マイルの特典航空券で、日本航空(JAL/JL、9201)の羽田-ロンドン線ファーストクラスに搭乗する本特集。初めて特典航空券を利用してファーストクラスに搭乗した昨年は、JALの羽田発パリ行きJL45便を利用した。今回はロンドン近郊で7月上旬に開かれたファンボロー航空ショーの取材に向かうため、羽田発ロンドン行きJL43便を選んだ。
昨年は往路のみファーストクラスの航空券をゲットできたが、今回は復路も交換できた。これで日本出発便のサービスと、海外発を比べることが出来る。本特集の第1回目はマイルによる特典航空券の取得、第2回目は羽田のファーストクラスラウンジやターミナルの問題点を取り上げた。
前回の第3回目は往路編。羽田からロンドンへ向かう機内の様子を取り上げた。
そして今回、第4回目は最終回として復路のロンドン発羽田行きの機内編。すでにファーストクラスの設備やサービスは、第3回の往路編で取り上げた。そこで今回は、日本の航空会社が課題と位置づけることが多い、国際線の海外空港でのサービスや、復路便で体験できた「幻のシャンパン」とも呼ばれる仏サロン社のシャンパン「シャンパーニュ サロン」の飲み比べを中心とし、特集最終回としたい。
—記事の概要—
・搭乗手続き開始時刻前にカウンターへ
・オススメはターミナル5
・“幻のシャンパン”飲み比べ
・他人を気にせず過ごせる空間
*第1回特典航空券の取得編はこちら。
*第2回ラウンジ編はこちら。
*第3回ロンドン行き機内編はこちら。
搭乗手続き開始時刻前にカウンターへ
7月7日深夜、羽田空港の国際線ターミナルでJALの七夕フライト取材した翌朝、私は8日昼前に出発するJL43便でロンドンへ向かった。JL43便では、進行方向左側の最前列窓側である、1A席を取ることが出来た。国内線では何度か座る機会があったが、まったく違う雰囲気を感じた。やはり国際線の花形路線を飛ぶ飛行機の「一丁目一番地」は、言葉では表わしにくい、独特のものだった。
今回ロンドンへ向かったのは、ロンドン近郊で7月上旬に開かれたファンボロー航空ショーの取材のためだ。羽田-ロンドン線のファーストクラスは、往復で200万円以上もかかる。当然現金で支払ったわけではなく、貯まったマイルを使い、ファーストクラスの特典航空券をゲットした(特典航空券の詳細は第1回参照)。
2012年2月の創刊以来、いまだに多額の赤字を抱える弊紙にとって、ひときわ取材費が掛かる航空ショーだが、特典航空券で多少は抑えることが出来た。私はAviation Wireの創刊後、私用で旅に出ることは出来なくなり、空港はハレの場から通勤先になってしまった。取材用の航空券購入や、クレジットカードの利用で貯まるマイルは、まったく使い道がなく、航空ショー取材の足代にはうってつけなのだ。
そのファンボロー航空ショーの取材も終わり、9日間過ごしたロンドンを後にしたのが7月16日土曜の夜。羽田行きJL44便に乗り、帰路についた。
この日の出発時間は午後7時15分。特に用事もないのでホテルをレイトチェックアウトし、ロンドン市内と空港を結ぶ「ヒースロー・エクスプレス」でヒースロー国際空港へ向かった。搭乗手続きは出発3時間前の午後4時15分からなので、午後3時45分すぎ到着した。
ファーストクラスのチェックインカウンターは、JALと共同事業(JV)を行っているブリティッシュ・エアウェイズ(BAW/BA、以下BAと略)と共用。磨りガラスの壁の内側にはイスが置かれており、スーツケースをカウンター前に置き、ここで待つことにした。
手続き開始時刻になると、JALの制服を着た男性係員が応対してくれた。最初はにこやかに日本語で応じてくれたが、私がいくつかの受け答えで片言の英語を話すと、以後は英語のやりとりになった。
恥ずかしながら、私は英語がまったくと言っていいほど出来ない。ファーストクラスなら、空港到着後は英語から解放されると思っていたが、甘かった。次の海外取材では、日常会話くらいは出来るように頑張りたい。
そして、優先レーンによる手荷物検査を終え、BAのラウンジへ向かう。JALはヒースロー空港のターミナル3から出発するので、同じターミナル内のラウンジへ進んだ。受付で航空券を提示すると、ファーストクラス客が使える「Galleries First Lounge(ギャラリーズ ファーストラウンジ)」に通された。
オススメはターミナル5
「あれ? BAのウェブサイトで見た雰囲気とだいぶ違うなぁ」。ラウンジに踏み入れた最初の感想は、ひと言で言うとガッカリ感だった。ウェブサイトでは、優雅で高級感のある、日本の航空会社のものとは次元が違うラウンジの写真だった。
