新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で大きく落ち込んだ国内線の旅客需要は、年末年始にはコロナ前の2019年比で9割程度まで回復した。一方で、オミクロン株の影響が懸念され、2021年度末に向けては回復のペースが落ち込む可能性が出てきた。
全日本空輸(ANA/NH)と日本航空(JAL/JL、9201)の大手2社は、国内線機材の客室仕様を当初は2020年夏に開催予定だった東京オリンピック・パラリンピックを念頭に、2019年から大きく刷新している。コロナの影響で計画が後ろ倒しになったものの、ANAもボーイング787型機就航10周年となった2021年には787-9の新仕様機を就航させ、オリンピック前に両社が計画していた主力機は出揃った。
ANAやJALなどFSC(フルサービス航空会社)の旅客需要の本格的な回復は、国際線が戻る2024年ごろと見られているが、国内線は一進一退を繰り返しながらも徐々に戻っていくとみられる。両社の国内線機材の今をまとめた。
—記事の概要—
・個人用モニターや電源完備
・ファースト/プレミアム
・クラスJ
・普通席
個人用モニターや電源完備
両社とも新しいコンセプトの客室を導入したのは2019年。JALがエアバスA350-900型機を9月1日、ボーイング787-8型機を冬ダイヤ初日の10月27日に投入した。ANAはボーイング777-200ER型機を11月16日に、787-9は2年後の2021年12月9日に就航させた。
JALはA350と787で、ANAは777と787で同じタイプのシートを採用。ANAは導入時期の違いで普通席のモニターが787のほうが大型化しているが、基本的な仕様は同じだ。いずれも全席に個人用モニターや電源コンセント、充電用USB端子を備え、Wi-Fiによる機内インターネット接続サービスを提供している。
座席数は、JALのA350は標準のX11仕様が3クラス369席で、ファーストクラスが12席(2-2-2席配列)、クラスJが94席(2-4-2席)、普通席が263席(3-3-3席)。繁忙期などを念頭に普通席を増やしたX12仕様は3クラス391席で、ファーストクラス12席、クラスJ 56席、普通席323席と、JALの国内線機材ではもっとも座席数が多い。
JAL初の国内線用787となった787-8のE21仕様は3クラス291席で、ファーストクラスが6席(2-2-2席)、クラスJが58席(2-3-2席)、普通席が227席(3-3-3席)。シートの基本仕様は、A350のものを踏襲し、ファーストが2-2-2席配列の1列6席、クラスJが2-3-2席配列の1列7席、普通席が3-3-3席配列の1列9席となった。
ANAの777-200ER新仕様機は座席仕様(コンフィグ)が「722」と呼ばれ、座席数は2クラス392席。プレミアムクラス28席(2-3-2席)と普通席364席(3-4-3席)で、プレミアムが7席増えて普通席が20席減った。ANAの777は長距離国際線用の777-300ERを除き、日米でファンブレードに不具合が起きた米プラット&ホイットニー製エンジンPW4000を搭載している関係で、現在は運航から外れている。
ANAの787-9国内線新仕様機「78G」は、同社の787では初めて米GE製エンジンを搭載。座席数は2クラス375席で、プレミアムクラス28席(2-2-2席)、普通席が347席(3-3-3席)とプレミアムクラスが10席増えた。
ファースト/プレミアム
JALのファーストクラスは、日本の航空機内装品メーカーのジャムコ(7408)と共同開発。15.6インチの個人用モニターや大型テーブルを備える。座席は電動で操作でき、振動式のマッサージ機能も導入。大型シェルと隣席とのディバイダー(間仕切り)により、個室空間を目指した。
A350と787とも1列当たりの座席数は2-2-2席の計6席。シートピッチは53インチ(約135センチ)で、座席幅は約51センチとなる。客室は「日本の伝統美」を表現したデザインを採用し、手荷物収納棚(オーバーヘッドビン)は大型のものを備えた。
