スペースデブリ(宇宙ゴミ)除去サービスの開発に取り組むシンガポールのアストロスケールは7月14日、全日本空輸(ANA/NH)を傘下に持つANAホールディングス(ANAHD、9202)と、切削工具メーカーのオーエスジー(OSG、6136)から出資を受けたと発表した。
—記事の概要—
・深刻化する宇宙ゴミ問題
・10年で地球の空白地帯なくすANA
深刻化する宇宙ゴミ問題
アストロスケールは岡田光信CEO(最高経営責任者)が2013年に設立。シンガポールに本社、日本にR&D(研究開発)拠点を構え、スペースデブリ除去サービス開始に向けて、人工衛星を2基開発している。
2018年初旬までに微小デブリ計測衛星「IDEA OSG 1」を、2019年前半にデブリ除去衛星実証機「ELSA-d」の打上げを予定しており、今回の資金調達で2500万ドル(約28億円)を確保。英国子会社の設立や、量産体制の確立に資金を投じる。ANAHDはこのうち、300万ドルを出資する。
アストロスケールによると、宇宙空間には、1センチ以上の宇宙ゴミが軌道内に約75万個存在し、地球の軌道上の衛星や宇宙機の安全を脅かす深刻な問題になっているという。持続可能な宇宙利用に向け、宇宙ゴミ除去に取り組む。
会場には、宇宙飛行士の山崎直子さんも姿を見せ、「宇宙ゴミの課題は難しい。誰が解決するのかや、国家間の取り組みでは時間が掛かる」と問題点を指摘。自身がスペースシャトルで飛行した際、宇宙ゴミによる機体損傷を経験したことにふれながら、今後の宇宙利用で重要な課題であると語った。
アストロスケールの岡田CEOは、「宇宙ゴミを捕まえ、大気圏に落として燃やす仕組みになっている。通常の衛星はミッション期間が5年とか7年だが、短くすることで故障率を抑えている」とデブリ除去衛星の特徴を説明した。
岡田CEOは「宇宙のゴミを除去したいのでお金をください、と言っても誰もくれない。しかし、次々に衛星を打上げていく企業は古い衛星を除去しなければならず、それが私たちの仕事になる」と語った。
10年で地球の空白地帯なくすANA
今回の出資で、ANAHDとOSGはアストロスケールの株式を取得。一方、アストロスケールは、ANAからは安全運航に関する知見や航空会社としての経験、OSGからは衛星製造に向けたツールの提供などを受けていく。
ANAHDの宇宙事業への出資は、2016年12月1日のPDエアロスペース(名古屋市)に続き2件目。PDは2020年に、有人による宇宙空間の高度100キロ到達を目指している。
ANAHDの長峯豊之副社長は、「2015年に、2025年を視野に入れた長期戦略構想を策定した。パンフレットの裏には『次は宇宙へ』と書いた。この先10年間でエアライン事業としてやれることはすべてやりきる。その次にあるのが宇宙だ」と、宇宙事業に出資を始めた理由を述べた。
「10年でネットワークのホワイトエリア(空白地帯)をなくす。(宇宙事業は)単なる言葉で終わらせてはいけないので、2016年4月にグループ全体のイノベーションを推進する『デジタル・デザイン・ラボ』を立ち上げ、具体的な検討を進めている」と語った。
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