しかし、目の前に広がる光景は落差のあるものだった。羽田にあるJALのファーストクラス用ラウンジの方が、遥かに高級感があった。
実はこれには訳があった。BAの主要国際線が使用するのは、ヒースロー空港に現在4つあるターミナルのうち、最新のターミナル5。ここにあるギャラリーズ ファーストラウンジこそが、ウェブサイトに載っているものだったのだ。ターミナルは異なるが、JAL便のファーストクラス客も利用できる。
このターミナル5のラウンジについては帰国後に知ったので、私はターミナル3のラウンジで過ごした。ラウンジ内の照明は、日本の明るさと比べるとやや暗め。バーカウンターやコーヒーメーカーが並ぶコーナー、シャンパンのカウンターなど、いくつかのエリアに分かれていた。白とロゼのシャンパンは冷やされており、セルフサービスで楽しめた。
一番奥まで進むと、軽食を頼めるコーナーがあった。駐機場に面した窓側席もあり、私と違い飛行機が好きな人なら楽しめるだろう。
ラウンジに着いたばかりの時間帯は、利用客が少ないばかりか、軽食エリアにスタッフがあまりおらず、メニューを注文できるのかといった状態だった。時間が進み、利用客が増えると、レストランのような雰囲気になった。飲み物はすべてセルフサービスだが、食事は注文してから料理してくれるので、できたてが食べられた。
私は前回、生まれて初めて国際線のファーストクラスとなる羽田発パリ行きJL45便に乗った際、羽田のラウンジで思わず食べ過ぎてしまい、楽しみにしていた機内食を、かなりお腹が苦しいコンディションで食べることになってしまった。
今回は失敗から学び、羽田のラウンジには時間に余裕を持たせて朝食の時間帯に入り、カレーや焼きたてのライ麦ガレットを楽しんだ。機内食は午後1時前後なので、まったく問題なかった(羽田ラウンジ編の第2回はこちら)。
復路に利用するBAのラウンジも、早めに着くことで軽食を食べられるようにした。出張する前に下調べした際、ラウンジで食べた人から評価が高かった、オリジナルメニュー「BAバーガー」を頼んでみた。アンガス牛のハンバーグで、ベーコンやチーズ、ピクルス、チェリートマトが添えられている。肉の焼き加減も好みにでき、ミディアムレアで注文した。
英国料理と言えば、日本人の口に合わないと酷評されることが多いが、BAバーガーを食べた限りでは、そう感じることはなかった。食事を終え、ラウンジの窓から日本では撮影出来ない、BAの国内線用機材などの資料写真を撮っていると、ラウンジの男性スタッフが「もうじきA380が出発するぞ」など、見どころを教えてくれた。もちろん私の苦手な英語で。
“幻のシャンパン”飲み比べ
出発の30分前近くなり、ラウンジから搭乗口へ向かった。羽田行きJL44便(ボーイング777-300ER型機、登録番号JA740J)が使う搭乗口はラウンジから離れており、10分程度は歩いた。ファーストクラスであっても、航空券に記載されている搭乗開始時刻には、ラウンジを出た方がよいと感じた。
搭乗橋は羽田と異なり、L2ドアに付ける1つのみで、ファーストクラス専用はなし。機内に入ると、左がファーストクラスと一部ビジネスクラス、右が残りのビジネスとプレミアムエコノミー、エコノミークラスだ。帰りの席は右側奥の窓側2K席で、ファーストクラスのエリア全体が見渡せる。
自席横の通路を通るのは客室乗務員のみなので、往路の1A席とは違った落ち着きがある。左利きの私にとっては、進行方向右側のほうが気分もなんとなく落ち着く。
帰りの便でも、幻のシャンパン「シャンパーニュ サロン」が堪能できる。ここで思いも寄らぬ体験が出来た。現在積んでいる2004年のサロンに加え、前回飲んだ2002年もあるという。
私の席を担当してくれた客室乗務員によると、数が限られているため2種類積むこともあるそうだ。2004年の味は往路で覚えたので、記憶がおぼろげな2002年から飲むことにした。
2002年のサロンを改めて飲むと、すっきりとした飲みやすさが印象に残った。2004年のしっかりした味わいとは対象的で、同じ銘柄とは思えないほど個性が異なる。往路では口当たりが良いものの、しっかりとした味わいの2004年を飲み、前回よりも好印象を得た。しかし不思議なもので、帰りの便で2種類を飲み比べると、2002年の方がおいしく感じられた。
幻のシャンパンを飲み比べる機会など、地上のレストランでもなかなかない。それが機内で楽しめたのは格別であったし、9日間の不慣れな英国生活による疲れを吹き飛ばしてくれた。そして客室乗務員との会話も日本語だ。
