製品やサービスの開発、アイデア実現などのために、不特定多数の人から資金調達するクラウドファンディング。全日本空輸(ANA/NH)は2016年10月、クラウドファンディングの枠組み「WonderFLY」を立ち上げた。
従来であれば、クラウドファンディングの資金調達といえば現金を主体としていたが、航空会社の取り組みとして、マイルによる支援も受け付けているのが特徴。多くの法人顧客をANAが抱えていることで、出資を希望する人と将来はビジネスパートナーとなりうる企業とをつなげていくことも視野に入れた取り組みだ。
ANAは第1弾として「旅の常識を覆すモノ」をテーマに、アイデアを募集。3月9日、資金調達中の製品を東京・日本橋のスルガ銀行ANA支店に展示するイベントを開いた。展示された8つの製品は、資金調達目標を153%の達成率でクリアしたものもあれば、設定額の高さから、一桁にとどまるものまでさまざまだった。
フォーク形の割り箸
「これ製品化すれば絶対ヒットしますよ!」。熱く話すのはロンドン在住のデザイナー、高木潤さん。高木さんが実用化を目指すのは、フォークの形をした割り箸「SPLIT FORK & CHOPSTICKS」だ。そのまま使えばフォーク、二つに割れば箸として使える。
15年前、ロンドンで外国人の友人とラーメンを食べに行った高木さんは、箸使いに苦戦する友人の姿を見て、これを解決できるものを作りたいと考えたという。機内でも、街中でも、この割り箸であれば、箸に不慣れな外国人にも安心してもらえると考えた。
目標額は600万円。割り箸の量産体制を整えるためには、この規模の資金が最低限必要になるという。クラウドファンディングの募集期間は3月26日までだが、15日時点での達成率は2%、支援総額は15万2900円にとどまる。
異文化の架け橋となる割り箸は、量産にこぎ着けられるだろうか。
断トツの達成率でも悩み
達成率153%と、断トツの資金調達に成功していたのは、和文化発信計画・入谷のわき(足立区)が手掛ける両手が自由になる羽織「Kimonoket」だ。大正時代の着物の柄をデザインに用いて、愛媛県今治のタオルメーカーが織り上げる。
機内でブランケットを利用する時、肩までかけると両手が使えない。一方、両手を出すとブランケットが落ちてしまうという悩みの解消を目指したという。使用する生地は、世界で今治しか織れない「三色三重織ガーゼ」にすることで、単に着物のデザインを取り入れるだけにとどまらない羽織を目指した。
目標額80万円に対し、15日時点では達成率を155%に伸ばし、支援総額は124万4000円にのぼる。しかし、羽織を安定供給するためにはこの額では難しいと、のわきの女将である三山アツコさんは話す。クラウドファンディングでの資金調達に成功した今、プロジェクトを持続させる次の一手を模索している。
量産化向け活用
航空会社が立ち上げた、異色のクラウドファンディングとも言えるWonderFLY。出展者たちはどこで知ったのだろうか。
高木さんはデザインコンペの情報を扱っているウェブサイトで、三山さんは知人から教えられて知ったという。また、プロジェクトの立ち上げを目的に参加する人だけではなく、加速させるために応募した人もいた。
屋根工事のほか、社内ベンチャーでベビーカーや自転車を手掛ける高橋製瓦(岐阜市)の高橋陽介キュリオ事業部長/ユーティライト事業部長は、電動車いす「SCOO」の量産化に向け、クラウドファンディングを活用している。
SCOOは折りたためるので、飛行機や電車、バス、タクシーにも乗せられ、足が不自由な人やシニアの外出をターゲットに据えている。
SCOOの目標額は1000万円で、15日時点の達成率は60%。「目標額に達しなくてもプロジェクトは進めますが、資金が集まれば量産化に弾みが付きます」と高橋さんは話す。
イベントにはこのほか、溶けた氷の冷水でエスプレッソのようなお茶をいれられる「SHIZUKU」や、ボトルに残ったワインの酸化を防止する「Taste Keeper」、自動回転するプリズムにより、360度のパノラマ撮影ができる「Selfie360」などが出展された。
今回集まった「旅の常識を覆すモノ」は、これからどのように発展していくのだろうか。
関連リンク
WonderFLY
・ANA、クラウドファンディング創設 「旅の常識を覆すモノ」募集(16年10月11日)