エアライン, 解説・コラム — 2024年6月28日 23:45 JST

暴言や不当要求「毅然と対応」ANAとJAL、カスハラ対応を共同策定

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 全日本空輸(ANA/NH)と日本航空(JAL/JL、9201)は6月28日、利用者が従業員に対して理不尽な要求や非人道的な対応を強要する「カスタマーハラスメント(カスハラ)」の対処方針を共同で発表した。人としての倫理観が欠落した一部利用者による暴言や暴行などから従業員を守るとともに、安全性やサービス品質の向上を図る。

カスハラ対処方針を共同で説明するANAの宮下CS推進部長(左)とJALの上辻CX推進部長=24年6月28日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
毅然と組織的に対応
カスハラ「明らかに何も生み出さないもの」

毅然と組織的に対応

 両社が策定したカスハラに対する基本方針では、カスハラの定義を、顧客または第三者(取引先など含む)からの優越的な立場を利用した「航空法、その他関連する法規に反する行為」および「これらにつながりかねない行為」、または「義務のないことや社会通
念上相当な範囲を超える対応を要求する行為」により、従業員の就業環境が害されること、と定めた。

カスハラ対処方針を共同発表するANAの宮下CS推進部長とJALの上辻CX推進部長=24年6月28日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 カスハラの行為例を9つに大別。1)暴言・大声・侮辱・差別発言・誹謗中傷など、2)脅威を感じさせる言動、3)過剰な要求、4)暴行、5)業務に支障を及ぼす行為 (長時間拘束・複数回のクレームなど、6)業務スペースへの立ち入り、7)社員を欺く行為。8)会社や社員の信用を棄損させる行為(SNS投稿など)、9)セクシャルハラスメント(盗撮・わいせつ行為・発言・つきまといなど)とした。

 具体的な事例としては、大声で罵声を浴びせたり、「SNSで拡散する」「殴るぞ」「殺すぞ」などの脅迫、反社会勢力の関係をほのめかす発言、規定やルールを超えた多額の補償やアップグレードなど「特別対応」、土下座の要求、殴る、身体を押す、肩をつかむ、ものを投げる、飲み物をかける、傘を振り回す、居座り、長時間の電話や長時間拘束、話のすり替え、揚げ足取り、機内・空港・予約センターのやり取りを録音・録画しSNSで拡散などを挙げた。

 28日に都内で会見したANAの宮下佳子CS推進部長は「2022年に厚生労働省からカスハラ対策企業マニュアルが発行され、社会問題化しつつあり、世の中の関心も高まっている」と、両社が個別で進めてきたカスハラ対策をすり合わせ、共同で方針を策定した経緯を説明した。

カスハラ対処方針を説明するANAの宮下CS推進部長=24年6月28日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 本来であれば、苦言も含めて利用者からの建設的な意見や要望を受け、サービス品質を向上させていくものが、カスハラで従業員が退職したり、就業環境の悪化で人材不足に陥るなど、最終的にはサービス低下などにつながることに理解を求めた。

 基本方針の骨子を会見で説明したJALの上辻理香CX推進部長は、利用者からの建設的や意見や指摘に対しては「真摯(しんし)かつ誠実に対応していく」とする一方、カスハラに該当する行為は「従業員の人権および就業環境を害するものとして、毅然と行動し、組織的に対応する」とした。

 上辻部長は「カスハラに発展させないことが重要」として、根源的な要因にも目を向けつつ、対策を講じていくことを重視していくという。

カスハラ「明らかに何も生み出さないもの」

 2023年度に起きたカスハラの件数は、ANAグループとJALグループとも約300件だったといい、現場の肌感覚として年々増加傾向にあるという。

カスハラ対処方針を共同発表するANAの宮下CS推進部長(左)とJALの上辻CX推進部長=24年6月28日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ANAでのカスハラ対応は「2022年の厚労省のマニュアルを(社内のマニュアルに)反映し、2023年3月に(現在の)取り組みを始めた。夏ぐらいからJALに状況を尋ね、お互いの悩みをわかちあってきた」(宮下部長)という。国内の航空会社19社が加盟する業界団体「定期航空協会(定航協)」とも連携し、カスハラの9区分などをまとめていった。

 JALでは2020年からカスハラ対策に着手し、2021年2月に対応手順、2023年4月に「お客様対応ガイドライン」を策定。上辻部長は「ANAとともに取り組むことで、業界で統一した対応をとっていきたい」と語った。

 一方、カスハラは比較的新しい概念で、従来は「クレーム」の一部として扱われるケースも多かった。ANAの宮下部長は「クレームとカスハラの区別は難しいが、クレームは会社の気づきや成長につながるもので、カスハラは明らかに何も生み出さないもの」との見解を示した。今後は何がカスハラに該当するのかなど、従業員への教育などでカスハラ対応力を向上させたいという。

 JALの上辻部長も「現場でも判断が難しい状況だが、ガイドラインを示すことで一定の線引きをしていきたい。利用者からの意見や要望は改善につなげるべきものが多く、反省すべきものは反省し、毅然とした対応が必要なものは毅然と対応する」と述べた。

 両社は今後、定航協を通じるなどほかの航空会社とも連携し、航空業界としてカスハラ対策を進めていく。

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