三菱重工業(7011)は、国産初のジェット旅客機「三菱スペースジェット(旧MRJ)」の開発中止を2月7日に開く2022年度第3四半期会見で正式発表する。会見には泉澤清次社長の追加出席が決まった。本紙既報のとおり、事業の採算性が見込めないことから開発を断念し、開発子会社の三菱航空機は清算する。
*開発中止を正式発表。記事はこちら。
三菱重工は、スペースジェットの開発を2020年10月30日に「一旦立ち止まる」との表現で事実上凍結。国が機体の安全性を証明する「型式証明(TC)」を取得しても事業として成立が難しく、取得費用も今後数年間で数千億円規模と膨大になることが見込まれることから、開発断念を決めた。
スペースジェットの開発経験者は防衛部門に異動させ、試験設備は産業界での活用などを関係者と協議していく。
スペースジェットは、2008年3月27日に当時MRJ(三菱リージョナルジェット)として、持株会社化前の全日本空輸(ANA/NH)が最大25機を発注したことで事業化。メーカー標準座席数が88席の「MRJ90」と、76席の「MRJ70」の2機種で構成し、エンジンはいずれも低燃費や低騒音を特長とする、米プラット&ホイットニー製のギヤード・ターボファン・エンジン(GTFエンジン)「PurePower PW1200G」を採用した。
当初の納期は2013年だったが、その後2014年4-6月期、2015年度の半ば以降、2017年4-6月期、2018年中ごろ、2020年半ばと延期を重ね、2020年2月6日には6度目の延期が発表されて「2021年度以降」とされた。一方、発注している航空会社からは「“以降”だから、100年後でも納期遅れではないと言い張れる」といった諦めに近い言葉も聞かれた。
その後、2021年1月8日には、開発を中断して初の発注キャンセルが発生したと発表。この時点でのスペースジェットの総受注は267機となり、このうち確定受注は153機、オプションと購入権は114機になった。
ローンチカスタマーであるANAなどを傘下に持つANAホールディングス(ANAHD、9202)は確定15機とオプション10機の最大25機を発注。日本航空(JAL/JL、9201)は32機をすべて確定発注で契約しており、今後は各航空会社への補償などの対応も本格化するとみられる。
スペースジェットの試験機で、これまでに飛行したのは5機。初号機(登録記号JA21MJ)は2014年10月18日にロールアウトし、2015年11月11日に初飛行した。その後は2016年5月31日に2号機(JA22MJ)、同年9月25日に4号機(JA24MJ)、3号機は同年11月22日、設計変更を反映した通算10号機(JA26MJ)は2020年3月18日に初飛行したが、すでに3号機は日本国籍機としての登録は2022年3月に抹消され、機体は解体されている。
スペースジェットの開発で得た知見は、日本と英国、イタリアの3カ国で共同開発する次期戦闘機などに生かすという。また、これまでに少なくとも約500億円にのぼる補助金などの公的資金が投じられている点でも、泉澤社長自らの説明が必要と判断したようだ。
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