全日本空輸(ANA/NH)は11月14日、特別塗装機「ANA Green jet(ANAグリーンジェット)」の2号機(ボーイング787-8型機、登録記号JA874A)を国内線に就航させた。初便の福岡行きNH253便は乗客237人(幼児2人含む)を乗せて羽田空港の59番スポットから定刻の午後0時30分に出発し、午後2時28分に着いた。ANAの国内線定期便では初めて代替航空燃料「SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)」を10%相当使用した。
—記事の概要—
・「水と緑」モチーフ
・2030年度までにSAFを10%使用
「水と緑」モチーフ
グリーンジェットは、サステナビリティ(持続可能性)をテーマにした特別塗装機で、国際線と国内線に787を1機ずつ投入。1機目の787-9(JA871A)は国際線仕様機で、10月5日の羽田発サンフランシスコ行きNH108便が初便となった。ANAによると、2機にはグリーンジェットとしての違いはなく、機体の大きさや国際線と国内線仕様の差だけだという。
環境の概念を表現する「水と緑」をモチーフにし、機体表面には「サメの肌」から着想したニコン(7731)の「リブレットフィルム」を試験装着。機内ではサステナブル素材を使ったヘッドレストカバーなどを採用した。
機体表面にサメの肌のようなざらざらとした「リブレット(鮫肌)加工」と呼ばれる特殊加工を施すことで、飛行中の空気摩擦抵抗を低減でき、結果的にCO2排出量や燃費改善につなげられるという。
機内では、環境に配慮した2種類の素材「ヴィーガンレザー」を使ったヘッドレストカバーを採用。ひとつは東レ(3402)の植物由来比率を世界最高水準に高めた銀面調人工皮革「Ultrasuede nu」を使ったもので、もう一つは青森産リンゴジュースの絞りかすを活用した合成皮革を開発するスタートアップ企業appcycle(青森市)の「RINGO-TEX」を採用した。
LEDによる照明はグリーンのライティングを用意。機内BGMは、豊かな自然を想像できるヒーリングミュージックを初めて採用した。また、客室乗務員は機体と同じく「水と緑」をモチーフにしたデザインのエプロンを着用する。
ANAグループの機体は青を基調としたデザインで、緑色を配した機体は2018年3月12日に運航を終えた特別塗装機「エコボン」以来、約4年ぶりとなった。14日は羽田-福岡線を2往復する。
ANAによると、グリーンジェットの運航期間は数年程度で、中長期的に環境関連の取り組みを中心に使用していく。対象機は機体の塗り替え時期などを考慮して選定したという。
2030年度までにSAFを10%使用
グリーンジェット2号機の初便で使用したSAFは、フィンランドに本社を置くNESTE(ネステ)社のものを使用。SAFは従来「バイオ燃料」と呼ばれていたもの。これまでの植物油などに加え、さまざまな原料から製造されるようになり、IATA(国際航空運送協会)が呼称を改めた。ANAはSAFの調達について、NESTEと2020年10月に提携。輸入や品質管理、空港への搬入までのサプライチェーンを伊藤忠商事(8001)と3社で構築し、同年11月6日から国際線定期便でSAFの使用を始めた。
NESTEが製造するSAFは、廃食油や動植物の油脂などを原料にしており、ジェット燃料の国際規格ASTM D1655とDEF STAN 91-091に適合しており、既存のジェット燃料と同じ安全性が確認されている。また、国際的な第三者認証機関ISCCによるライフサイクル評価で、原油の採掘や日本までの輸送を含め、既存のジェット燃料使用時と比べ約90%のCO2(二酸化炭素)排出量の削減効果が証明されているという。
SAFは世界的に生産量が限られ、価格は既存のジェット燃料と比べて3倍から5倍程度と高止まりしている。ANAは国や日本航空(JAL/JL、9201)などとともに国産SAFの実用化に向けた取り組みに参画しており、ANAグループとして2030年度までに消費燃料の10%以上をSAFに置き換え、カーボンニュートラルを2050年度までに実現する目標を掲げている。
ANAの経営戦略室エアアライン事業部GXチームの乾元英マネジャーによると、10%をSAFに置き換える目標を掲げていることから、今回のグリーンジェット2号機初便に10%相当のSAFを使用したという。「引き続き連携と課題解決を加速させたい」(乾マネジャー)と語った。
ANAが最初にSAFを使用したのは、10年前の2012年4月17日に羽田へ到着した787-8(JA808A)のデリバリーフライト。既存のジェット燃料にSAFを15%混合し、シアトル近郊にあるボーイングのエバレット工場から太平洋を横断した。乾氏によると、現在はデリバリーフライトではSAFを使用していないが、国際線定期便で継続的に搭載しており、グリーンジェット2号機では商業規模で生産されたSAFの国内線定期便の初使用に至ったという。
*写真は18枚。
関連リンク
ANA Future Promise(全日本空輸)
全日本空輸
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グリーンジェット
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