エアライン, 機体, 解説・コラム — 2013年9月14日 12:00 JST

「絶対に良い飛行機にしてやる」特集・Q400を鍛え直した男たち(1)

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 「きたえた翼は、強い」。かつて放映された全日本空輸(ANA)のCMにあったコピーだ。ボーイング787-8型機や三菱航空機MRJのローンチカスタマーとなるなど、新機材導入にも意欲的だ。

 そのANAが鍛え直した機体がある。ボンバルディアQ400型機(74席)だ。かつてのデ・ハビラント・カナダ社が開発した双発ターボプロップ機DHC-8の改良型で、ANAでは2003年に導入。現在は21機が伊丹空港などを基点として、地方路線に導入されている。

 Q400は日本航空機製造YS-11型機で運航していた路線を近代化する機材として導入されたが、ある事故をきっかけに“欠陥機”とみられるようになる。一時は社内から運航取り止めの声さえあがった同機だが、今ではボンバルディア社の定時性表彰を12年度まで6年連続で受けるなど、運航品質の高い機体として、地方路線を支えている。

 今でこそ定時性を誇れるようになったQ400。この機体を鍛え直したANAの男たちは、どんな問題に直面し、どう解決していったのだろうか。(文中敬称略)(第2回はこちら

伊丹空港を出発するANAウイングスのQ400=13年8月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

1時間弱ならジェット機と遜色ない

ボンバルディアから贈られた6つの定時性表彰トロフィーとQ400の模型を手にするANAウイングスの泉社長=13年8月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 現在ANAの執行役員で、Q400を運航するANAウイングス社長の泉弘毅は、若き日にはロッキードL-1011型機「トライスター」の整備に携わっていた。ANAがQ400を導入した03年は、企画室(現ANAホールディングス企画部)に在籍。その後04年から06年は部品購入などを担う部署、07年から09年は機体修理の計画、10年から12年は伊丹でQ400の重整備を行う子会社へ出向と、「何らかの形でQ400に関わっていた」。

 機材選定で重要な役割を果たす企画室だが、導入当時の泉は直接の担当ではなかった。Q400が選ばれたもっとも大きな理由のひとつは、住宅地に囲まれた伊丹への導入のため、ジェット機よりも静音性に優れたプロペラ機だったのでは、と泉は指摘する。数社の機体からコストや性能のバランスで選ばれたのがQ400だった。

 「YS-11のころと違い、現在運航している1時間弱の路線であれば、Q400はジェット機と変わらない時間で飛ばせる」という。

 一方で、今でこそリージョナル機の雄となりつつあるボンバルディアも、当時はANAが普段付き合いのあるボーイングやエアバスといった巨大メーカーと比べると、町工場がそのまま大きくなったような感じだったようだ。それ故、ANAが運航するジェット機とは違った苦労があった。

自分たちで改善策提案

 07年3月にQ400は高知で胴体着陸事故を起こす。着陸時に前脚が出ず、機長は主脚のみでの着陸に成功し、乗員乗客にけがはなかった。機長の腕前は賞賛されたものの、機体の信頼性は大きく揺らいだ。事故調査結果では、機体製造時の問題だったことが判明したが、事故前から機体の不具合が起きていたことも拍車をかけた。

 「高知の事故以前から、足回りには苦労していた」と泉は振り返る。降着装置以外にも、ジェネレーター(発電機)やディアイシング(除氷)関係で手を焼いたという。当時は部品を手配する部署にいた泉は「機体にたくさん付いているディアイシングのバルブは、かなり購入したつもりだったが、在庫が間に合わないくらいだった」と話す。部品の在庫がない時は、伊丹にスタンバイしている予備機や、整備中の機体から確保するなど、手配に奔走したという。

 ANAではボンバルディアだけに任せることなく、自分たちで部品の改善策を提案していった。通常部品の不具合を指摘しても、メーカー側は検査時に規定をクリアしていれば出荷してくる。そこでグループ会社が不具合を突き止めて、具体的にどう改善して欲しいかを示して品質改善を繰り返していった。

 「今春からANAウイングスの社長になって不具合事象を見ているが、ほとんど出ていない。当時の改修が効いていて、昔なじみの深かった不具合はない」と胸をなで下ろす。

運航を止めようという声も

 「Q400の運航を止めようという話は何回も出た。執念に近いもので、絶対に良い飛行機にしてやるという気持ちになった」。こうした空気が、不具合が重なった時期の社内にはあったと泉は語る。

 機体製造時の問題は確かに機体メーカー側の問題だ。しかし、機体を受領する際の、航空会社側の検査態勢も問われる。そこでANAでは製造段階から検査を厳しく行うことで品質改善をボンバルディアに迫っていった。

 ANAでは2005年9月から駐在員を派遣。機体受領時の検査を行う領収検査員も他の航空会社では例を見ない増員をし、態勢を強化した。

 その駐在員として泉が「交渉能力が高い人」と評する、ある人物が特命を受けてボンバルディアへ向かった。(つづく

関連リンク
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