上海線で使用していたが大型化に伴い、現在は成田-杭州線に投入している。
一方、A321neoの初号機(JA131A)は、9月5日にハンブルクで引き渡されたばかり。8日に羽田へ到着し、12日の羽田発熊本行きNH641便が初便となった。
A320neoの座席数は2クラス146席で、ビジネス8席とエコノミー138席。1列あたりの座席配列は、ビジネスが2席-2席、エコノミーが3席-3席で、ビジネスは中長距離路線で使う大型機と同様、電動シートを採用した。エコノミーは座面を低くすることで、小柄な人でも足つき性を良くしている。
A321neoの座席数はA321ceoと同じ2クラス194席で、プレミアムクラス8席と普通席186席。プレミアムはA320neoのビジネスと同じレカロ製シートで、1列あたりの座席配列は、ビジネスが2席-2席、エコノミーが3席-3席とした。
両機種とも、エコノミーを含む全席に最新型の機内エンターテインメントシステム(IFE)や電源コンセント、充電用USB端子を設け、大型機並みの装備を小型機にも展開した点が特徴だ。特に大手航空会社の機体で、国内線の普通席にも電源コンセントを設置した点は、大きな変化だ。
IFEは、ANAでは初採用となるゾディアック製「Rave」。タッチパネル式モニターはビジネスとプレミアムクラスで12インチを採用するなど、従来よりも大型化した。また、機内インターネット接続サービス「ANA WiFi サービス」にも対応している。
新エンジンで航続距離も長く
A320neoとA321neoの大きな特徴は、新型の低燃費・低騒音エンジンの採用だ。これにより、航続距離も伸びている。
両機種のエンジンはPW1100G-JMのほか、CFMインターナショナル製LEAP-1Aシリーズのいずれかを選択できる。PW1100G-JMは、三菱航空機が開発中の「MRJ」が採用したものと同じ仕組みの「GTF(ギアード・ターボファン)エンジン」。ギアを介してエンジンファンの回転数を制御することで、低燃費と低騒音を実現している。
ANAはPW1100G-JMシリーズのうち、A320neoには推力が2万6800ポンド(1万2160キログラム)の「PW1127G-JM」を、胴体長がA320neoより約20%長いA321neoには推力が3万290ポンド(1万3740キログラム)の「PW1130G-JM」をそれぞれ選定した。
PW1127G-JMとPW1130G-JMのファン直径は、81インチ(約2メートル)。ANAが国内線で運航している既存のA320が搭載するCFMインターナショナル製「CFM56-5A1」や、A321ceoが搭載する「CFM56-5B3」の68.3インチ(約1メートル73センチ)と比べ、12.7インチ(約32センチ)大きくなった。
新エンジン採用などに伴い、A320neoの航続距離は3900キロ長い(約2.63倍)6280キロ、最大離陸重量は12トン多い(約1.17倍)79トン、最大運用高度は1万2100メートル(3万9698フィート)となった。
A321neoは、2016年11月12日に就航したA321ceoと比べると、航続距離は2380キロ長い(約1.87倍)5130キロ、最大離陸重量は9トン多い(約1.1倍)89トン、最大運用高度は1万2100メートル(3万9698フィート)となっている。
航続距離が伸びたことで、エアバスの工場があるハンブルクから羽田までのフェリーフライト(空輸便)の経由地が減った。
A321ceoの初号機(JA111A)は、ハンブルクからモスクワとノボシビルスク、ソウル(仁川)を経て羽田に到着した。これに対し、A320neoの初号機とA321neoの初号機は、経由地がロシア・シベリアのノボシビルスクのみだった。航続距離が長くなったことがうかがえる。
座り心地の良さと静かさ実感
A320neoとA321neoの違いは、胴体の長さに起因するものが大半なので、客室装備は共通する点も多い。私はA320neoが国際線に就航間もない今年2月、ビジネスクラスに乗り成田から上海へ向かったが、座り心地の良さとエンジンの静かさが印象に残った。
A320neoのビジネスクラスのシートピッチは50インチ(127センチ)で、エコノミーの31インチ(78.7センチ)と比べて格段に広い。シート幅も、ビジネスは20.3インチ(51.6センチ)と、エコノミーの17.5インチ(44.5センチ)と比べて余裕がある。
