エアライン, ボーイング, 機体, 空港, 解説・コラム — 2024年10月14日 12:50 JST

なぜZIPAIRは最長ヒューストン線を開設できるのか 特集・往復28時間路線支える整備運航計画

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 「ヒューストンは我々にとって大きな転換点。成田から往復28時間くらいかかり、24時間を超える路線を初めて運航する。中南米のマーケットにもアクセス可能だ」。ZIPAIR(ジップエア、TZP/ZG)の西田真吾社長は、新路線の成田-ヒューストン線を2025年3月4日から週4往復で開設すると発表した。

成田-ヒューストン線開設を発表するZIPAIRの西田真吾社長(左)と客室乗務員=24年10月10日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 会社が大きな転換点を迎えた10月10日、西田社長はイベントに顔を出す際のトレードマークになっていた2リットルのコカ・コーラを封印し、お茶のペットボトルを持って会見会場となった成田空港の会議室に現れた。

 ZIPAIRは、日本航空(JAL/JL、9201)が100%出資する中長距離LCC(低コスト航空会社)。とはいえ、1路線目のバンコクは、JALが海外最大の客室乗務員の基地を持つものの、整備や旅客、グランドハンドリングといった委託先は、JALとは異なる企業と契約した。バンコク就航最大の理由は「需要の太さだった」と西田社長は振り返る。

 ヒューストンが大きな転換点になるのは、これまで最長だった成田-ロサンゼルス線を超える最長路線になるだけではない。ボーイング787-8型機(2クラス290席)を1路線に1日あたり2機投入する初のオペレーションになるからだ。今年度は8機体制での運航となり、週4日とはいえ、4分の1がヒューストン線に割かれるとも言える。

 なぜZIPAIRは最長となるヒューストン線を開設できるのか。運航面での裏付けを探った。

—記事の概要—
予防整備やJAL機と部品共通化で欠航防ぐ
北米アジア流動と在留邦人

予防整備やJAL機と部品共通化で欠航防ぐ

 LCCで世界初の太平洋横断路線となった成田-ロサンゼルス線の就航からまもなく3年となり、長距離路線の運航品質に自信をつけたZIPAIR。「2023年度は運航率100%、2024年度も現時点で8月の台風による欠航を除くと100%だ」(西田社長)と、ロサンゼルスやサンフランシスコといった西海岸路線を運航していても、運航率100%が続いていることが、ヒューストン就航を決断する要因のひとつになった。

成田空港のJAL格納庫に入ったZIPAIRの787-8=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 では、運航品質を左右する機材繰りはどのようにしているのだろうか。一般的に、往復24時間以内の路線であれば、1路線あたり1機で1日1往復運航できる。これが24時間を超えると1日に2機必要になり、これまでとは異なるオペレーションを求められる。

 機材繰りの前に、ZIPAIRは繁忙期前の「予防整備」で故障する可能性が高い部品をあらかじめ交換するなど、故障を極力発生させない整備計画を立てている。ZIPAIRの787は、JALが100%出資する整備会社JALエンジニアリング(JALEC)が成田空港で整備しており、整備時期だけでなく、シートの調達なども工夫がみられる。

 ZIPAIRのシートは、フルフラットの上級席「ZIP Full-Flat(ジップ・フルフラット)」と、エコノミークラス「Standard(スタンダード)」の2種類。このうち、Standardのシートは、JALがエアバスA350-900型機や787-8の国内線仕様機で採用したものとベースモデルが同じ独レカロ製で、個人用モニターの有無などの違いはあるが調達や整備コストを抑えている。

個人用画面を設置しないZIPAIRの787-8のエコノミークラス「Standard」=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

全席に10インチ個人用モニターを備えるJALの787-8国内線仕様初号機の普通席=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 また、機首のレーダードームやエンジンカウルなど、機体の大半が白い塗装なのも、整備性を考えたもの。「白はJALの787と同じ白。部品が壊れた際、JALから融通してもらえるようにした」(西田社長)と、コーポレートカラーのメイン「ハーモニー・グレー」や、サブカラー「トラスト・グリーン」のラインが控えめなのはこうした理由からだ。

 JALの787と共通性を極力持たせることで整備性を高めた上で、機材繰りも工夫している。ZIPAIRは現在8機の787-8を運航しているが、予備機はない。

 予備機を持たない中、ZIPAIRは787各機に余裕を持たせた整備期間を設定し、整備作業が発生しても極力運航には影響が生じないよう、機材繰りを工夫している。ヒューストン線は初めて1路線あたりの必要機材数が1日2機に増えるため、これまでと同じ運航品質を維持できるかがチャレンジになる。

北米アジア流動と在留邦人

 米中南部のヒューストン就航まで最長路線の座にあるロサンゼルス線は、2021年12月25日に開設。日本を含む世界のLCCで初めて太平洋を横断し、米国の西海岸へ到達した。ロサンゼルスは在留邦人が世界最多の都市で、貨物需要も見込めることから最初の米本土路線になった。

成田空港でLCC世界初の太平洋横断路線となるロサンゼルス行き初便ZG24便を見送るサンタクロースに扮したZIPAIRの西田社長と社員=21年12月25日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 NASA(米国航空宇宙局)の有人宇宙飛行の拠点、ジョンソン宇宙センターがあることやエネルギー産業などで有名なヒューストンは、2023年の調査で全米5位の人口を誇り、テキサス州内でも最大規模。ヒューストン近郊も含めると、トヨタ自動車(7203)など日系企業が多数進出している。

 2020年の就航以来、旅行客や里帰りなどの親族訪問、ビジネス渡航、留学といった領域の利用者を獲得してきたZIPAIRだが、駐在員が自費で一時帰国する際に利用するケースも増えているという。北米-アジアの流動だけでなく、就航地が擁する日本人コミュニティーの大きさも重視している。

  ◇ ◇ ◇

 これまでと異なる運航パターンになるヒューストン線が成功すれば、米東海岸や南部への就航も現実的になってくると、西田社長は話す。ウクライナ問題の影響でロシア上空が飛べない中、欧州就航は現実的ではなく、路線展開は当面アジア-北米の流動につながる路線になりそうだ。

 そして、JALは今年7月のファンボロー航空ショーで、787-9を最大20機正式発注。今年3月に導入発表した際、JALの赤坂祐二会長(当時社長)はAviation Wireの取材に対し、ZIPAIR向けにも787-9の導入を検討していることを明らかにしており、18席あるフルフラットシート「ZIP Full-Flat」が常時満席に近いことからも、ヒューストン線就航に続くチャレンジの一つは、複数機材の運航が視野に入るだろう。

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ヒューストン就航
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機内の動画(YouTube Aviation Wireチャンネル
ZIPAIR 787-8 JA822J機内公開 フルフラットシートも

写真特集・ZIPAIR 787-8の機内
(1)フルフラット上級席ZIP Full-Flatは長時間も快適
(2)個人用モニターなし、タブレット置きと電源完備のレカロ製普通席
(3)LCC初のウォシュレット付きトイレ