日本航空(JAL、9201)がエアバスA350 XWBを発注し、これまでの旅客機=ボーイング機という概念が変わり始めた。JALのA350導入は、エンジン面でも変化がある。A350が、JAL初のロールス・ロイス(RR)製ジェットエンジンの搭載機となるからだ。
A350のエンジンは、短胴型のA350-800から長胴型のA350-1000までの全機種に、RRが「トレントXWB」を独占供給。日本企業も三菱重工業(7011)や川崎重工業(7012)、IHI(7013)などが参画している。
RRは日本国内で新しい技術を発掘し、購入やライセンスを取得する「ジャパン・オープン・イノベーション(Japan Open INnovation: JOIN_RR)プログラム」を2012年6月から展開。日本の技術力に高い関心を示している。
一方で、日本企業は高い技術を持ちながらも、世界的な競争激化で自信喪失気味だ。今回から2回にわたり、来日した航空機エンジンメーカーの要人に、自社の計画とともに日本企業への要望を尋ねた。
第1回目の今回は、JALがA350の導入を発表した10月7日、国際会議で来日していたRRの研究技術部門でディレクターを務めるリック・パーカー氏に、トレントシリーズの優位性や将来のRRのエンジン、今後日本の産業界にどのようなことを求めていくのかを聞いた。
JALのA350導入「グッドニュース」
── JALがA350の導入を発表した。偶然にもあなたへのインタビューと重なった。
パーカー氏:グッドニュースだ。ずっと会議に出席していたので、あなたに言われて初めて公表されたことを知った(笑)。私たちのエンジンが、赤(JAL)と青(ANA)の両方に採用され、大変うれしい。JALの機体には、これまでRRのエンジンは選ばれなかったので、大きなことだ。
── すでにA350-900は初飛行に成功したが、JALも導入するA350-1000用エンジンの開発状況は。ひとつの基本設計で短距離用から長距離用まで、幅広いレンジの推力に対応するのは難しいのではないか。
パーカー氏:A350-1000用のエンジンはまったくの新設計ではなく、改良を加えたもの。まだ設計段階だが、進捗状況は非常に良い。
── 一方でボーイング機を見ると、777の後継機777X用のエンジンには選ばれなかった。
パーカー氏:我々も提案したが選ばれず、残念だった。
── トレントが他のエンジンと比べてもっとも優れているのは、どのような点か。
パーカー氏:3シャフト・アーキテクチャーに優位性がある。他社のエンジンは2シャフトなのでシャフトがより長く、ファンブレードを軽くしても重くなってしまうからだ。
RRの考える将来のエンジン
── 8月に川崎重工と新型のオープンローターエンジンを開発するという報道があった。
パーカー氏:将来的なものとして、研究段階だ。オープンローターがいつ市場に出るかは、まだわからない。
型式証明を取る上で問題があるかもしれない。たとえば、ファンのケースがないため、騒音が大きくなってしまう。ヨーロッパで風洞試験を実施した限りでは、A320用のエンジンと同程度だった。現在と同じ規制であれば問題ないが、将来規制が厳しくなる可能性もある。規制の方針が明確になるまでは、オープンロータータイプのエンジンには力を入れない方針だ。
川崎重工は、オープンロータータイプのギヤボックスをテストできる、世界でトップクラスの施設を持っている。
── より現実的なエンジンはどのようなものをRRは考えているか。
パーカー氏:ファンブレードやファンケースに複合材を用いたエンジンを開発しており、これらを製造する合弁会社に投資している。また、リーンバーンエンジンもテストする。
複合材を多用したエンジンは、15年度に飛行試験を行う。これが成功すれば、19年から20年には実際に運航することも可能だろう。カーボンファイバーは日本企業から調達するので、間接的に日本の利益にもなる。
RRと日本企業
── RRのエンジンで日本企業はどのような部分を担当しているのか。
パーカー氏:トレントXWBでは、三菱重工業と川崎重工業がリスク収益分担パートナー(RRSP)として参画している。例えば、三菱重工は燃焼器と低圧タービンブレードの設計と製造、川崎重工は中圧圧縮機の供給と組立を担当している。また、東芝とはセラミックのベアリングを採用したハブリッドギヤの分野で協力関係にある。複合材の分野では、繊維素材を供給しているのは日本の2社のみであり、重要なパートナーだ。
── 日本企業がエンジンの中核部分に参入するにはどうすれば良いか。
パーカー氏:日本の技術力は高い。三菱重工の燃焼の技術は非常に高いと思う。どの企業がどの部分を分担していくかは、常にオープンにディスカッションをしている。
── RRは日本の技術力を高く評価しているが、一方で日本企業は自らの技術を過小評価しているように感じる。
パーカー氏:日本企業はとてもイノベーティブだ。日本でイノベーション・フォーラムを開催した際は、中小企業40社を招いた。我々が抱える課題を話したところ、100以上の解決策が寄せられた。どれを採用するかの検討を進めており、今後、日本との協力関係は増えていくだろう。
今回出席したSTSフォーラム(京都市内で10月6日から8日まで開催)には安倍晋三首相も出席した。科学の力を信じている首相がいることは心強い。
── 日本の中小企業が自動車業界から航空業界を目指している。どういった技術に注目しているか。
パーカー氏:エンジンの性能を監視するシステムを考えている。監視システムを作るには、新しいタイプのセンサーが必要。日本企業には電子部品を求めている。たとえば、センサーの情報を無線を使ってエンジン内部でやりとりするといった技術だ。こうした日本の得意分野は、我々のニーズとマッチするのではないか。
── 日本企業とのパートナーシップで課題はあるか。
パーカー氏:大学との連携を、もっと強化したほうが良いのではないか。大学には知識を持った人がたくさんいるので、企業にとってもメリットがある。こうした面で、RRは積極的だ。以前日本の企業には、メリットがあることを説明したのだが……。米国の企業も、大学との連携はあまり積極的ではないと感じている。
── 機体メーカーに部品を供給するサプライヤーからは、儲からないという声を聞く。
パーカー氏:RRとしてはコストを削減して欲しいが、それを言うだけではなく支援したい。我々の研究センターを活用してもらうことなどが、コスト削減につながるからだ。
── 日本の次に成長するアジアの国はどこだと思うか。
パーカー氏:RRにとってアジアは市場としてもパートナーとしても重要。シンガポールの企業とは協力関係にあり、RRの新しい工場がある。韓国の存在も強いと思う。中国は小さな工場を2つ持っているのみだ。
── こうしたアジア諸国に対し、日本企業はどういう戦略をとるべきか。
パーカー氏:付加価値がキーだ。英国と同様、日本も生産コストが高いので、高付加価値でいくべきではないか。価値があるものには、人々はお金を落とす。安い賃金で作っても、価値がなければ誰も買わない。
たとえば、3Dプリントは日本が優れており、チャンスがあるのではないか。
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