ANAのプレミアムクラスは、サフラン・シート・US(旧ゾディアック・シート・US)製シートを採用。表面を現行の革張りから布地に変更することで、滑りにくくした。個人用モニターは15.6インチで、大型テーブルはノートパソコンや機内食のトレーを置いたまま離席できるよう、90度回転する機構を採用した。座席間には固定式大型ディバイダー(間仕切り)を設置し、プライバシーを確保している。
1列当たりの座席数は、777が2-3-2席の計7席、787が2-2-2席の計6席。座席幅はクラス最大となる56センチで、777の3人掛け中央のみ52センチとなる。777と787は座席数を除き同じシートで、国際線用777-300ERの新仕様機と連続性のあるデザインコンセプトを取り入れており、照明がLEDの787はよりモダンな客室に感じる。
クラスJ
JALのみ設定がある中間クラスのクラスJは独レカロ製。初搭載の個人用モニターは11.6インチで、シートのカラーは従来ブラック1色だったが、背もたれ上部をワインレッドに取り入れ、ツートンカラーとした。
位置や角度が調整可能な新機構のレッグレストを導入。モニター下部の小物入れやポケットに加え、ひじ掛け下にもiPad miniを念頭に置いた収納スペースを設けた。また、折りたたみ式テーブルを出さなくてもドリンクを置けるよう、大型カクテルトレイを設け、個別の読書灯も備えた。
1列当たりの座席数はA350が2-4-2席の計8席、787が2-3-2席の計7席。シートピッチは38インチ(約97センチ)、座席幅は48センチとなる。
普通席
JALの普通席は独レカロ製で、10インチの個人用モニターを備える。ヘッドレストは位置調節が細かくできるものを採用した。
A350と787とも1列当たりの座席数は3-3-3席の計9席。シートピッチは31インチ(約79センチ)、座席幅は41から44センチとなる。
ANAの普通席はトヨタ紡織(3116)との共同開発で、個人用モニターは最前列席(10.1インチ)を除き777が11.6インチ、787が13.3インチ。背もたれのフレーム形状を最適化したり、座面を低くすることで、大柄な人から小柄な人まで、どのような体格の人が座ってもフィットする着座感を実現し、テーブルのカップホルダーはクローバー型にすることで、紙コップを取り出しやすくした。
1列当たりの座席数は、777が3-4-3席の計10席、787が3-3-3席の計9席。シートピッチやシート幅も踏襲したという。ANAの他機種では31-32インチが一般的となっている。
◆ ◆ ◆
両社とも新しい国内線の客室仕様では、全席に個人用モニターと電源コンセント、充電用USB端子を設けている。機内でスマートフォンやノートパソコンを使う環境も整っており、今後利便性の面で課題になるとすればUSB端子の形状がType-Aであることだろうか。
すでにJALの737-800のクラスJ新シートでは、最近のスマートフォンなどで採用が進むType-Cと、従来からのType-Aをペアにしたものを採用している。また、テーブルの安定性などの使い勝手も、座り心地と並んで改良が進むのではないだろうか。
写真特集・JAL A350-900公開
(1)ファーストクラスはゆとりある個室風
(2)クラスJは新レッグレストで座り心地向上
(3)普通席も全席モニター完備
(4)大型モニター並ぶコックピットや落ち着いたラバトリー
写真特集・JAL 787国内線仕様機
(1)1便6席のファーストクラス(19年10月22日)
(2)クラスJも個人用モニター・電源完備(19年10月29日)
(3)普通席も全席モニターと電源完備(19年11月3日)
(4)ギャレー配置工夫で座席数最大化(19年11月24日)
写真特集・ANA 787-9国内線新仕様機
プレミアムクラス編 15.6インチ大画面と落ち着いた客室
普通席編 フィット感追求した全席画面・電源付きシート
写真特集・ANA国内線777新シート
プレミアムクラス編 15.6インチモニターと落ち着いた空間
普通席編 骨盤支えて疲れにくい全席画面・電源付きシート