日本航空(JAL、9201)が10月7日に発表したエアバスA350 XWB導入。ボーイング777型機の後継機として、A350-900(メーカー標準仕様で3クラス314席)を18機、A350-1000(350席)を13機の計31機を確定発注した。オプション発注分の25機を加えると、最大56機導入する契約だ。
ボーイングが777の後継機として計画している777Xではなく、旧日本エアシステム(JAS)が合併前に導入したA300(退役済み)を除くと、JALとして初めてエアバス機を選定したことは、大きな話題となった。エンジンも、JAL初のロールス・ロイス製となる。A350のエンジンはロールス・ロイスがトレントXWBを独占供給しているからだ。
これまで国内航空会社の大型機と言えば、777の牙城であった。1980年代後半から導入された747-400に替わり、国内外の幹線には777が投入されてきた。JALの777は合計46機で、全保有機材の2割を占める。このうち22機を国内線、24機を国際線で運航しており、2019年から6年ほどかけて置き換えていく。
関係者の話を総合すると、最大56機となるA350の発注数のうち、半数近い25機をオプションとしたのは、今後購入の可否を判断するというよりは、A350-900と-1000のどちらを、どの時期に導入するかを柔軟に対応できるようにした意味が大きい。初号機を受領するまでの6年で、どのような環境の変化があるかわからないからだ。
幹線の主役である777と、次世代を担うA350。なぜ777が国内で大量導入され、A350をJALが採用したことで、今後どのような変化がみられるのだろうか。
日本と密接な777
JALの777は、最初の機体(777-200、登録番号JA8981)を1996年2月に、最後の機体(777-300ER、登録番号JA743J)は2009年10月に受領。46機を13年8カ月かけて導入している。中でも国内線用の777-200(15機)と-300(7機)は、多くが90年代後半に受領した機体なので、約20年という航空機の使用期間からみると、後継機へのバトンタッチが目前に迫っている。
777を国内の航空会社が大量導入した背景には、米国との関係以外に2つの大きな理由がある。1点目は、日本が機体製造で分担する比率が21%と、777を導入すれば国内の航空機産業に還元される面があった。日本の製造分担比率は、767では15%だったが777の21%を経て、787では35%まで高まっている。
2点目として、ボーイングと航空会社が共に機体の仕様を練り上げていく「ワーキング・トゥギャザー」制度に、JALと全日本空輸(ANA)が参加していたことも大きい。ANAは777と同クラスのエアバスの4発機、A340をオプション発注したものの、同制度参加によりキャンセルしている。
このように、777と日本の航空機産業や航空会社との結びつきは密接で、対米貿易赤字解消という政治的な側面のみならず、経済的に見ても導入が自然な流れだったと言える機体だ。
7月にアシアナ航空(AAR)がサンフランシスコで事故を起こすまでは、量産初号機が就航した1995年以来乗客の死亡事故がなかった機種であり、安全面でも折り紙付き。777は旅客機の千両役者と言えよう。
サプライヤーも1社依存脱却へ
一方で、導入が決まったA350は、エンジンを含めた日本の製造分担比率は12%となるものの、機体に限ると1桁台にとどまる。これはエアバス側がサプライヤーである日本企業の参入を阻んでいるのではなく、サプライヤー側が生産能力に限界があるため、ボーイング1社に絞ってきた経緯がある。
また、A350は短胴型のA350-800(270席)や標準型のA350-900が、787-9(250-290席)や787-10(300-330席)と競合する。このため、特に787関連のサプライヤーには、「競合する場合は1社しかやらない」という、日本人的なメンタリティーも働いているようだ。
経済産業省も、ボーイング1社に依存する体制はリスク回避を考えれば好ましくないとしている。JALのA350発注は、サプライヤーがよりリスクを抑えられる体制を構築できるかという点でも転機となる。
ボーイング自身の発注体制にも、変化が見られるかもしれない。かつては「頼れる親分」的な存在だった同社だが、787のプロジェクトが始まった2000年代中頃からは、サプライヤーへのコスト削減要求がかなり強まった。コスト削減そのものは業種を問わず求められるものだが、「787は儲からない」との声が漏れ伝わってくるほど、厳しい要求のようだ。
背景には原油高による航空会社からの機体調達費の削減がある。従来、日本のサプライヤーはボーイングに偏重していたため、無理な要求もある程度は付き合う必要があった。しかし、サプライヤー側がボーイングとエアバスを天秤にかけられるようになれば、コスト削減の要求はあるにせよ、多少は交渉の余地が出てくるのではないか。ボーイングも、より安価に部品などを調達したいとはいえ、長く付き合ってきたサプライヤーがエアバス寄りになるのは避けたいだろう。
A350導入を転機に
これまで100席以上の旅客機は、事実上ボーイングの1社独占だった日本。JALがA350を発注したことは、価格交渉や納入遅延リスクを考えれば当然の判断だ。
世界的にもボーイングとエアバスの2社に分散発注するのが主流で、ボーイング社の創立者ウィリアム・ボーイングが設立した「ボーイング・エア・トランスポート」を礎とするユナイテッド航空(UAL)でさえ、A350-1000を35機発注している。
JALがA350を発注し、同社の777が全機退役すると、日本の航空機産業に打撃があるとの見方もあるが、日本でのボーイングとエアバスのシェアが逆転しない限りは現実的ではない。
両社は今年1月から9月までの受注を見ても、ともに1000機を超えており、その中の56機に過ぎないからだ。日本のサプライヤーが担当しているのは、JALやANA向けの機体だけではないのは、言うまでもないだろう。現に、ボーイングの株価は今回の発表前後を比較しても、大きな値動きに至っていない。
今回の発注は、国内の航空会社の発注スタンスが変わる転機となるだけではなく、国内のサプライヤーにとっても大きな意味を持つものだ。
関連リンク
日本航空
Airbus
エアバス・ジャパン
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