IATA(国際航空運送協会)は現地時間12月6日、世界の航空会社による今年の純利益が233億ドル(約3兆4343億円)、純利益率は2.6%になる見通しだと発表した。前回6月に発表した98億ドルから大幅な上方修正となった。2024年は純利益が前年比10.3%増の257億ドル、純利益率は0.1ポイント上昇し2.7%になるとの予測で、旅客数はコロナ前を上回る過去最高の約47億人に達し、年間の総収入も過去最高を記録する見通し。
—記事の概要—
・他業界下回る利益水準
・PWエンジン問題は25年も影響
・アジア太平洋地域の純利益11億ドル
他業界下回る利益水準
ジュネーブで6日に会見したIATAのウィリー・ウォルシュ事務総長は「人々は旅行好きであり、そのおかげで航空会社はパンデミック前の水準に回復できた。2024年以降の見通しでは旅客と貨物ともに、これまでより通常の成長パターンが期待できる」と述べた。
一方、利益の水準について「航空業界の利益は、適切な視点に立つ必要がある。回復には目を見張るものがあるものの、2.7%という純利益率は、他のほとんどの業界の投資家が受け入れる水準をはるかに下回っている」と指摘した。
「航空会社は平均して乗客1人あたりわずか5.45ドルしか手元に残らないという事実から学ぶべきことがある。ロンドンのスターバックスでベーシックなグランデのラテを買うのには十分な金額だが、GDP(国内総生産)の3.5%が依存し、305万人が直接生計を立てている重要なグローバル産業にとって、ショックに強い未来を築くにはあまりにも少ない」と述べ、厳しい規制や高額なインフラコストなどが業界の大きな負担につながっていると訴えた。
2024年の総収入は前年比7.6%増の9640億ドルと、過去最高を記録するとみられ、営業利益は21.1%増の493億ドルを見込む。年間旅客数はコロナ前の2019年を2億人上回り、過去最高を更新する約47億人に達すると予想している。年間ロードファクター(座席利用率)は0.6ポイント上昇して82.6%となる見通し。
年間貨物量は5.2%増の6100万トンとなる見通しで、貨物収入は1110億ドルを想定。2021年の2100億ドルからは大幅に減少するものの、2019年の1010億ドルは上回ると予測している。
費用は9140億ドルと予想。2023年比6.9%増、2019年比15.1%増となる見込み。ジェット燃料価格は1バレル113.8ドルと予想し、総燃料費は2810億ドルを見込み、運航コスト全体の31%を占める。
PWエンジン問題は25年も影響
航空業界の年間CO2(二酸化炭素)排出量は、2024年は990億ガロンの燃料消費から9億3900万トンになると予想。代替航空燃料「SAF(サフ:持続可能な航空燃料)」の生産量は、航空会社の総燃料消費量の0.53%に増加する見通し。
航空業界が抱えるリスク要因については、ウクライナ情勢やイスラエルとハマスの軍事衝突は空域閉鎖による経路変更にほぼ限定されるものの、原油価格の上昇につながり、状況がエスカレートすると世界経済のシナリオが根本的に変わる可能性があるとして、航空業界も影響を免れないとの見方を示した。
また、エアバスA320neoファミリー向けのプラット&ホイットニー(PW)製エンジン「PW1100G-JM」の製造で生じた不具合による影響は、「残念なことに2025年のキャパシティに影響を与えることになりそうだ」(ウォルシュ事務総長)という。
アジア太平洋地域の純利益11億ドル
地域別でみると、アジア太平洋地域の航空会社は地域全体の純利益が11億ドル(23年は1億ドルの純損失)になると予測。有償旅客の輸送距離を示すRPK(有償旅客キロ)は前年比13.5%増、2019年比では1.4%減、座席供給量を示すASK(有効座席キロ)は10.6%増、2019年比では1.4%減を見込む。
好調な北米の純利益は144億ドル(23年は143億ドル)、欧州は79億ドル(同77億ドル)、中東は31億ドル(同26億ドル)を見込む。中南米とアフリカは純損失となる見通しで、それぞれ4億ドルの損失と予測している。
関連リンク
IATA
IATA
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