約20年ぶりに登場した日本航空(JAL/JL、9201)の次世代国際線フラッグシップ、エアバスA350-1000型機。朝から晴天に恵まれた1月24日午前11時12分、乗客209人(幼児2人含む)と乗員19人(パイロット4人、客室乗務員15人)の計228人を乗せ、羽田空港112番スポットから初便のニューヨーク行きJL6便(A350-1000、登録記号JA01WJ)が、赤坂祐二社長をはじめ約90人の社員に見送られて出発した。
初便出発前に羽田で開かれた就航記念式典で、赤坂社長は「シートも新しくなったが、インテリア、機内食、機内エンターテインメントも一新した。ニューヨークまで長い旅になるが、存分にお楽しみいただきたい」とあいさつした。
JAL初の個室タイプのビジネスクラスは、実際どのような乗り心地なのか。私は昨年12月の仏トゥールーズでの世界初公開、今月15日に羽田で行われた就航準備が整った状態の日本初公開と取材したが、これまでは各クラスのシートを手際よく撮影することを優先したことから、座り心地をじっくり体験するのは今回が初めてだ。定刻ベースの所要時間が12時間55分と、1日の半分以上を機内で過ごす羽田発ニューヨーク行きで、A350-1000の個室ビジネスクラスを体験した。
今回の搭乗記前編はビジネスクラス、次回の後編はプレミアムエコノミークラスを取り上げる。
—記事の概要—
・天井広いファーストとビジネス
・自宅のような寝室に
・軽食は画面で注文可能だが…
・ヘッドホン不要の世界初内蔵スピーカー
天井広いファーストとビジネス
JALがA350-1000の導入を発表したのは2013年10月7日。これまで主力だったボーイング777型機の後継として、標準型のA350-900を18機、約7メートル長い長胴型のA350-1000を13機の計31機を確定発注し、オプション(仮発注)で25機購入する契約を締結した。A350-900は国内線機材で、2019年9月1日に就航し、16号機(JA16XJ)まで受領。通算17号機がA350-1000の就航初便に投入された初号機で、現地時間2023年12月11日にエアバスの最終組立工場がある仏トゥールーズで引き渡され、羽田には同月15日に到着した。
長距離国際線機材777-300ERの後継機で、同数の13機で順次置き換えていく。座席数は4クラス239席で、ファーストクラスとビジネスクラスはJAL初の個室タイプのシートを採用。ファーストが6席(1列1-1-1席)、ビジネスが54席(同1-2-1席)、プレミアムエコノミーが24席(同2-4-2席)、エコノミーが155席(同3-3-3席)で、日本の伝統美を意識した新シートを全クラスに導入した。
個室空間を作るために設けられた壁の高さは、ビジネスクラスが約132センチ(52インチ)で、ファーストクラスは約157センチ(62インチ)とさらに高い。
旅客機は通常、座席の上にオーバーヘッドビン(手荷物収納棚)があり、天井が低く感じる。しかし、JALのA350-1000は、ファーストクラスではすべて、ビジネスは中央のオーバーヘッドビンを取り払うことで、プライバシーを確保する高い壁を設けつつも開放感のある客室に仕上げた。ファーストも個室内に入りシートに座ると、壁に囲まれているというよりは、パーソナルスペースに収まった、という印象が強かった。
では、世界の航空会社がしのぎをけずるビジネスクラスはどうだろうか。今回の初便搭乗取材では、私の席はビジネスクラス後方エリア最後部にある16G席だった。中央列右側の最後尾で、客室全体を見渡せる。オーバーヘッドビンがある窓側席と比べ、中央席のほうが広さを体感できた。取材で乗る場合は窓からの景色を撮影する必要もあり、窓側に座る機会が多いが、出張などで旅慣れていて、窓からの眺めにこだわりがないのであれば、開放感を感じられるのは中央席だ。
自宅のような寝室に
個室タイプになったことで、スーツをかけるワードローブや機内持ち込み可能なサイズのキャリーバッグが入るスペースを個室内に設けた。初便のビジネスクラスに入ると、多くの収納スペースはカバーが少し開けてあり、コントローラーなども含めた「操作ガイド」がアメニティキットとともに置かれていた。操作ガイドはリーフレットだけでなく、機内エンターテインメントのコンテンツとしても「座席機能のご紹介」として用意されていた。
ワードローブの扉は半透明状で、閉めた状態でもスーツなどを掛けてあるかがわかる。ファーストクラスの引き戸が障子のように光を通す構造になっており、ビジネスクラスも同様のデザインコンセプトを引き戸やワードローブに採用している。