そして、お楽しみの機内食。欧州発便なので洋食を選んだ。アミューズ・ブーシュ、アペタイザー、メインディッシュ、パン、デザートとあり、アペタイザーとメインディッシュは3種類から選べた。
アペタイザーはキャビアとロブスター、スモークサーモンがあったので、キャビアをチョイス。メインディッシュは牛フィレ肉のステーキとラムラックの香草焼き、スズキのフィレから、牛フィレ肉を選んだ。
グレイビーソースがかかったメインの牛フィレ肉は、焼き加減をミディアムレアでお願いした。機内食の肉は一度火を入れた状態で搭載されており、再加熱して提供される。このため、地上のように焼き加減を調節することは難しい。
それでもレアが好みであると伝えると、ギャレー担当の客室乗務員が、近い食感のミディアムレアになるよう工夫してくれた。ラウンジのBAバーガーと同じく、英国人の作る料理は日本人と好みが合わないといったこともなく、おいしく食べることが出来た。
近年ビジネスクラスにフルフラットシートが導入され、海外の機体メーカーからは「日本のビジネスクラスなら、ファーストクラスがいらないのでは」と高く評価されている。しかし、こうした客室乗務員のきめ細やかなサービスは、ファーストクラスならでは。航空会社のウェブサイトなどでも、伝えきれない違いだろう。
やがて羽田空港に近づいてきた。機体は高度を下げ、右手の眼下には東京ディズニーリゾート、東京ゲートブリッジと、B滑走路(RWY22)に着陸する際におなじみの景色が見えてきた。約11時間のフライトはあっという間で、羽田の113番スポットに到着した。
他人を気にせず過ごせる空間
海外発便は日本との習慣の違いなどもあり、日本の航空会社からは品質を向上していく上で、苦労話を聞くことが多い。
例えば機内食を提供する現地のケータリング会社と細かく打ち合わせても、「こちらのほうがおいしいだろう!」と、自信満々にレシピを改良してくれるシェフもいるという。もちろんこれが良い方に作用することもあるが、日本人の乗客の好みに合うとも限らない。
機内食のメニューだけではない。ビジネス全般で日本と進め方が異なるのは、海外の企業などと仕事をした人なら、誰しも想像がつくだろう。
今回、ファーストクラスに往復で乗った理由のひとつが、この海外発便でのサービスレベルを体験することだった。確かに英国と日本では習慣や仕事の仕方が異なるが、彼ら流のもてなしをしてくれる気持ちは十分伝わってきた。
そして、「幻のシャンパン」を飲み比べできた贅沢な帰国便。機内という制約の多い環境で、乗客の好みを可能な限り反映した料理を提供する、客室乗務員のサービス精神にも、頭の下がる思いだった。メインのステーキを、よりおいしく食べられたのは、言うまでもない。
ビジネスクラスとの差が縮まりつつあるファーストクラスだが、他人を気にせず、自分のペースで10時間以上のフライトを過ごせるのは、ファーストクラスならではの体験だ。単にフルフラットのベッドや、個室に近い空間といったハード面の良さだけではない。良い意味で、空の旅を忘れさせてくれ、あたかも地上で過ごしているかのように感じさせてくれる環境こそが、ファーストクラスの存在価値ではないだろうか。
最後に、私が搭乗した7月8日のロンドン行きJL43便、7月16日の羽田行きJL44便のクルー、無事に送り出し、出迎えてくれた空港のスタッフ、航路の安全を守ってくれた管制官など、搭乗便に携わったすべての人たちに感謝の言葉を贈り、特集を終わりたい。思い出に残る良い旅をありがとうございました。
(おわり)
*写真は36枚。
関連リンク
スカイスイート 777(日本航空)
特集・JALファーストクラスで行くロンドン
(1)特典航空券でファースト往復(16年8月16日)
(2)専用ラウンジは腹八分目(16年8月17日)
(3)雲上の1A席で楽しむ“幻のシャンパン”(16年9月12日)
JALファーストクラスラウンジ
・世界へ旅立つ飛行機眺めて鉄板焼き(14年9月15日)
スカイスイート 777
写真特集・JALスカイスイート777ができるまで
第1回 シート外した機内は広大な空間(14年7月28日)
第2回 新シート244席を手作業で(14年7月30日)
最終回 格納庫離れる最終改修機(14年8月3日)
特集・JAL国際線ファーストで行くパリ(2015年の搭乗記)
(1)特典航空券でファーストクラスに乗ってみた(15年7月24日)
(2)専用ラウンジは食べ過ぎ注意(15年7月25日)
(3)12時間半乗っても疲れない(15年7月27日)
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