9月から機内食や寝具などの機内サービスを刷新する全日本空輸(ANA)。同社が機内サービスを大きく見直すのは、国際線ビジネスクラスに全席通路アクセスが可能なスタッガードシートを導入した2010年4月以来だ。
この時はシートの見直しを中心に置き、機内食や寝具を変えたが、今回は「食べる・飲む・くつろぐ・楽しむ」といった、乗客が過ごす空間としての価値を高めることを重視した。
3年半弱でのリニューアルは、機内サービスでは短いサイクルだ。競争が激化する世界の航空会社のなかで、どのような点に注力したのだろうか。
日本にゆかりある“目利き”
機内食は総勢24人の“目利き”が国際線の食事と飲み物、国内線プレミアムクラスの食事をプロデュース。「その道を究めた目利き」を意味する「コノシュアー」を冠した「ザ・コノシュアーズ」は、10人の著名シェフと5人のお酒やコーヒーの専門家、9人のANAシェフからなるチームで、日本や日本にゆかりが深い人が選ばれた。
懐石「辻留」の京懐石や人気高級フランス菓子店「ピエール・エルメ・パリ」のクロワッサンなどをファーストクラスで用意。ANAのCS&プロダクト・サービス室 商品戦略部の室園幸志さんは、「ピエール・エルメ氏が最初に出店したのは、パリではなく日本なんです。1997年にホテル・ニューオータニに出店し、その後パリで名声を得ました」と、エルメ氏と日本との関係を説明した。
今回の機内食では、精進料理も登場する。素材の持ち味が勝負の精進料理は、ヘルシー志向の欧米人にも人気で、メニューを担当する「らかん亭」の顧客には米国のVIPも多いという。
酒類では、ウイスキー「サントリー響 21年」をファーストクラスで用意。日本人ならではの細やかな配慮で完成されたウイスキーを、海外や日本の人に知ってもらいたいと、室園さんは選定理由を話す。
また、洋食メニューはフレンチだけではなく、イタリアンも登場する予定。中国線では10月の国慶節のタイミングで、モダンチャイニーズを提供する。「日本のチャイニーズはおもしろいね、と言っていただければ」と室園さん。
欧米線では、食器も新たなものにする今回のサービス刷新。しかし、どのシェフがいつ、どのようなメニューを提供するかは、9月から11月分のメニューしか発表していない。次が誰のメニューになるかも、楽しみにして欲しいという。
くつろぎを全面見直し
機内食と共に見直す、国際線ファーストクラスとビジネスクラスの寝具は、1566年創業の寝具メーカー東京西川と共同開発したものを用意。室園さんは「枕・マットレス・布団・パジャマと、機内でくつろぐものを全面的に見直しました」と話す。
西川は睡眠に関する研究所を持ち、湿度が低く静電気が多いなど、機内の環境に適したものをANAと共同開発した。ビジネスクラスのマットレスは、96%が空気層のものを採用し、軽量でコンパクトな上、蒸れないものに仕上げた。室園さんは「何かの部材が変わったのではなく、くつろぐ時間を変えました」と意気込む。
ANAは今年、英国の格付け会社スカイトラックスの5つ星を獲得。「5つ星を取っただけのことはある、と言っていただけるサービスを提供したいです」(室園さん)。
9月からの機内サービス刷新に先駆け、ブランドコンセプトを表す「インスピレーション・オブ・ジャパン(IOJ)」のロゴをデザインした機体の初号機を、8月24日から就航させる予定。ANAは2010年4月からIOJをプロダクトサービスを指す言葉として使ってきたが、今回はANAが目指す全体のブランドコンセプトに再定義した。
機体デザインでは日の丸のサイズも大きくし、日本の航空会社であることを海外でもわかりやすくする。機内食や寝具などを通して、日本の技術だから生まれる製品や日本の心を、日本の航空会社として堂々と出していきたいという。
今回のリニューアルは第1弾。今後他のクラスなど、見直しを順次進めていく。
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全日本空輸
【お知らせ】
写真を追加しました。(2013年8月11日 5:33 JST)