エアライン, 企業, 解説・コラム — 2024年7月8日 17:50 JST

ANAと京セラ、代替燃料SAFでCO2削減 企業向け制度初の荷主企業

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 ANAホールディングス(ANAHD、9202)傘下の全日本空輸(ANA/NH)は7月8日、ANA便を利用する企業と共同でCO2(二酸化炭素)排出量削減に取り組む同社の制度「SAF Flight Initiative(SAFフライトイニシアチブ)」 に、京セラ(6971)が荷主企業として初めて参画したと発表した。代替航空燃料「SAF(サフ、持続可能な航空燃料)」を活用してCO2削減につなげるもので、ANAが第三者機関の認証を受けたCO2削減証書を発行し、京セラは長期環境目標である2050年度のカーボンニュートラル達成につなげる。

成田空港でANAの777F貨物機によるシカゴ行きNH8402便に積み込まれる京セラの貨物=24年7月8日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
CO2削減証書を発行
環境投資として理解求める

CO2削減証書を発行

 ANAは、SAFフライトイニシアチブを2021年10月に発表。従来は「バイオ燃料」などと呼ばれていた植物油などを原料とするSAFを、フライトに使うことでCO2排出量を減らすもので、京セラが加わったことにより参画企業は20社となった。SAFは従来の化石燃料と比べ、原材料の生産・収集から製造、燃焼までのライフサイクルでCO2排出量を約8割削減できる。

ANAの777F貨物機の前で記念撮影するANAの松田マネジャー(右)ら=24年7月8日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

SAFフライトイニシアチブについて説明するANAの松田マネジャー=24年7月8日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 SAFフライトイニシアチブの第1弾として、貨物便を対象にした「カーゴ・プログラム」を物流業界とスタートさせた後、従業員の海外出張によるCO2排出量の削減につなげる「コーポレート・プログラム」を2022年から始めた。

 カーゴ・プログラムは、ANA便の貨物搭載スペースを扱うフォワーダー(貨物代理店)向けにスタートし、荷主向けプログラムを2023年9月に発表。ANA経営戦略室企画部GXチームの松田義信マネジャーは「フォワーダーだけでなく、荷主にもCO2削減証書を発行するプログラムができないか、との声があった」と、荷主向けも始めたという。

 一方で、航空貨物は通常、積荷の詳細をフォワーダーが把握しており、ANA側では細かな情報を持っていないことから、ANAが証書を発行できるようにする仕組み作りに時間がかかった。

 温室効果ガス排出量の算定・報告の国際基準「GHGプロトコル2」では、企業活動により間接的に発生するCO2排出量の削減を「スコープ3」で求めている。SAFフライトイニシアチブの参加企業は、カーゴ・プログラムでは「航空貨物の輸送・配送(上流・下流)によるCO2排出量削減(スコープ3のカテゴリー4、9)」、コーポレート・プログラムでは「従業員の出張によるCO2排出量削減(スコープ3のカテゴリー6)」を実現し、環境目標の達成など自社の取り組みを、証書で社外に証明できるようになる。

 SAFは、従来の化石由来の航空燃料と混ぜて使用できる。このため、1便ごとにSAFを給油するのではなく、空港の貯蔵タンク内で従来の燃料と混在させている。荷主などが一定期間内に運んだ貨物の重量などからCO2排出量の削減度合いを算出する。

環境投資として理解求める

 今回の取り組みは、京セラの物流サービスを手掛ける日本通運と近鉄エクスプレスの協力で実現。京セラは、半導体製造装置の部品や自動車部品、電子部品などをANAの航空貨物などで運んでおり、京セラ経営管理本部海外管理部の西澤知一郎貿易管理部責任者は、SAFを使う際の運航コストについて「一概には言いがたいが、通常の5倍程度には増える」といい、当初はトライアルで、費用とのバランスなどを半年から1年程度かけて検証していくという。

成田空港でANAの777F貨物機によるシカゴ行きNH8402便に積み込まれる京セラの貨物=24年7月8日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 日通を傘下に持つNIPPON EXPRESSホールディングス(NXHD、9147)グローバル事業本部航空フォワーディング部の定月啓一郎次長によると、SAFの利用で運航コストが従来の航空燃料と比べて運航コストが5倍に膨らんだとしても、運賃も5倍に増えるわけではないという。

 近鉄エクスプレスのサステナビリティ推進室の寺本俊哉氏は「欧州では公的支援もあり、環境のための投資になっている」と説明。ANAの松田マネジャーは「現時点では運賃とは切り離して、環境への投資として企業の理解を得ていきたい」と話していた。

 ANAでは今後、「多くのフォワーダーと契約しているので、荷主企業にも説明していきたい」(松田マネジャー)と、荷主企業へ環境投資として訴求していきたいという。「国のSAFに対する支援も進んできたが、まだ欧米と比べると差があるので、国ともコミュニケーションを取っていきたい」という。

 IATA(国際航空運送協会)によると、SAFの年間生産量は19億リットル(150万トン)になると予測しており、昨年の約3倍にあたる。一方、全世界が今年必要とする年間航空燃料需要の0.53%にとどまっており、航空業界が掲げる2050年までのCO2排出実質ゼロを実現するためには、各国の政府がSAF普及に向けた政策を講じる必要性があると訴えている。

成田空港でANAの777F貨物機によるシカゴ行きNH8402便に積み込まれる京セラの貨物=24年7月8日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

成田空港でANAの777F貨物機によるシカゴ行きNH8402便に積み込まれる京セラの貨物=24年7月8日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

関連リンク
SAF Flight Initiative
全日本空輸
京セラ
NIPPON EXPRESSホールディングス
近鉄エクスプレス

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