国内外の空港から集まった、日本航空(JAL/JL、9201)の地上係員(グランドスタッフ)が接客スキルを競うコンテスト「空港サービスのプロフェッショナルコンテスト」が、東京・羽田の同社第一テクニカルセンターで開かれた。
第5回となった今回の本選には、国内空港部門9人と海外空港部門3人の計12人が進出。国内部門は羽田空港の国際線担当(KI)の町野玲奈さんが、海外部門はソウル金浦空港の金健東(キム・グォンドン)さんが優勝した。羽田は第1回以来、金浦は第3回以来の優勝で、それぞれ2度目となった。
—記事の概要—
・アナウンス審査とカウンター実技をリンク
・出場者悩ます4人の乗客役
・優勝は羽田国際とソウル金浦
・人間らしさって何?
アナウンス審査とカウンター実技をリンク
コンテストの第1回目は2013年2月、空港のチェックインカウンターを模した「空港サービスモックアップ」を同センター内に設け、1周年を迎えた時に開催。地上係員のサービス向上を目指して始めた。
JALには国内外合わせ、約5000人の地上係員が在籍している。11月14日の最終予選には国内外59人が出場し、12人が15日の本選に進出。第3回大会からスタートした海外空港部門には、金浦のほかロサンゼルスやヘルシンキなど10空港が参加した。
また、前回から設けられた保安検査部門には、羽田と熊本、福岡の3空港から2人1組の係員が出場した。
本選では、悪天候などイレギュラー運航を想定したアナウンス審査と、カウンターチェックイン実技で接客スキルを審査した。
前回までは、アナウンスとカウンターの審査は別々に行っていたが、国内部門については連続して実施。アナウンス内容を受ける形で乗客役の教官が登場し、審査内容を一切知らされていない出場者たちは、カウンターに並ぶ乗客役たちを接客した。
出場者悩ます4人の乗客役
アナウンス審査では、出場者の空港からの出発便が、使用する機材が悪天候で遅れているため、国内線担当(KD)の場合は2時間、国際線担当の場合は3時間遅れる設定。他社便も満席で振り替えが出来ない状況で、日本語と英語によるアナウンス文を読み上げた。
国内部門のカウンター審査は、アナウンス内容を受ける形ですぐにスタート。4人の異なるタイプの乗客役に、出場者たちは自分ならでは接客で挑んだ。
1人目は遅延のアナウンスを聞き、重要な会議に間に合わないといらだつ外国人ビジネスマン、2人目はアナウンスを聞いて困っていた1人目の男性をカウンターに案内した、観光に向かう女性客、3人目は赤ちゃんを連れた母親、4人目は捻挫(ねんざ)して車いすを利用している夫を連れた妻という設定だった。
アナウンスとカウンター双方の審査では、JALが目指す利用者に寄り添ったサービスが体現できているかが重視された。
審査員はJALの藤田直志副社長をはじめとする役員と、帝国ホテルとオリエンタルランド、アメリカン航空(AAL/AA)から招かれた社外審査員が務めた。最終予選の参加者も、「オーディエンス投票」としてアナウンスとカウンターそれぞれ1票ずつ投票権を持ち、1票1点として審査結果に加点した。
優勝は羽田国際とソウル金浦
審査の結果、国内部門は羽田の町野さん(07年入社)が優勝。準優勝は福岡空港の野村翼さん(16年入社)、審査員特別賞には高知空港の岡村美音(みお)さんが選ばれた。男性の地上係員が入賞するのは、前回に続き2回目となった。
海外部門は金浦の金さんが優勝し、準優勝に北京空港の魯瑩(ルー・イン)さん、審査員特別賞に天津空港の趙新明(ジャオ・シンミン)さんが選ばれた。
保安検査部門は、熊本空港で警備を担当する熊本空港警備の太田啓太さんと江嶋遥さんのチームが優勝した。
優勝した町野さんには表彰状のほか、JALと同じ航空連合「ワンワールド・アライアンス」に加盟するアメリカン航空から、日米往復航空券がペアでプレゼントされた。
閉会式でJALの藤田副社長は、「優勝はすばらしいが、優勝しなかった人も胸を張ってサービスレベルを磨いて欲しい。いつも思うが、私たち経営陣は美しい心を持っている社員がいるのは宝。みなさんがさらに活躍できる場を作っていきたい」と、感涙を浮かべながら出場者を激励した。
サービスレベルをたたえると同時に、出場者には英語力に磨きを掛けることに期待を寄せた。「難しい勉強は必要ない。高校時代の参考書を読み返し、10個ぐらいセンテンスを身につけるだけで違う」と、藤田副社長が実践しているという上達法を紹介した。
本選に進んだ12人には、アルメリアの花をデザインした銀バッチが貸与された。アルメリアの花言葉は「おもてなし」。銀バッチはJALのおもてなしの模範となる地上係員であることを社内外に対して示すもので、歴代の本選出場者「サービス・アドバイザー」が着用している。
人間らしさって何?
優勝した町野さんは関西空港に勤務していたが、2010年10月に羽田が再国際化した際、現在の国際線ターミナルへ各地の仲間とともに異動してきた。所属チームからは推薦されたが気持ちが固まらず、何度も断った上での出場となった。
町野さんが出場が決まり一番悩んだことは、教官から“人間らしい接客”を求められたことだったという。
「人間らしさって何だろうと、休みの日も悩みました。これまでは、どうしてもきれいに(業務が)まわるようにしている部分がありました」と、町野さんは自らの接客を省みた。
本選に向け、「どうしたらお客様に喜んでもらえるかを、家族や友達に接するようにと考えることで、自分らしさを引き出せたのではと思います」と、町野さんは改善点を振り返り、涙をぬぐいながら優勝を喜んだ。
準優勝した野村さんはパイロット訓練生。今年入社し、最初の勤務地として福岡空港に配属された。自分では一生懸命に仕事に取り組んでいるつもりでも、時には訓練生ゆえ“腰掛け”と思われてしまうことに、自分の至らなさと悔しさを感じて立候補した。
野村さんは「僕がこの大会に出て成績を残すことで、全国にいる同期の訓練生も頑張っていることを証明したいと思い、出場しました」と、同機を話した。
準優勝に輝いたことで、「もし本当に手を抜いている人(訓練生)がいたならば、僕の姿を見て少しでも変わって欲しいです」と思いを語った。
海外部門で優勝したキムさんは、鹿児島の大学を卒業。流ちょうな日本語を話すキムさんも、町野さんと同じく上司から推薦されながら、出場を断り続けていた。
「私は45歳ですが、多くの人たちは2010年前後の入社。この歳で、という思いがありました」と悩んだ経緯を話す。しかし、出場したことで「素晴らしい大会に参加させていただき、勉強になりました」と、多くのものを得たという。
「金浦空港が海外のトップステーションとしてさらに飛躍するよう、リーダーシップを発揮していきたいです」と決意を新たにした。
*本選出場者の写真はこちら。
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日本航空
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