ファーストクラスでは以前から用意しているリラクシングウエアも、個室になったことでビジネスクラスでも用意。タオルメーカーUCHINOとコラボレーションしたものを貸し出す。シートだけでなく、サービス全体がファーストクラスに近いものにグレードアップしていた。
アメニティキットは福祉実験企業「HERALBONY」とコラボレーションし、契約アーティストがデザインしたさまざまな柄のポーチを用意。歯ブラシは脱石油由来プラスチック仕様の「MISOKA Bamboo 歯ブラシ」で、毛先に施された「ナノミネラルコーティング技術」により、歯磨き粉を使わずに毛先を水に浸けるだけで磨けるようにするなど、環境への配慮がテーマになっていた。
シートはコントローラーのボタンを長押しすると、そのままベッドポジションになる。従来のコントローラーは、ボタンを押している間だけ動作するタイプだったが、新シートはこうした操作性にもこだわった。シート自体も体圧分散構造のクッションを採用していて寝心地を良くしてあるが、客室乗務員に頼むと従来のビジネスクラスでも用意していた「エアウィーヴ」のマットレスが貸し出される。
フルフラットにしたシートの上にマットレスとシーツ、枕、掛け布団と寝具をセットし、個室のドアを閉めれば自宅の寝室のように過ごせる。足もとのスペースも、身長179センチの私が寝た限りでは、窮屈に感じることもなかった。
壁が高くなると、機内で圧迫感を感じるのではと気になっていたが、ビジネスクラスは中央のオーバーヘッドビンがないことで客室が広く感じられ、特に自席にいる分には個室感が高まるメリットを感じた。
また、Wi-Fi機器による機内インターネット接続サービスも、有料となるがスピードは速く、ネットのブラウジングには問題ないレベルだった。速度測定サイト「Speedtest」では、ダウンロードが3~9Mbps、アップロードは2.3~5.5Mbpsのスピードが出ていた。
めちゃくちゃ揺れてますがJAL A350-1000初便JL6便離陸時の機外カメラです。#JAL #A35K #A350 #JL6 #ビジネスクラス pic.twitter.com/49enj5HiOB
— Aviation Wire (@Aviation_Wire) January 24, 2024
私が自席(ビジネスクラス16G席)の個人用画面に映し出されたJL6便が羽田を離陸する機外カメラの映像をiPhoneで撮った動画(164MB)をX(旧Twitter)にアップできたので、相応のスピードは出ていると言えそうだ。しかし、さすがに100MB以上の動画データはすぐにアップロードできず、しばらく放置しているとアップロードが完了した、という状態だった。
電源関連は、電源コンセントとType-A/Cの充電用USB端子、ワイヤレス充電を完備。Type-C端子を備えたことで、汎用性が高いと言えるだろう。
軽食は画面で注文可能だが…
機内食のメインメニューは、和食が日本料理「蓮 三四七」の三科純氏、洋食がフランス料理「L’Effervescence(レフェルヴェソンス)」の生江史伸氏、ヴィーガンメニューをレストラン「No Code」の米澤文雄氏が監修した。
私は洋食のうち「牛フィレ肉のロースト ごぼうのソース・レフォール風味のじゃがいもピューレ」を選択。肉に塩がうっすらと利いているようで肉質も良く、おいしかった。オードブルは「帆立と甘海老のサラダ ラディッシュヴィネグレット添え」、デザートは「ヘーゼルナッツオペラ」で、メゾンカイザーが提供するパン「プチチャバタ」と「プチいちじくのパン」はオードブルで完食してしまったので、メインのタイミングでおかわりを頼んだ。
デザートが提供されたのが日本時間午後2時40分ごろだったので、出発から3時間以上が過ぎているが、まだフライトの残り時間が10時間ほどある。長距離国際線の場合、到着2時間前に出る2食目や、1食目と2食目の間の軽食があるが、A350-1000のファーストとビジネスは、個人用画面からこれらの食事をオーダーできるようになっていた。
私は食後にハーゲンダッツのアイス(キャラメル)とコーラ、その後の軽食で「ソラノイロ トマト香る担々ヌードル」を注文したが、坦々ヌードルは注文から提供まで1時間ほどかかった。客室乗務員に注文するよりも気軽なせいか、注文がひっきりなしに入っていたことや、システム上の問題なども時間がかかった理由のようだった。最後にカツサンドも食べたかったが品切れで、ハーゲンダッツのアイス(チョコレート)を代わりに頼んだ。
日本の航空会社では、近年健康志向の機内食が増えているが、個人的には暴飲暴食こそが長距離国際線の醍醐味(だいごみ)だと感じているので、今回のフライトも初志貫徹を心掛けた。一方、私の食生活とは無縁のヴィーガンメニューも試食したが、いわゆる「健康的=薄味」といったネガティブなものではなく、ヴィーガンメニューと言われなければ通常の洋食メニューと違いがわからないほど、味がしっかりしたおいしいものだった。
