地方公共団体などで構成する全国地域航空システム推進協議会は1月26日、2014年度研修会を都内で開いた。LCC(低コスト航空会社)を中心に課題となっている機長不足問題などについて、講演が行われた。
機長不足問題については、元日本航空(JAL/JL、9201)機長で危機管理・リスクマネジメント講師、航空評論家の小林宏之氏が登壇。現在不足しているのはパイロットではなく機長であるとした上で、今後はパイロット自体も不足してくる可能性があると指摘した。
国内の中長期的な課題として、現在のパイロットの中心年齢は40代で、15-20年後に大量退職することを挙げた。また、短期的には2012年から就航した国内LCC各社が事業立ち上げ時にベテランパイロットを大量採用したことで、数年でLCCはパイロット不足に直面すると現状を説明した。LCCを含め、国内では大手2社以外の機長は60代が多く、定年退職するまでの5年以内に対策を講じる必要があるという。
航空需要は世界的に拡大しており、2030年までに世界平均で現在の2倍のパイロットが必要となり、日本を含むアジア太平洋地域では4.5倍必要になると言われている。
供給体制を見ると、北米の航空会社ではパイロットの半数が軍出身であるなど、海外では軍出身者が3割以上を占めるケースが多い。一方、日本は自衛隊出身者の比率は6%にとどまる。欧米ではパイロットを目指す際、「航空会社にも個人にも負担が掛からない」ルートが機能していると小林氏は指摘した。
国土交通省航空局(JCAB)では、パイロット不足解消策のひとつとして、自衛隊パイロットが民間航空会社へ再就職する「割愛」制度の再開を2014年3月に決定。しかし、割愛を利用しても、現状のパイロット不足を補える人数を一度に確保できない。
JCABの有識者会議で委員を務めた小林氏は、当面の対策として現役パイロットの有効活用を挙げ、実現のために必要となる健康管理体制の確保を提言したという。
小林氏によると、大手2社は健康管理体制ができているものの、中小では充実した体制を構築するのは難しいという。一方で、自身が42年間のパイロット生活で病欠が一度もなかった経験から、「健康管理とパイロットに求められる危機管理は同じ考え方」と述べた。
パイロットは乗務する際、航空身体検査に合格している必要がある。この合格率が60歳を過ぎると10数%に一気に落ち込むという。自己管理の仕方を見直し、現役パイロットにより多く乗務してもらうことが、当面の対策の一つだと語った。小林氏は健康管理について、「こんなことしちゃいけない、という(不健康になる)要素は誰でも分かっている」とした上で、機長経験として大事な自己コントロールを健康管理にも応用すべきとの考えを示した。
研修会ではこのほか、リージョナル機をはじめとする航空機材の動向について、桜美林大学特任教授で運輸政策研究所客員研究員の橋本安男氏が、JCAB大臣官房参事官の村田茂樹氏が2015年度航空局予算について、それぞれ講演した。
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全国地域航空システム推進協議会
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