IATA(国際航空運送協会)は現地時間12月10日、2025年の世界の航空会社による業績見通しを発表した。純利益は366億ドル(約5兆5400億円)、純利益率は3.6%と予測した。今年の予想純利益315億ドル、純利益率3.3%から改善する見通し。
世界の航空収入は初めて1兆ドルを突破し、旅客数は52億人と初めて50億人台に達して、年間フライトは4000万回へ拡大すると予測。旅客需要は前年比6.7%増、貨物量は5.8%増といずれも力強い伸びが見込まれ、新型コロナ後の「通常の成長パターン」へ戻りつつあると位置づけている。
—記事の概要—
・過去最高52億人
・機体納入遅延の影響続く
過去最高52億人
ジュネーブで10日に会見したIATAのウィリー・ウォルシュ事務総長は「世界経済の約1%に相当する1兆ドル超の収入は航空が戦略的に重要な産業であることを示す」とした上で、「最終的な純利益率は3.6%にすぎず、1人あたり7ドルの薄利だ」と指摘。航空会社はインフラコストや規制、サプライチェーン問題、環境対応への投資など多数の要素を同時に管理しなければならず、依然として収益確保が容易でない実態を浮き彫りにした。
2025年の総収入は前年比4.4%増の1兆700万ドルと、初めて1兆ドルの大台を突破すると予想。営業利益は675億ドルで、営業利益率は6.7%となる見込み。
年間旅客数は2019年比で大幅な伸びを示し、前年度比6.7%増の約52億人と過去最高を更新する見通しで、年間ロードファクター(座席利用率)は0.4ポイント上昇して83.4%に達すると予測。旅客収入は3.4%減の7050億ドルを見込む。
年間貨物量は5.8%増の7250万トンに拡大する見通しで、貨物収入は1570億ドルと2019年実績(1010億ドル)を上回る高水準を維持するとみられる。スエズ運河を経由する海上輸送における地政学的な不確実性の継続や、アジア発の急成長する電子商取引などが貨物需要を牽引すると予測している。
費用は9400億ドルへ増加し、前年から4.0%上昇する見込み。ジェット燃料価格は1バレル87ドルへ下落し、総燃料費は2480億ドルで運航コスト全体の26.4%を占める見通しとなった。
地域別では、中東が純利益率8.2%で最も高い収益性を示す見通しで、欧州は4.4%、北米は4.2%と続く。アジア太平洋は1.4%と相対的に低めだが、インドや中国など潜在的な成長市場を擁する地域で、インフラ拡充や規制改善により将来的な伸びしろが期待できるとした。
アジア太平洋地域は、旅客需要を示すRPK(有償旅客キロ)ベースで最大の市場であり、そのうちの40%以上を中国が占める。2024年は中国、ベトナム、マレーシア、タイなど複数の国々への入国ビザ要件の緩和による市場刺激策も追い風となり、RPKは18.6%増加した。サプライチェーンの問題などで、2024年に最も収益が落ち込んだ地域となったが、旺盛な需要とロードファクターの増加により、2025年は収益性が若干改善する見込み。
機体納入遅延の影響続く
サプライチェーンの混乱は2025年にも続く見通し。機体の納入遅延、エンジンや部品不足は、路線拡大や機材更新を制約し、需要に応じた柔軟な対応を難しくする。こうした問題が解消されれば、燃費性能に優れた新型機の投入が進み、環境負荷軽減にもつながると考えられるが、現時点では早期の改善が見通しにくい。
燃料価格は2025年にやや下落し、燃料費は運航コスト全体の26.4%に抑えられる見込み。一方、SAF(持続可能な航空燃料)やCORSIA(国際航空の温室効果ガス排出量オフセット・削減制度)対応など、脱炭素化の取り組みはコスト増をもたらしている。IATAは、ネット・ゼロ達成には政府や関連産業との協調が不可欠と強調し、長期的な視点での戦略的投資が求められると指摘している。
IATAによると、利用者調査では、航空が「生活や経済の必需品」であり、「旅行頻度や支出を増やしたい」と考える声が多かった。これらは需要増を裏づけており、収入1兆ドルや旅客52億人という明るい指標を下支えする要因となる。一方で、薄利構造からの脱却にはコスト効率化やサプライチェーン再構築、環境対応への着実な進展が欠かせず、航空業界は多面的な課題解決によって持続的な成長基盤を固める必要がある。
2025年は、パンデミック後の異例の回復期を経て「より通常の成長パターン」へ回帰するとされるが、その道のりは平坦ではない。航空会社は需要増を生かして業績を積み上げる一方、サプライチェーン混乱への対処や規制・税負担緩和、インフラ改善、脱炭素化促進など、並行して取り組むべき課題が山積している。コスト削減と効率化、ステークホルダー間の連携強化が、世界の航空業界に真の意味で「安定成長」をもたらすとみられる。
関連リンク
IATA
・IATA、スペインの機内手荷物規制批判「旅行者の選択肢奪う」(24年11月23日)
・9月の国際線、好調も伸び鈍化=IATA旅客実績(24年12月2日)
・IATA事務総長「PWエンジン問題は25年も影響」世界の航空会社、24年は過去最高の総収入に(23年12月6日)
・IATA、24年のSAF生産3倍150万トン 増産へ解決策提案(24年6月3日)
・24年の旅客数、過去最高の世界50億人に IATA第80回年次総会(24年6月3日)