全日本空輸(ANA/NH)と豊田自動織機(6201)は3月30日、羽田空港で自動運転の電動トーイングトラクターの実用化に向けた実証実験を報道関係者に公開した。貨物の搭降載などを担うグランドハンドリング(グラハン、地上支援)の人材が少子高齢化などで全国的に不足する中、省力化に向けた検証を進め、今年10月に実際の運航便での試験運用、2025年には無人運転の実用化を目指す。
トーイングトラクターは、貨物コンテナを乗せた「ドーリー」と呼ばれる台車などを空港内で牽引(けんいん)する車両。今回の自動運転の区分は、運転席に運転者が座り緊急時などに運転者が操作できる「自動運転レベル3」で、羽田空港の西貨物上屋から407番スポット(駐機場)を経て西貨物上屋に戻る1週約3キロのコースを、最大時速15キロで走行した。
ANAと豊田自動織機は、2019年2月から佐賀空港と中部空港(セントレア)で自動運転トーイングトラクターの実用化に向け、実証実験や試験運用を重ねてきた。今回はANAが乗り入れる国内空港では最大の羽田空港で、実運用と同じ6両のドーリーを牽引し、橋やトンネルなど空港内の坂道も走行できる新開発のトーイングトラクターを初めて使用した。
ドーリーには1両あたり200キロのおもりを載せ、羽田で平均的な積荷の重さを再現。豊田自動織機によると、積荷が最大重量であっても、空港内の坂を走行できるという。また、羽田の最高速度は牽引ありの場合が15キロ、牽引なしが30キロとなっており、今回の走行速度はこの制限に基づいたものになっている。
新型のトーイングトラクターは、交通量の多い羽田空港でも自動運転を実現するため、高精度衛星測位(GNSS)用アンテナや3D-LiDAR(対象物にレーザー光を照射する3次元センサー)、ジャイロ、路面パターンマッチング用カメラを搭載し、複数のシステムでトーイングトラクター自身が走行位置を把握できるようにした。また、障害物センサーとして3D-LiDARと2Dレーザースキャナーを備え、近距離から遠距離までをカバーできるようにした。
今回の衛星測位システムは、RTK(Real Time Kinematic:リアルタイムキネマティック)測位を使用。空港内にあるANAのエンジンメンテナンスセンターにアンテナを設置し、走行位置の精度を高めた。
運転席は豊田自動織機が開発した樹脂ウインドウを採用することで、デザイン性や軽量化、運転席からの視野を向上させた。現在は安全性を優先してセンサー類を多めに搭載しているが、今後の実証実験で統合や削減が可能かを検証していき、車両価格の低減につなげていく。
現在羽田にはANAのトーイングトラクターが200台弱ある。ANAによると、半分程度が自動運転できるようになると、導入効果が見込めるようになるという。実証実験は3月29日から4月2日までで、大規模空港での運用に向けた技術面の課題を洗い出し、10月に実運航便での試験運用と、2025年の実用化につなげる。
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