エアライン, 解説・コラム — 2022年1月11日 06:00 JST

「スマホの中の方を引っ張り出せた」特集・ピーチ「旅くじ」担当者が考える新しい旅

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 今年3月で就航10周年を迎えるピーチ・アビエーション(APJ/MM)。昨年2021年は行き先を選べないカプセル型自販機「旅くじ」がヒットし、8月から第1弾の大阪・心斎橋PARCO、10月から渋谷PARCO、11月から名古屋PARCO、12月からは福岡PARCOと各地に展開し、成田着と関西着便で機内販売も始めた。

 しかし、旅くじを始める前の社内の雰囲気は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響による度重なる減便もあって明るいものではなかった。

旅くじを企画したピーチの小笹俊太郎ブランドマネージャー=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「押さえつけていたものがスパークしたというか、横にいる人も楽しめて、クスッと笑ってもらえるものですね。周りからも『ピーチは楽しそうなことをやってるね』『ピーチらしいね』と言っていただけるようになり、社員が自信を取り戻したり、気持ちが上向きになる一助に少しはなったと思います」と、旅くじを企画したピーチの小笹俊太郎ブランドマネージャーは話す。

 当初は社員が手作業でカプセルを詰めていたが、軌道に乗ったことにより社外で対応するようになった。スタート当初は「本心で期待していませんでした」と笑う小笹さんに、旅くじがもたらした効果を聞いた。

—記事の概要—
お得感は狙っていない
スマホの中からリアルな旅へ
変わる働き方と旅

お得感は狙っていない

 旅くじは1回5000円で、5000円以上の航空券を購入できる「ピーチポイント」の交換コードとオリジナルの缶バッジがカプセルに封入されている。行き先は選べないが、指定区間の往路と復路いずれも利用できる。

渋谷PARCOに設置されたピーチの「旅くじ」=21年10月13日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 しかし、安く旅行してもらおうという“お得感”を狙ったものではない。お得感は国内線全線が1カ月間乗り放題になる「Peachホーダイパス」や、値ごろ感を出したセールを展開しており、旅くじには別の狙いがあった。

 小笹さんは「遊び心が一番のキーワードだと思います。『旅行っていいよね』とか、『こんな時だからこそ笑っていたい』といった気持ちになっていただければと思います」と、コロナで旅に出にくくなった今こそ、意外な土地へ旅に出る楽しさや、リアルなコミュニケーションにつながって欲しいという。

 交換コードの有効期限は約半年間だが、期限までに予約すればその時点で販売している有効期限以降の航空券も購入できる。例えば5月末が交換期限であっても、その時に購入できる航空券であれば秋になってから旅に出掛けることも可能だ。

スマホの中からリアルな旅へ

 2021年もまもなく終わる12月14日、旅くじは4カ所目となる福岡PARCO(福岡パルコ)でも販売が始まった。午前10時の開店時には80人以上が並び、20代の若者だけでなく、年配の人たちも列を作っていた。

福岡PARCOで最初に旅くじを購入した大学生の小松己知斗さん(中央右)と記念撮影するピーチの小笹俊太郎ブランドマネージャー(同左)ら=21年12月7日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 しかし、小笹さんは8月に心斎橋で旅くじをスタートさせた際、各地に展開するようになるとは思っていなかったという。「本心で期待していませんでした(笑)。『そろそろ旅行に行きたいよね』『行き先を決められるのはイヤだけどね』といったお客さまとの会話が生まれればいいなと思っていました」と振り返る。

 「皆さんに注目していただいたことで、旅くじをきっかけにお話しする機会が増えました。飛行機を10年飛ばしてきて、ネットでのコミュニケーションも多い会社ですが、生身の人同士の会話からお客さまの思いを伺ったことは、私たちの励みになったり、勉強になることがいっぱいあったので、こういうアクションを起こして良かったとスタッフとも話しています」。

 旅くじがブレークした要因の一つは、若者たちがSNSで話題にしたことだったが、結果としてリアルなコミュニケーションを活性化することにつながった。

渋谷PARCOに設置されたピーチの「旅くじ」自販機で購入したカプセルから取り出す初来店者の大学生の井出千愛さん=21年10月13日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

渋谷PARCOに設置されたピーチの「旅くじ」に並ぶ来店客=21年10月13日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 実際に旅くじを利用している人はどういう人たちなのだろうか。「やっぱり20代の方が結構たくさん動いてくださっています。あとは今までピーチをご利用になっていなかった方たちで、ありがたいですね」と、20-30代の女性をコアターゲットとしてきたピーチの客層も広げている。

 そして、航空・旅行業界がコロナ前から課題としてきた若者の旅行離れに歯止めを掛ける対応策の一つにもなった。「巣ごもりして、スマートフォンをスワイプして、ゲームでガチャに課金したりしていたと思うんですよね。そこにSNSで旅くじの話題が回ってきて、僕も行こうかな、という若い方が外に出てくれたのかなと思います。スマホの中にいらっしゃった方を、少しは(旅に)引っ張り出せたのかな、そういう効果も少しはあったのかな、と感じています」と、旅くじがネットからリアルへの橋渡し役を担った。

変わる働き方と旅

 コロナの影響が本格化して、まもなく2年が過ぎようとしている。一方で、ビデオ会議ツールの普及やテレワークの浸透といった働き方の変化にもつながった。

「スマホの中にいらっしゃった方を少しは引っ張り出せたのかな」と話すピーチの小笹俊太郎ブランドマネージャー=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「コロナはネガティブな問題がいっぱいありますが、ポジティブに考えるのであれば、テレビ会議やワーケーションのスタート地点にはなったと思います。企業が制度を新しくしたり、働き方もどんどん変わってくると思うので、気軽に動けることがその後の人生をどう変えていけるかといったところも、しっかりと寄り添ってチャレンジしていきたいですね」と、コロナ後の人々の生活の変化を見据えた提案を考えている。

 旅くじは米国や台湾、韓国、ルクセンブルク、ドイツ、イタリアなど、ピーチが就航していない国でも話題となり、小笹さんも「ピーチの名前がこれだけ海外に飛ぶことは、これまであまりなかったです」と反響の大きさに驚いている。

 国内でも、まだ旅くじを展開していない地方から“誘致”の話が出たり、企業からもコラボしたいという問い合わせがあるという。

 「こういう時だからこそ、みなさんの気持ちをスッと解放するような良いアイデアが出せたらいいなと思います」と、旅くじは若者をスマートフォンから引っ張り出すだけではなく、新たなサービスを生み出すきっかけになりそうだ。

関連リンク
Peach SHAKE LABO
ピーチ・アビエーション

旅くじ
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