ヘッドホン不要の世界初内蔵スピーカー
個室タイプになったことに注目が集まるビジネスクラスの新シートだが、4K対応の24インチモニターに加え、世界初となるヘッドフォン不要のヘッドレスト内蔵スピーカーも目玉だ。
ビジネスクラスでは、オーディオテクニカと共同開発したノイズキャンセリング付きの有線ヘッドホン、乗客が持ち込むBluetooth接続のワイヤレスヘッドホンやイヤホン、座席内蔵スピーカーの3つからオーディオ環境を選択できる。
座席内蔵スピーカーは、かなり大きな音量に設定しても周囲に音が聞こえることはなく、くつろぎながら映画を楽しむにはうってつけだ。音質は低音の周波数帯をカットする「ハイパスフィルター」をかけたような感じで、音楽鑑賞よりは映画などをリラックスした姿勢で楽しむのに向いているようで、映画に音の迫力を求めるのであれば、ノイズキャンセリング付きヘッドホンが良いだろう。
いずれのオーディオ環境も、機内エンターテインメントシステム(IFE)で用意されている映像やオーディオのコンテンツを楽しむもので、可能であれば普段聞き慣れている楽曲でどのように違いがあるのかを確認したかった。
一方、A350は客室が既存機よりも静かになっており、無音ではないものの従来のフライトよりも疲れにくいと感じた。
◆ ◆ ◆
羽田を24日午前11時12分に出発したA350-1000初便のJL6便は、同41分にC滑走路(RWY34R)から離陸。目的地のニューヨークには、ジョン・F・ケネディ国際空港のターミナル8、18番スポットへ現地時間24日午前10時16分に到着した。
取材のため、約13時間のフライトはほとんど起きていたが、あっという間に過ぎてしまった。個室というわかりやすい変化に目が行きがちだが、半日を機内で過ごしても疲れにくいA350-1000の基本的な性能の高さが印象に強く残った。長距離国際線は率直に言ってファーストクラスに乗っても必ず疲れが出るが、A350-1000に世代交代することで、これまでよりもフライト時間の長さに依存する疲労は軽減されるように感じた。
客室乗務員のおもてなしや、過度な衝撃のないパイロットによる着陸など、乗らないとわかりにくい良さが多いのもJALのA350-1000によるフライトの特徴と言えるだろう。
次回は復路のプレミアムエコノミークラス編。くしくも就航が前倒しになった2号機(JA02WJ)のニューヨーク発初便が帰国便となった。
*復路のプレエコ編につづく。
早くもNY出発日になりました。JAL A350-1000初便JL6便JFK着陸時の機外カメラ映像です。着陸は1:05付近から。
00:00 巡航中
00:04 脚が出る
01:05 まもなく着陸
01:19 着陸
01:59 滑走路離脱
02:27 スポット進入
02:52 前方カメラに切替
02:54 尾翼カメラからPBB装着#JAL #A35K #A350 #JL6… pic.twitter.com/iZqt2MRCu3— Aviation Wire (@Aviation_Wire) January 26, 2024
運航スケジュール
JL6 羽田(11:05)→ニューヨーク(10:00)
JL5 ニューヨーク(12:40)→羽田(翌日17:15)
関連リンク
JAL国際線 AIRBUS A350-1000
日本航空
初便就航
・JAL、A350-1000就航 20年ぶり旗艦機刷新、豪華個室席で羽田-NY(24年1月24日)
・JALのA350-1000、羽田離陸しNYへ 新旗艦機13機で777-300ER更新(24年1月24日)
国内初公開
・JAL、A350-1000国内初公開 金の鶴丸掲げ個室ファースト・ビジネスお目見え(24年1月15日)
写真特集・JAL新旗艦機A350-1000
(1)ダブルベッドも可能な個室ファーストクラス
(2)個室内で完結する足もと広々ビジネスクラス
(3)後ろを気にせず電動リクライニングできるプレエコ
(4)4K13インチ画面エコノミーは快適さ追求
トゥールーズで初公開
・JAL、A350-1000初号機が羽田へ翼振り出発 19年ぶり旗艦機刷新(23年12月14日)
・JAL、新旗艦機A350-1000初公開 個室ファーストは天井広々、羽田-NY 1/24就航(23年12月14日)
A350-1000
・新旗艦機A350、JALはなぜ個室ファーストクラスを用意するのか 乗らないとわからないビジネスとの差(23年10月5日)
・【独自】JAL、国際線旗艦機を19年ぶり刷新 A350-1000、冬ダイヤ就航でCO2削減(23年1月1日)