リクライニングする角度は、エコノミーが110度なのに対し、ビジネスは127度。実際に乗ってみると、長距離国際線のようにフルフラットにはならないが、ゆっくり休めるシートだ。
レカロ社の1世代前のシートを採用しているA321ceoのプレミアムクラスもそうだったが、いつまでも座っていたいと思うくつろげるシートで、短距離国際線にはちょうど良い座り心地だ。777などに採用されている、現行プレミアムクラスの革張りシートのようにお尻がすべることもない。
テーブルは大型のものを採用しているので、折りたたんだ状態でも使いやすい広さだ。広げた状態にすると、13インチのMacBook Proを置いても十分余裕があり、iPhoneなどを横に置いた状態で作業をしても問題はなかった。機内食では和食のメニューを選んだが、飲み物の置き場に困ることもなく、食事を済ますことができた。
電源コンセントは、110V/60Hzの3芯のものが各席のセンターコンソールに1つずつあり、その上に充電用USB端子が設けられている。2芯の電源ケーブルを挿しても、すぐに抜けるようなことはなかった。
IFEの画面は現在主流の光沢のあるもの。映画を見るときなどは見栄えがするが、自分の顔が写り込むデメリットもあり、個人的には光沢のない「ノングレア」のほうが良いと感じた。
このIFEはANAが近年導入を進めている衛星TV「SKY LIVE TV」も視聴でき、NHKやCNNのニュース、スポーツ番組を見ることができる。ただし、中国上空はサービスが許可されていないため、利用できない点は注意が必要だ。
ビジネスクラスとなると、こうした設備面に目が行きがちだが、A320neoは機内の静かさも印象的だった。特に離陸上昇中は、一般的にエンジンの音が気になることが多いが、成田を離陸する際はほぼエンジン音が気にならなかった。
こうした点は、エアバスの最新鋭機A350 XWBなどと同様で、エンジンの進歩が感じられた。そして、国際線用のA320neoだけではなく、同じシートを採用したA321neoのプレミアムクラスでも、進化を感じられるだろう。
通路が1本の単通路機は、フライト時間も短いこともあり、機内で差別化する要素が少ないように感じる。しかし、シートの座り心地の良さやテーブルの広さ、静粛性は、飛行機に乗り慣れている人ほど、機内で仕事をしたり、仮眠する際に実感するのではないだろうか。
これまで短距離国際線の機材というと、どうしてもひと時代遅れた客室装備という印象があったが、A320neoはこれを覆す快適さだった。
*写真は28枚。
ANAのA320neo
・ANAのA320neo、国際線に初就航 成田から上海へ(17年1月23日)
・ANA、日本初のA320neo就航 羽田から関空、1月から国際線(16年12月26日)
・ANA、日本初のA320neo羽田到着 大型機並み装備、1月から国際線(16年12月17日)
・ANA、A320neo初号機を受領 1月から近距離国際線(16年12月16日)
写真特集・ANA A320neo初号機就航
第1回 大型機並み装備のビジネスクラス(16年12月27日)
第2回 狭小空間生かしたギャレーと化粧室(16年12月29日)
最終回 新型エンジンで低燃費低騒音(16年12月30日)
写真特集・ANA A320neo初号機(羽田到着時)
前編 近距離ビジネスも電動シート(16年12月18日)
後編 小型機だけど大型低燃費エンジン(16年12月20日)
写真特集・ANA A321neo初号機
機内編 各席に個人モニターや電源装備(17年9月10日)
外観編 低燃費大型エンジンは直径2メートル(17年9月10日)
ANAのA321neo
・ANA、A321neo国内初就航 電源と個人モニター装備(17年9月12日)
・ANA、A321neo初号機受領 9月中旬から国内線(17年9月7日)
・ANA、777-9XとA321neoなど70機正式発注 16年度から受領(14年7月31日)
・ANA、777-9XとA321neoなど70機発注 過去最大の投資規模(14年3月27日)
ANAのA321ceo
・ANA、A321ceo初号機が羽田到着 上級クラスに電動新シート(16年10月31日)
写真特集・ANA A321ceo国内線仕様
前編 電動シートのプレミアムクラス(16年11月17日)
後編 初号機はハンブルク製(16年11月18日)